君と花火と黒金魚

猫足ルート

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どこにいるんだろう。
ナオは、「5時に境内で」と言ったが、境内は広い。
ナオは携帯を持っていないから、連絡がつかない。
そして、祭が一番盛り上がる三日目なので人が多い。
とりあえず、一昨日も待ち合わせした賽銭箱前にいる事にする。
何もせずに賽銭箱の前に突っ立っているのもアレなので、俺は財布を開けて小銭を探す。
五円玉がない。
金額が同じならいいよな。
五枚の一円玉は、軽い音をたてて賽銭箱に滑り込んだ。
ついでに何か願い事もしておこう。
「……一円玉五枚と五円玉一枚、ご利益に差はあるだろうか。」
へ?


振り向いた瞬間、女かと思った。
紫のような、藍色のような落ち着いた色合いの布地に、和風の花柄。
そして白く細い手には、巾着袋。
いきなり俺に声をかけてきたのは紛れも無くナオなのに、その姿はいつもと違った。
……浴衣?
仁平ではない。
「う。やっぱり変だよな。洋服にする、着替えてくる!」
俺が咄嗟に声を出せないでいると、ナオは俺に背を向けて、石段を駆け降りようとする。
「いや、っおい!ナオ…っ!」
つい、その、浴衣の襟を掴んでしまい、ナオがバランスを崩す。
ナオが後ろに倒れ込むように、俺が抱き抱えるような体勢になってしまう。
一瞬、何が起こったのか分からず、不思議そうな目で俺を見上げたナオは、でもすぐに立ち上がった。
「ごめん」
「いや、別にっ。悪いのは俺だし。」
さっき見上げてきた顔が、いつものナオじゃないように思えて、妙に焦ってしまった。
なんというか、その、……艶やか?
色気みたいな?
ちょっと待て、俺。
今、なぜ、フツーに、「色気」なんて単語が出てきたんだ?
おかしいだろ。
ナオが、浴衣なんて着ているから、脳が錯覚したらしい。
「なんで浴衣なんだよ?」
俺は、普通に聞いたつもりだったが、ナオは批判に捕らえたらしい。
「父さんが、普段から浴衣着てて、お前のもあるからって、いや、何でもない!
一度家に戻るから、待っていてくれ。」
「いやいやいや、戻らなくていって。別に、祭だから浴衣でも構わないし、似合ってると思うし」
率直な感想を述べた。
初めは驚いたが、こう見てみると、ナオは、仁平っていうより、浴衣で当たり前な感じがするから不思議だ。
「…………ありがとう」
今日はなんだかナオが素直に思えるのは気のせいだろうか。
「いこうぜ、屋台」
「うん」


一回目なのに、ナオの金魚入れには既に金魚が5匹。
まだ網は破れていない。
「金魚掬いまで制覇するなんて、ナオは夜店マスターだな。」
「そんな称号、要らない。」
そういいながらも、ナオは嬉しそうに金魚を追い詰める。
ふと見た横顔には、なんだか意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
金魚相手に大人気ない。
まぁ、そんなナオに負けたくなくて、掬いまくっている俺も俺だけど。


一昨日と同じく、いろんな屋台を回って、花火までの時間を潰した。
ナオはくじ引きで、2等のうさぎのぬいぐるみを当てていた。
うさぎの背中に肩掛け紐がついている、リュックサック型になっているアレだ。
俺は残念賞のうさぎ型消しゴムだった。
なんでそんなうさぎばっかりのくじ引きをしたんだろう。
ナオは、そのぬいぐるみを俺にくれようとしたけど、俺は受け取らなかった。
そして、ナオに教えてあげた。
くじ引きで何か大きな物を当てたら、背負うのがマナーだと。
俺の言う事を真に受けたナオは、それを背負った。
浴衣のナオが背中にうさぎ。
有り得ないと言えるほどの組み合わせで、俺がつい携帯で写真をとったら、ナオは怒った。
結局、ナオはそれを手に持って歩き回った。
いや、またそれが、なんというか……可愛かった。
小さな子供がするように、ぬいぐるみの片手だけを持っていたのだから。
まぁ、いくら俺でも、耳や首を引っつかんで持つのには抵抗があるけどさ。
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