五が丘の女探偵

姉川ゆきね

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探偵の秋休暇

昼食とキラキラ

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「誰のアリバイも崩せず、二冊の台本の謎は解けないままか……」
 根津さんが言った。
 私たちはラウンジで吉澤さんと村松さんの話を聞いたあと、自分たちの部屋に戻って証言を整理することにしたのだ。
「全員が一緒にいる状況で、犯人はどうやって殺害したのかしら」
 私が言った。
「飯山さんと絋一郎さんは倉庫に行ったけど、二人ともアリバイを証明し合ってる。そして、二人にはかばい合う理由もない。行き詰ったな」
「やっぱり現場を見る必要があるわね」
「津村さんの部屋はもう見ただろ」
「違うわよ。カラオケルームと倉庫よ。あとでカギを貸してもらいましょう」
 そのとき、部屋の電話が鳴った。フロントとつなぐ電話である。
 私は電話を取った。相手は絋一郎さんである。
「竹井様、昼食のご用意ができました。食堂へお越しください」
「わかりました。すぐに行きます」
 
 私と根津さんは食堂に入った。ほかのみなさんはもう揃っている。
「うわー! 美味しそう!」
 テーブルにはナポリタンが用意してある。まだ湯気が立っている状態だ。
「あれ、このペンションの宿泊プランには昼食は付いていませんよね?」
「ええ、本当は。でも、こんな状況ですから」
「でも、たしか絋一郎さんは料理をしないんじゃ……」
「私が作ったのよ」
 そう言ったのは菜々美さんだった。
「加奈子さんに使っていい材料を聞いたの」
「たしか料理がご趣味でしたよね! さすが一流女優ですね!」
 根津さんが叫んだ。もう、こんなことちゃんと調べるぐらいだったら事件のこと真面目に考えてほしいわ。
 私たちは飲み物など用意すると席に着いた。
「いただきます」
 私はナポリタンを食べ始めた。バランスよくケチャップがパスタに絡んでいて甘めの味付けである。
「美味しい!」
 根津さんは椅子の上で小さく飛び上がった。
「ありがとう」
 菜々美さんは男のハートに矢をさす笑顔で言った。
 食事を終えると、みんなバラバラと解散していった。私と根津さんも同様である。
 食堂を出たとき、ラウンジにはほこり取り片手に掃除をしている加奈子さんがいた。
 ちょうどいい。
「すみません」
 加奈子さんは振り向いた。ふき取ったほこりが私たちにかからないようにほこり取りを持ち直した。
「竹井様。午前中はご迷惑をおかけいたしました」
「体調は大丈夫なんですか?」
「はい。お陰様でだいぶ楽になりました。――ところでいかがなさいましたか?」
「カラオケルームと倉庫のカギを貸してもらえませんか。事件の調査で中を見たいんです」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
 加奈子さんはフロントに行った。
 ラウンジにはいくつも写真が飾ってあった。ペンションの建物、楓山神社、楓山の道などこの辺りの自然を写したものばかりだった。
「この写真だけ人が写ってるな」
 根津さんが指したのは一枚だけ目立つ古い写真だった。数十名による集合写真のようである。
「その写真は夫が大学生のころに撮ったものだそうです」
 振り返ると、私の後ろには加奈子さんがいた。
「だそうです、って、加奈子さんは知らないんですか?」
「ええ。私たちが出会ったのは社会人になってからですから。会社の同期だったんです。このペンションを建てたいって言っていたのもそのころです」
「そういえばパンフレットにも書いてありましたね」
「私は夢を持っている人に惹かれるんです。ペンションを建てるって言って馬車馬のように働いていたころは目がキラキラしていました。よく二人で楓山神社に行って手を合わせました」
「それで夢がかなったんですね。やっぱり楓山神社ってすごいんですね」
「ええ、あの神社に祀られている神様は何でも叶えて下さります。でも、まだ彼の目はキラキラしていて、いまだにしょっちゅう楓山神社に行っているようなんです。まだ理想のペンションじゃないんだと思います。――ああ、すみません。こんなつまらない話を」
「いいえ。夢のつまったペンションですから、必ず事件を解決します」
 カギをもらった私たちはカラオケルームと倉庫のある二階に上がった。
 カラオケルームに入ると、部屋を見渡した。きれいな四角の部屋である。
「やっぱりこっそり抜け出すなんて難しいわね」
 私と根津さんはカラオケルームを出ると、向かいにある倉庫に入った。私はもちろん根津さんの身長を超える高さの棚がずらりと並んでいた。
 私はドアを入って部屋の北側、根津さんは南側に向かった。棚の上は指でなぞればくっきり線ができるほどほこりまみれである。所々ほこりが薄くなっている部分もあるけれど、飯山さんが取扱説明書を探したというのなら、許容範囲である。
「どうだ、何か見つかったか?」
 根津さんの声がした。
「いいえ、あるのはほこりだけよ。不自然な感じはないわ」
 こんなところを長く調べていても肺をおかしくするだけね。
 私はちゃんと口を抑えて倉庫の出口に向かった。
 先に出口にいた根津さんは豪快にむせながら、裾のほこりを払っている。
「あーあ、お気に入りのシャツがほこりまみれだ」
 根津さんの手がズボンに移るのを横目に私は入って南側に入った。
「おい、そっちはもう見たぞ」
「わかってるけど、何か気になるの」
 こっち側はさっき見たところよりほこりっぽくない気がする。でも、棚の上は向こうと同じで所々ほこりが薄いところがある。ほこりっぽくないのは気のせいだったみたい。私は倉庫を出るべく出口の方に振り返った。
 ……あれ? さっき私がいた側とは景色が違うわ。
「――あ、もしかして」
 私は倉庫のドアの所に戻ってきた。根津さんは一通りほこりを払ったようだが、ズボンの裾にまだほこりを残している。まったく。
「どうした? 俺が何か見落としてたか?」
「いいえ、それ以上よ。私、犯人わかったかも」
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