30 / 136
幕末動乱篇6 攘夷の渦の中へ
攘夷の渦の中へ(6)
しおりを挟む
控えの間に戻ると、大和や渡邊が待ち構えていた。
「どうだった」
「首尾よく言った。俊輔にも殿からお言葉を頂いた」
「これで伊藤もお目見えか。出世したものだ」
大和は首尾よくいったことに笑顔になっていた。
しかし聞多はまだ怒りの中にいた。
「そんなことより。高杉はどうしちょる。話すらよう聞かん」
「高杉か。おぬしらが異国に行っている間京で色々あっての。結局藩命に背いて亡命したという事になって、一時期野山獄に入れられておった。今は親戚預かりとなって萩の家の座敷牢に押し込められちょる」
「そうはいっても、あれは高杉の暴発を、周布様が心配した上でのこと。という噂もあるな」
「どういうことじゃ」
「8月に我ら長州と攘夷派の公卿が、実質的に京から追い出された。それを不服に思って京を会津や一橋、薩摩から取り戻すため軍を出しておる。これは久坂たちが、中心になってやっているのじゃ。高杉はこれに反対してるんじゃ。京におられては何をするかわからんから、帰国させて動きを止めておる。久坂との共倒れを避けるためだと」
「と言うことは、高杉は萩の家におるんじゃな。わかった」
明日は殿も出席する君前会議を開くことになった。
その場には俊輔も同席を許すということだった。一通りの用件が済んだので、二人は政庁を後にして宿舎に帰った。
「ようし、俊輔が会議に出られるんは進歩じゃな」
「僕が言っても聞き入れてもらえんと思うが」
「そのようなこと気にするんじゃない。周りの様子も見ていてほしいんじゃ。わしは前しか見えんときが多いからの」
そう言って聞多が笑った。
用意された茶を飲んだあとで、店の者を呼んだ。出てきた女中に酒と飯のしたくを頼んだ。
次の日、また朝早く政庁に入り、お歴々の揃うのを待った。
イギリスや上海の状況を説明は、俊輔が行った。蒸気機関の進歩や鉄砲、大砲の性能にも触れた。艦隊がどれだけ大掛かりなものか、思いつくことは全部言った。
聞多は俊輔の言ったことを受けて、予想できる被害状況などを説明し、賠償金のや領土の割譲の可能性にも触れて、藩論を変える必要について、熱っぽく語った。
しかし、雰囲気は相変わらずだった。退席を命じられると、ふたりともため息をつくしかなかった。
聞多は世子定広にも目通りをした。その時に定広も上京し、久坂たちの支援を行うと聞いた。
聞多はこの件については、行くべきではないと答えた。四カ国艦隊に対峙せねばならない状況では、ここにとどまり束ねる必要があると説明した。だが、すでに決定していることと退けられてしまった。
会議が終わると、聞多たちも呼ばれた。
そこで渡されたのは、交渉の延期や実力行使の可能性をも書かれた、藩主からの文だった。目を通した聞多と俊輔は、内容も形式も受け入れられるものではないと抗議をした。しかし理解されることがなくなかった。
仕方なくそのまま三田尻沖に停泊中のイギリスの戦艦に向かい、艦長とアーネスト・サトーに手渡した。ふたりともこの書面に対して、怒りを隠せず、戦争になると告げた。
「だから、あんなのを持っていく使いなどしたくなかったんじゃ」
聞多がぼやいた。
「今度の使いで、僕たちがイギリスと関係があることが、白日の下にさらされてしまったのはまずいかもしれん」
「そうじゃなぁ。この結果を報告したらなにか考えんといかんかの」
二人は山口に戻り、報告をした。
宿舎に戻るとまもなく毛利登人がやってきた。
「おぬしたちの立場が、かなり危うくなっているのを、殿と世子様が心配なさっておる。それでイギリスに戻るのがいいのではないかとお話が出た。どうじゃ身の安全もある。イギリスを再訪するというのは」
「お断りいたします。もとより命の危険は覚悟のこと。ご心配はなさらず大丈夫とお伝え下さい」
聞多は俊輔と目を合わせて、きっぱりと毛利に告げた。
このような動きの中、外国艦船に対して談判をして戦を避けるべきという論も政庁の中で起こってきた。
そうなってくると、聞多と俊輔が出ていくしかない。
聞多も意見を求められた。下関で待つよりも、伊藤俊輔を江戸に派遣して4カ国公使との談判を試みるべきだと、言った。その結果俊輔は江戸へ向かうことになった。
いろいろと動いた結果、攘夷を信望とする人たちから、売国奴と罵られる対象となってきた。実際休んでいる部屋に押しかけてくる刺客もどきも出てきて、身の危険も感じる出来事もあり、山口からでて身を隠すことにした。
行き先は萩しかありえないだろう。
聞多は姉の婚家に世話になることを決めて出発した。
「待ってろ、高杉」
「どうだった」
「首尾よく言った。俊輔にも殿からお言葉を頂いた」
「これで伊藤もお目見えか。出世したものだ」
大和は首尾よくいったことに笑顔になっていた。
しかし聞多はまだ怒りの中にいた。
「そんなことより。高杉はどうしちょる。話すらよう聞かん」
「高杉か。おぬしらが異国に行っている間京で色々あっての。結局藩命に背いて亡命したという事になって、一時期野山獄に入れられておった。今は親戚預かりとなって萩の家の座敷牢に押し込められちょる」
「そうはいっても、あれは高杉の暴発を、周布様が心配した上でのこと。という噂もあるな」
「どういうことじゃ」
「8月に我ら長州と攘夷派の公卿が、実質的に京から追い出された。それを不服に思って京を会津や一橋、薩摩から取り戻すため軍を出しておる。これは久坂たちが、中心になってやっているのじゃ。高杉はこれに反対してるんじゃ。京におられては何をするかわからんから、帰国させて動きを止めておる。久坂との共倒れを避けるためだと」
「と言うことは、高杉は萩の家におるんじゃな。わかった」
明日は殿も出席する君前会議を開くことになった。
その場には俊輔も同席を許すということだった。一通りの用件が済んだので、二人は政庁を後にして宿舎に帰った。
「ようし、俊輔が会議に出られるんは進歩じゃな」
「僕が言っても聞き入れてもらえんと思うが」
「そのようなこと気にするんじゃない。周りの様子も見ていてほしいんじゃ。わしは前しか見えんときが多いからの」
そう言って聞多が笑った。
用意された茶を飲んだあとで、店の者を呼んだ。出てきた女中に酒と飯のしたくを頼んだ。
次の日、また朝早く政庁に入り、お歴々の揃うのを待った。
イギリスや上海の状況を説明は、俊輔が行った。蒸気機関の進歩や鉄砲、大砲の性能にも触れた。艦隊がどれだけ大掛かりなものか、思いつくことは全部言った。
聞多は俊輔の言ったことを受けて、予想できる被害状況などを説明し、賠償金のや領土の割譲の可能性にも触れて、藩論を変える必要について、熱っぽく語った。
しかし、雰囲気は相変わらずだった。退席を命じられると、ふたりともため息をつくしかなかった。
聞多は世子定広にも目通りをした。その時に定広も上京し、久坂たちの支援を行うと聞いた。
聞多はこの件については、行くべきではないと答えた。四カ国艦隊に対峙せねばならない状況では、ここにとどまり束ねる必要があると説明した。だが、すでに決定していることと退けられてしまった。
会議が終わると、聞多たちも呼ばれた。
そこで渡されたのは、交渉の延期や実力行使の可能性をも書かれた、藩主からの文だった。目を通した聞多と俊輔は、内容も形式も受け入れられるものではないと抗議をした。しかし理解されることがなくなかった。
仕方なくそのまま三田尻沖に停泊中のイギリスの戦艦に向かい、艦長とアーネスト・サトーに手渡した。ふたりともこの書面に対して、怒りを隠せず、戦争になると告げた。
「だから、あんなのを持っていく使いなどしたくなかったんじゃ」
聞多がぼやいた。
「今度の使いで、僕たちがイギリスと関係があることが、白日の下にさらされてしまったのはまずいかもしれん」
「そうじゃなぁ。この結果を報告したらなにか考えんといかんかの」
二人は山口に戻り、報告をした。
宿舎に戻るとまもなく毛利登人がやってきた。
「おぬしたちの立場が、かなり危うくなっているのを、殿と世子様が心配なさっておる。それでイギリスに戻るのがいいのではないかとお話が出た。どうじゃ身の安全もある。イギリスを再訪するというのは」
「お断りいたします。もとより命の危険は覚悟のこと。ご心配はなさらず大丈夫とお伝え下さい」
聞多は俊輔と目を合わせて、きっぱりと毛利に告げた。
このような動きの中、外国艦船に対して談判をして戦を避けるべきという論も政庁の中で起こってきた。
そうなってくると、聞多と俊輔が出ていくしかない。
聞多も意見を求められた。下関で待つよりも、伊藤俊輔を江戸に派遣して4カ国公使との談判を試みるべきだと、言った。その結果俊輔は江戸へ向かうことになった。
いろいろと動いた結果、攘夷を信望とする人たちから、売国奴と罵られる対象となってきた。実際休んでいる部屋に押しかけてくる刺客もどきも出てきて、身の危険も感じる出来事もあり、山口からでて身を隠すことにした。
行き先は萩しかありえないだろう。
聞多は姉の婚家に世話になることを決めて出発した。
「待ってろ、高杉」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる