【完結】奔波の先に~井上聞多と伊藤俊輔~幕末から維新の物語

瑞野明青

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幕末動乱篇6 攘夷の渦の中へ

攘夷の渦の中へ(6)

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 控えの間に戻ると、大和や渡邊が待ち構えていた。

「どうだった」
「首尾よく言った。俊輔にも殿からお言葉を頂いた」
「これで伊藤もお目見えか。出世したものだ」
 大和は首尾よくいったことに笑顔になっていた。

 しかし聞多はまだ怒りの中にいた。
「そんなことより。高杉はどうしちょる。話すらよう聞かん」
「高杉か。おぬしらが異国に行っている間京で色々あっての。結局藩命に背いて亡命したという事になって、一時期野山獄に入れられておった。今は親戚預かりとなって萩の家の座敷牢に押し込められちょる」
「そうはいっても、あれは高杉の暴発を、周布様が心配した上でのこと。という噂もあるな」
「どういうことじゃ」
「8月に我ら長州と攘夷派の公卿が、実質的に京から追い出された。それを不服に思って京を会津や一橋、薩摩から取り戻すため軍を出しておる。これは久坂たちが、中心になってやっているのじゃ。高杉はこれに反対してるんじゃ。京におられては何をするかわからんから、帰国させて動きを止めておる。久坂との共倒れを避けるためだと」
「と言うことは、高杉は萩の家におるんじゃな。わかった」

 明日は殿も出席する君前会議を開くことになった。

 その場には俊輔も同席を許すということだった。一通りの用件が済んだので、二人は政庁を後にして宿舎に帰った。

「ようし、俊輔が会議に出られるんは進歩じゃな」
「僕が言っても聞き入れてもらえんと思うが」
「そのようなこと気にするんじゃない。周りの様子も見ていてほしいんじゃ。わしは前しか見えんときが多いからの」
 そう言って聞多が笑った。

 用意された茶を飲んだあとで、店の者を呼んだ。出てきた女中に酒と飯のしたくを頼んだ。

 次の日、また朝早く政庁に入り、お歴々の揃うのを待った。

 イギリスや上海の状況を説明は、俊輔が行った。蒸気機関の進歩や鉄砲、大砲の性能にも触れた。艦隊がどれだけ大掛かりなものか、思いつくことは全部言った。
 聞多は俊輔の言ったことを受けて、予想できる被害状況などを説明し、賠償金のや領土の割譲の可能性にも触れて、藩論を変える必要について、熱っぽく語った。

 しかし、雰囲気は相変わらずだった。退席を命じられると、ふたりともため息をつくしかなかった。

 聞多は世子定広にも目通りをした。その時に定広も上京し、久坂たちの支援を行うと聞いた。
 聞多はこの件については、行くべきではないと答えた。四カ国艦隊に対峙せねばならない状況では、ここにとどまり束ねる必要があると説明した。だが、すでに決定していることと退けられてしまった。

 会議が終わると、聞多たちも呼ばれた。

 そこで渡されたのは、交渉の延期や実力行使の可能性をも書かれた、藩主からの文だった。目を通した聞多と俊輔は、内容も形式も受け入れられるものではないと抗議をした。しかし理解されることがなくなかった。

 仕方なくそのまま三田尻沖に停泊中のイギリスの戦艦に向かい、艦長とアーネスト・サトーに手渡した。ふたりともこの書面に対して、怒りを隠せず、戦争になると告げた。

「だから、あんなのを持っていく使いなどしたくなかったんじゃ」
 聞多がぼやいた。
「今度の使いで、僕たちがイギリスと関係があることが、白日の下にさらされてしまったのはまずいかもしれん」
「そうじゃなぁ。この結果を報告したらなにか考えんといかんかの」
 二人は山口に戻り、報告をした。

 宿舎に戻るとまもなく毛利登人がやってきた。

「おぬしたちの立場が、かなり危うくなっているのを、殿と世子様が心配なさっておる。それでイギリスに戻るのがいいのではないかとお話が出た。どうじゃ身の安全もある。イギリスを再訪するというのは」
「お断りいたします。もとより命の危険は覚悟のこと。ご心配はなさらず大丈夫とお伝え下さい」

 聞多は俊輔と目を合わせて、きっぱりと毛利に告げた。

 このような動きの中、外国艦船に対して談判をして戦を避けるべきという論も政庁の中で起こってきた。

 そうなってくると、聞多と俊輔が出ていくしかない。

 聞多も意見を求められた。下関で待つよりも、伊藤俊輔を江戸に派遣して4カ国公使との談判を試みるべきだと、言った。その結果俊輔は江戸へ向かうことになった。

 いろいろと動いた結果、攘夷を信望とする人たちから、売国奴と罵られる対象となってきた。実際休んでいる部屋に押しかけてくる刺客もどきも出てきて、身の危険も感じる出来事もあり、山口からでて身を隠すことにした。

 行き先は萩しかありえないだろう。

 聞多は姉の婚家に世話になることを決めて出発した。

「待ってろ、高杉」
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