【完結】奔波の先に~井上聞多と伊藤俊輔~幕末から維新の物語

瑞野明青

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明治維新編7 秩禄処分のゆくえ

秩禄処分のゆくえ(2)

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 明日は公債について方針を決定をする必要があった。例えばと、馨は財務の基本方針になることを書き出してみた。財務といえば別にもう一つ、外貨収入があったのを思い出した。これを正貨として、別会計で蓄えておけば通貨の準備金に使える。
 別会計といえば、そうだ長州で行っていた撫育金。勧農資金は下げ渡すことで収入も得られる。ならば独立採算で別会計を使えば、国庫支出を抑えることができる。このことも明日の議題にすることにしよう。

 翌日出仕した馨は、吉田清成や渋沢を含めた幹部たちを集めた。
「わしが関係者から聞き出したところだと、日本がイギリスで公債を発行すると利率は10%程度になると言う。吉田くんの調べたところはどうじゃったか」
「オリエンタルバンクで聞くと8から9%です。ただアメリカの商館で聞くと7%で行けるかもとの話がありました。20から30万ドルならばかなり速やかに集められるという見通しを聞きました」
「それは本当か。アメリカならば想定の利率で行けるということじゃな」
「はい、大丈夫ではないかと考えます。鉄道の時の9%は重いですから。なるべく低利での発行を目指すことは可能です」
「その方向で3000万円の公債を発行する建議書をまとめてくれ」

 馨はまず1つ方針を定められて安心した。
 そして未だある難問をこうして解決の方へ導いていきたかった。

「次に勧農についてじゃ。支出抑制は我が大蔵でも考えねばならん。そうは言っても始まったばかりの富岡製糸場は金がかかる。そこで国有林の払い下げなどの収入を、勧農資金として別に会計を設けたらどうかと考えた。勧農寮と租税寮で具体的な考察をしてくれんか」
「確かにこれからのことを考えますと、東北の開墾事業など経費のかかることが多いことは明らかです。勧農寮としてはまず模範農場を作るべく場所を策定中でございます。国有林以外にも収入になりそうな物を調査していきます」
「租税寮では地租改正の建議を受けて、地券の発行及び今まで課税されていなかった住宅地といった市街地を課税対象とするため関係地の策定を進めております。まずは東京府をかんがえております。地券と土地の売買の解禁で地租に関しては進行しています」
「増税になる分に関しては県の勧業・授産にも配分できるとええの」
「大輔のご指摘の件に関しては、配慮していくことを県などに通達いたします」
「そうじゃ、金納については研究は進めても良いが、速やかな適用とは難しいことだと思う。そこは配慮をしてくれ」

 地租などの税金を物納から金での納入にすれば、予算が立てやすくなる。ただそのためには、金を収める段取りができていなくてはならない。必要なのはバンクなどの決済方法を定めることだった。

「わかりました。状況を含めて検討していきます」
「他に連絡事項があるものはおるか」

 出席者はお互いに顔を見合わせたが発言するものはいなかった。
 内局の佐伯が会議の終了を告げて、解散となった。

 この会議の結果を受けて、馨は大隈のもとに行った。
「大隈さん、おるかの」

 大隈は馨が顔を出すのを待っていた。日々新しいことが決められ、進めていくことになる。それには馨の指揮する大蔵省が中心となっていた。そして馨と話をすることで、自分の意見も取り入れられて政策となっていった。

「ああ馨か。大丈夫である」
「俸禄処分の禄券対策の外債発行の件じゃ」
「まとまったのであるか」
「あぁ。最終的には未だ詰めにゃいけんことも多いけどな」
「どこで発行するのであるか」
「アメリカで行こう思っちょる」
「イギリスで無くか」
「あぁイギリスは鉄道債の時と、評価はあまり変わらんらしい。9%ではやってられんのじゃ」
「いくらで行くつもりであるか」
「7%じゃ。できれば6で行きたいくらいだが」
「そげん無理なことでは。行かせる意味もないのである」
「わかっちょる。ただアメリカに行けば大久保さんと俊輔が居る。俊輔の助けを借りられるんは大きいんじゃ」
「俸禄処分について木戸さんとは、連絡を取っておるのか」

 木戸が馨の俸禄の考え方に賛成していないことを大隈はよく知っていた。こういう手綱取りができるのは大隈だけだった。

「あぁ木戸さんの案から変えたことか。大丈夫じゃ。木戸さんはわかってくれるはずじゃ」
 木戸の名前を出されて、馨はそれだけイライラしていた。大隈はあまり強く言わないことにした。
「そうは言っても6年の期限は厳しいであるが」
「少しでも早く財政の負担を減らせねばならんのじゃ」
 馨が声を荒らげていた。
「馨、そげん声を荒らげんでも」
「悪い。もう帰る」
「待て、馨。造幣寮の視察の日程をそろそろ決定してほしいのである」
「あぁそうじゃったな。佐伯に言っておく。外国債についても吉田から説明させる」
 馨はそう言って席を立って出ていってしまった。

 大隈は溜息をついて、馨を見送った。それにしても最近怒り出す時間が短くなっている気がすると思った。特に木戸の名をあげると機嫌が悪くなる。
 今まで誰が見ても木戸の片腕だったはずが、大蔵大輔になったあたりから、単独で動いているようにも思えた。それはそれで動きやすくなったのだろう。

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