88 / 136
明治維新編7 秩禄処分のゆくえ
秩禄処分のゆくえ(2)
しおりを挟む
明日は公債について方針を決定をする必要があった。例えばと、馨は財務の基本方針になることを書き出してみた。財務といえば別にもう一つ、外貨収入があったのを思い出した。これを正貨として、別会計で蓄えておけば通貨の準備金に使える。
別会計といえば、そうだ長州で行っていた撫育金。勧農資金は下げ渡すことで収入も得られる。ならば独立採算で別会計を使えば、国庫支出を抑えることができる。このことも明日の議題にすることにしよう。
翌日出仕した馨は、吉田清成や渋沢を含めた幹部たちを集めた。
「わしが関係者から聞き出したところだと、日本がイギリスで公債を発行すると利率は10%程度になると言う。吉田くんの調べたところはどうじゃったか」
「オリエンタルバンクで聞くと8から9%です。ただアメリカの商館で聞くと7%で行けるかもとの話がありました。20から30万ドルならばかなり速やかに集められるという見通しを聞きました」
「それは本当か。アメリカならば想定の利率で行けるということじゃな」
「はい、大丈夫ではないかと考えます。鉄道の時の9%は重いですから。なるべく低利での発行を目指すことは可能です」
「その方向で3000万円の公債を発行する建議書をまとめてくれ」
馨はまず1つ方針を定められて安心した。
そして未だある難問をこうして解決の方へ導いていきたかった。
「次に勧農についてじゃ。支出抑制は我が大蔵でも考えねばならん。そうは言っても始まったばかりの富岡製糸場は金がかかる。そこで国有林の払い下げなどの収入を、勧農資金として別に会計を設けたらどうかと考えた。勧農寮と租税寮で具体的な考察をしてくれんか」
「確かにこれからのことを考えますと、東北の開墾事業など経費のかかることが多いことは明らかです。勧農寮としてはまず模範農場を作るべく場所を策定中でございます。国有林以外にも収入になりそうな物を調査していきます」
「租税寮では地租改正の建議を受けて、地券の発行及び今まで課税されていなかった住宅地といった市街地を課税対象とするため関係地の策定を進めております。まずは東京府をかんがえております。地券と土地の売買の解禁で地租に関しては進行しています」
「増税になる分に関しては県の勧業・授産にも配分できるとええの」
「大輔のご指摘の件に関しては、配慮していくことを県などに通達いたします」
「そうじゃ、金納については研究は進めても良いが、速やかな適用とは難しいことだと思う。そこは配慮をしてくれ」
地租などの税金を物納から金での納入にすれば、予算が立てやすくなる。ただそのためには、金を収める段取りができていなくてはならない。必要なのはバンクなどの決済方法を定めることだった。
「わかりました。状況を含めて検討していきます」
「他に連絡事項があるものはおるか」
出席者はお互いに顔を見合わせたが発言するものはいなかった。
内局の佐伯が会議の終了を告げて、解散となった。
この会議の結果を受けて、馨は大隈のもとに行った。
「大隈さん、おるかの」
大隈は馨が顔を出すのを待っていた。日々新しいことが決められ、進めていくことになる。それには馨の指揮する大蔵省が中心となっていた。そして馨と話をすることで、自分の意見も取り入れられて政策となっていった。
「ああ馨か。大丈夫である」
「俸禄処分の禄券対策の外債発行の件じゃ」
「まとまったのであるか」
「あぁ。最終的には未だ詰めにゃいけんことも多いけどな」
「どこで発行するのであるか」
「アメリカで行こう思っちょる」
「イギリスで無くか」
「あぁイギリスは鉄道債の時と、評価はあまり変わらんらしい。9%ではやってられんのじゃ」
「いくらで行くつもりであるか」
「7%じゃ。できれば6で行きたいくらいだが」
「そげん無理なことでは。行かせる意味もないのである」
「わかっちょる。ただアメリカに行けば大久保さんと俊輔が居る。俊輔の助けを借りられるんは大きいんじゃ」
「俸禄処分について木戸さんとは、連絡を取っておるのか」
木戸が馨の俸禄の考え方に賛成していないことを大隈はよく知っていた。こういう手綱取りができるのは大隈だけだった。
「あぁ木戸さんの案から変えたことか。大丈夫じゃ。木戸さんはわかってくれるはずじゃ」
木戸の名前を出されて、馨はそれだけイライラしていた。大隈はあまり強く言わないことにした。
「そうは言っても6年の期限は厳しいであるが」
「少しでも早く財政の負担を減らせねばならんのじゃ」
馨が声を荒らげていた。
「馨、そげん声を荒らげんでも」
「悪い。もう帰る」
「待て、馨。造幣寮の視察の日程をそろそろ決定してほしいのである」
「あぁそうじゃったな。佐伯に言っておく。外国債についても吉田から説明させる」
馨はそう言って席を立って出ていってしまった。
大隈は溜息をついて、馨を見送った。それにしても最近怒り出す時間が短くなっている気がすると思った。特に木戸の名をあげると機嫌が悪くなる。
今まで誰が見ても木戸の片腕だったはずが、大蔵大輔になったあたりから、単独で動いているようにも思えた。それはそれで動きやすくなったのだろう。
別会計といえば、そうだ長州で行っていた撫育金。勧農資金は下げ渡すことで収入も得られる。ならば独立採算で別会計を使えば、国庫支出を抑えることができる。このことも明日の議題にすることにしよう。
翌日出仕した馨は、吉田清成や渋沢を含めた幹部たちを集めた。
「わしが関係者から聞き出したところだと、日本がイギリスで公債を発行すると利率は10%程度になると言う。吉田くんの調べたところはどうじゃったか」
「オリエンタルバンクで聞くと8から9%です。ただアメリカの商館で聞くと7%で行けるかもとの話がありました。20から30万ドルならばかなり速やかに集められるという見通しを聞きました」
「それは本当か。アメリカならば想定の利率で行けるということじゃな」
「はい、大丈夫ではないかと考えます。鉄道の時の9%は重いですから。なるべく低利での発行を目指すことは可能です」
「その方向で3000万円の公債を発行する建議書をまとめてくれ」
馨はまず1つ方針を定められて安心した。
そして未だある難問をこうして解決の方へ導いていきたかった。
「次に勧農についてじゃ。支出抑制は我が大蔵でも考えねばならん。そうは言っても始まったばかりの富岡製糸場は金がかかる。そこで国有林の払い下げなどの収入を、勧農資金として別に会計を設けたらどうかと考えた。勧農寮と租税寮で具体的な考察をしてくれんか」
「確かにこれからのことを考えますと、東北の開墾事業など経費のかかることが多いことは明らかです。勧農寮としてはまず模範農場を作るべく場所を策定中でございます。国有林以外にも収入になりそうな物を調査していきます」
「租税寮では地租改正の建議を受けて、地券の発行及び今まで課税されていなかった住宅地といった市街地を課税対象とするため関係地の策定を進めております。まずは東京府をかんがえております。地券と土地の売買の解禁で地租に関しては進行しています」
「増税になる分に関しては県の勧業・授産にも配分できるとええの」
「大輔のご指摘の件に関しては、配慮していくことを県などに通達いたします」
「そうじゃ、金納については研究は進めても良いが、速やかな適用とは難しいことだと思う。そこは配慮をしてくれ」
地租などの税金を物納から金での納入にすれば、予算が立てやすくなる。ただそのためには、金を収める段取りができていなくてはならない。必要なのはバンクなどの決済方法を定めることだった。
「わかりました。状況を含めて検討していきます」
「他に連絡事項があるものはおるか」
出席者はお互いに顔を見合わせたが発言するものはいなかった。
内局の佐伯が会議の終了を告げて、解散となった。
この会議の結果を受けて、馨は大隈のもとに行った。
「大隈さん、おるかの」
大隈は馨が顔を出すのを待っていた。日々新しいことが決められ、進めていくことになる。それには馨の指揮する大蔵省が中心となっていた。そして馨と話をすることで、自分の意見も取り入れられて政策となっていった。
「ああ馨か。大丈夫である」
「俸禄処分の禄券対策の外債発行の件じゃ」
「まとまったのであるか」
「あぁ。最終的には未だ詰めにゃいけんことも多いけどな」
「どこで発行するのであるか」
「アメリカで行こう思っちょる」
「イギリスで無くか」
「あぁイギリスは鉄道債の時と、評価はあまり変わらんらしい。9%ではやってられんのじゃ」
「いくらで行くつもりであるか」
「7%じゃ。できれば6で行きたいくらいだが」
「そげん無理なことでは。行かせる意味もないのである」
「わかっちょる。ただアメリカに行けば大久保さんと俊輔が居る。俊輔の助けを借りられるんは大きいんじゃ」
「俸禄処分について木戸さんとは、連絡を取っておるのか」
木戸が馨の俸禄の考え方に賛成していないことを大隈はよく知っていた。こういう手綱取りができるのは大隈だけだった。
「あぁ木戸さんの案から変えたことか。大丈夫じゃ。木戸さんはわかってくれるはずじゃ」
木戸の名前を出されて、馨はそれだけイライラしていた。大隈はあまり強く言わないことにした。
「そうは言っても6年の期限は厳しいであるが」
「少しでも早く財政の負担を減らせねばならんのじゃ」
馨が声を荒らげていた。
「馨、そげん声を荒らげんでも」
「悪い。もう帰る」
「待て、馨。造幣寮の視察の日程をそろそろ決定してほしいのである」
「あぁそうじゃったな。佐伯に言っておく。外国債についても吉田から説明させる」
馨はそう言って席を立って出ていってしまった。
大隈は溜息をついて、馨を見送った。それにしても最近怒り出す時間が短くなっている気がすると思った。特に木戸の名をあげると機嫌が悪くなる。
今まで誰が見ても木戸の片腕だったはずが、大蔵大輔になったあたりから、単独で動いているようにも思えた。それはそれで動きやすくなったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる