【完結】奔波の先に~井上聞多と伊藤俊輔~幕末から維新の物語

瑞野明青

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明治維新編7 秩禄処分のゆくえ

秩禄処分のゆくえ(3)

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 年が明けて、馨はオリエンタルバンク主催のパーティーに出席した。フロックコートをまとった紳士と、色とりどりのドレスを身にまとった淑女が集っていた。まだ珍しい洋食に馨は舌鼓を打って、楽しんでいた。

「ミスター井上、お越しいただきありがとうございます」
「ミスターロバートソン、こちらこそ、色々お世話になっております。中々のご盛況で」
「このように沢山の方々にお支えいただいて、成り立っています」
「我が国にとってこちらは海外への窓のような所です。今後ともよろしく願いたい」
「確かに、我々もご協力できるのはうれしいです。そう言えば、何か大きなプロジェクトが進行されているとか」
 馨は探りを入れられるのではと、気構えた。
「常に色々やっておりますが」
「外国で公債が発行されるとか」
「あぁまぁそのことですか」
「良い条件で発行できると良いですね」
「それはお気遣いありがとうございます」

 ふっと何か言い過ぎた気がして、馨はその場を離れた。そして適当なところで会場を後にした。

 そんな事があってからしばらく経って馨は大隈のところに顔を出した。
「そういえば、馨はオリエンタルバンクのニューイヤーパーティに出たのであるな」
「あぁ、行ったよ。あそこまで華やかじゃと気後れする」
「何か言うてきたんか」
「言うてきたって何を」
「アメリカで発行すっ予定ん公債んことや」
「あぁそれならロバートソンがええ条件で発行できるとええやら言いよった」
「それにイエスって言うたんか」
「ああ言った」

 馨は確かにイエスと言っただけだったが。大隈は引っかかる言い方をしている。その目を見て何がいいたいと睨みつけた。

「それはカマをかけたものであるな」
 カマをかけられたのか。公債を別の所で発行しようとしているのを、確認したということなのか。馨は体がジトッと湿ってくる嫌な感じがしていた。
「えっ。それじゃ。わしは引っかかったのかの」
「馨。こりゃあ由々しき事態や。こがん子供だましんことに引っかかるとは甘すぎる」
「すまぬ」
「謝るのは吾輩にではなか。吉田に謝るべきである。対策もしっかり怠るな」
「分かった。なんとかするしか無いの」
「正院に出す建議書もきっちり仕上げてくれ」
 大隈は馨の出ていく背中を見ながら、ため息を大きくついた。なんだか一層忙しなくなってきた。

 馨は大隈のところから自室に戻ると、吉田清成を呼びに行かせた。
「忙しいところすまん。長くなるかもしれんので、座ってくれんか」
「どうかされましたか」
「申し訳無い。わしがしくじってしもうた。さっき大隈さんと話をして気がついた。大隈さんに怒られてきた」
 馨はひたすら謝っていた。自分の不注意、立場の重さが体にのしかかっていた。
「オリエンタルバンクにアメリカで公債を発行する件が知られてしもうた。いやわしが不注意で漏らしてしまったんじゃ」
「正院に委任状の建議書は提出されているのでしたね」
「そうじゃ。なので、対策をこうじて追加するか訂正を願うことになる」
「そうすると防衛策を考えねばなりませぬな」
「手段はあまり無いんじゃ。利率を上げることは難しい。あくまで財政への負担を減らすことが重要じゃ。アメリカがうまくいかなかった場合、イギリス、ロンドンで発行する位しかないが」
「やはり、ロンドンでの発行を入れるしかありませぬな」
「わかった。それでいこう。ついでと言っては何だが、随行員はどうする。上野景範という考えもあろうが」
「上野はあまり頼りになりませぬな」
「旧幕臣になるが、大鳥圭介はどうじゃ。渋沢も良い人材だと申しておったが。榎本武揚と共に函館に籠もっていて、つい最近監獄から出された。黒田が開拓使にほしいと言っとるが、こちらでも使わせてもらいたいと申し出て見る。他にアメリカ人のウィリアムスをつけようと思うちょる」
「欧米に通じている人材は貴重ですから、お願いしていただけるとありがたいです。私の方でも動いてみます」
「そりゃええ。なんとかせねばの」
「井上さん、ご心配召されるな。アメリカには大久保さんも伊藤さんも居られる。大丈夫です」
「気休めでもありがたい。万全を期すのみじゃ。正院には申し出ておく」
 吉田の背中を見送って、馨はホッとしたのか椅子にどかっと座ってため息をついていた。

 大鳥を随行員としたい希望は、黒田清隆に申し出たもののなかなか進まなかった。西郷隆盛の助けも得て、何度も交渉してどうにか叶い、やっと出発となった。

「すまぬが大久保さんと伊藤にこの文を頼む。こちらとの連絡はテレグラフも使って柔軟にの」
「井上さんもお気をつけて。張り詰め過ぎは良うないです」
「それは吾輩もおる。心配するな。しっかりやってくれ」

 馨は大隈とともに、アメリカで公債を発行するため、旅立つ吉田清成を見送った。

 この資金調達が、国の行くすえと、自分たちの命運を握っていることに、まだ気がついていなかった。

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