悪女の条件

瑞野明青

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第11章 カミーラの選択

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 テレサはロビンを伴にカミーラを連れて街に出てみた。値頃な既製服を買っておこうと思ったのだ。特にカミーラの着替えは必須だった。管理人のゾーイの紹介で何店かの衣料品店のメモをもらい、見て回ることにした。
「このあたりが庶民の買い物の場所なのでしょ。思ったより寂れてる」
「休日の昼間なのですけれど。確かに」
「そもそも人通りが少ないのね」
 あまり見まわさないように、目だけきょろきょろとさせながらテレサが歩いていると、ロビンが急に立ち止まった。
「まずはこの店のようですね」
 入ってみると予想通りの品数の少なさにテレサはがっかりしていた。それでもロビンは店員を呼び出して、カミーラに合うサイズの服を出させて合わせていた。シャツとトラウザーズとタイツをみて、いくつかをテレサに確認させようと声をかけた。テレサはかわいいけれどシンプルな刺繍のウエスコートをもって来た。
「ちょっとした正装用にどうかなと思ったのだけれど。ついでにこのコートも一緒に」
「物は良さそうで、良かったですね」
 確かに木綿の記事はしっかりしていて、縫製も悪くなかった。これなら商会のちょっとした場にも出て行けそうだった。
「カミーラこれを試着してごらんなさい」
 テレサがカミーラに手渡すと、店員に奥の試着室に案内されて行った。
 コートとトラウザーズのフルセットを着て出てきたカミーラを見て、テレサは思いっきりうなずいていた。恋ブラウンの髪の毛とベージュのコートの色合いが良くて、少し色白の顔色もよく見せていた。
「きつくないかしら」
「大丈夫です。少し大きいくらいで」
「少し大きいくらいでいいのよ。すぐに小さくなっちゃうのだから」
「似合ってますか。こういうのあまり着たことないので」
「そう、いいと思う。ロビンもそう思うでしょ」
「はい。これなら立派な少年です」
「ロビン。またそんなこと。支払いをお願いしますね」
「了解しました」
 カミーラは試着室に戻り、ロビンは会計をしている間、テレサは店の女性物などを見ていた。グラシア風のブラウスとスカートの組み合わせに目を引かれ、大体の大きさを確認した。これも追加でとカミーラの服を袋に詰めている店員に声を掛けると、ロビンは言われたとおりに支払っていた。カミーラが商品を受け取ると、スーラの待つ教会へと急いだ。

「バルボン家の使いのテリィと申します。先だって、スーラというものが教会長様とご面会をお願いしていたと思いますが」
 テレサが教会の小間使いに来訪の用件を話した。すぐに中に通されて、教会で待っていたスーラと合流した。皆で一緒に教会長と会うことができるということだった。
 小間使いは面談室のドアをノックし、客の来訪を告げてドアを開けると中にはいるようにいざなった。テレサは皆で入ると軽いお辞儀をした。
「バルボン家のテリィと申します。面会を許可いただきありがとうございます」
「教会長のサイモン・ロキテスです。お座りください。フアン、皆様のお茶を」
「かしこまりました」
「それでご要件とは」
 いかにも宗教者という感じの少しの野心を隠しながら鷹揚とした雰囲気の、黒髪と濃いブラウンの瞳が印象的な男性だった。
「暫くの間ですが、商会の別邸で手伝いをすることになりました。その一環でこちらの教会にご奉仕をさせていただくことのお許しを。孤児院についてもお手伝いをさせていただきます」
 
 ロビンが説明していた。いかにもどこかの令嬢の社会見物のようだが、もう1つカミーラのこの先を考えてのことだった。この国で暮らすとしたら、孤児院に入るのも1つの方法だ。きちんと保護されて、教育も受けられるのなら、言葉の問題も友人も得られやすいことから見てみたかった。他には商会で丁稚奉公をすること、アインホルン家の使用人になることが考えられた。
「ありがたい申し出です。こちらこそよろしくお願いします」
「それでは4日後から、5日おきに2回ほど参りますのでよろしくお願いします」
「こちらこそ、お待ちしてます」
 ロビンが教会長に手を差し出して、二人は握手して離れた。テレサも膝を軽くまげてお辞儀をすると教会をあとにした。

 馬車に乗り商会の別邸に戻ると、カミーラに孤児院に訪問することの意味をテレサが説明した。
「カミーラ、私達がここにいる間に、あなたに決めてほしいことがあるの」
 カミーラはテーブルの上の甘いお茶を、テレサの顔を不思議そうな顔で見ながら飲んだ。
「ぼくの預け先ですか。それだったら」
「すぐに決めることはないの、とっても大事なことだからね」
「はい、わかりました」
「まずはこのグラシアに残りたいかどうか。それで残るとして、同年代の子供と一緒になれる孤児院に行くか商会の子どもの使用人として、誰かを親代わりに商人になれるように頑張るか」
「ぼくは父さんと母さんしか知らないんです。友達もいつの間にかいなくなっちゃって。ぼく、みなさんと一緒じゃだめですか」
 目に涙をいっぱいためて、テレサを見ているカミーラを見てしまうと、グラシアに残る選択肢は無いようだった。なみだで心が動くようではと、テレサは大きく深呼吸をした。そして冷静にと一人呟くと、一度ゆっくり目を閉じてからカミーラを見た。
「でもね、私達はこの国の人じゃないの。遠くの山の向こうのローゼンバーグというところから来たの。言葉も違うから勉強しないといけないよ。それでも、一緒に来たいの」
 カミーラはコクリと首を縦に振った。それをみてテレサは特に裏に暗いことを、持ってはいなさそうだととりあえず結論づけた。
「おとなになったら何になりたいとかあるの」
「まだ、何がっていうのはよくわからなくて。でも、困っているぼくのような子を助けられるようになりたいです。この御恩を次の子に……」
 カミーラはそこで本当に泣き出してしまった。テレサには慰め方もわからず、ただ部屋の中をウロウロとしていた。そこにスーラが新しいお茶とお菓子を持って入ってきた。
「テリィっさま、カミーラはどうしたのですか」
「話をしたの。そうしたら一緒にローゼンバーグに行くっていうから、目標はって聞いたら、こうなってしまって……」
「わかりました。カミーラ、一緒に食堂に行きましょう。顔も洗って、甘いお菓子を食べようね」
 スーラがなだめるように抱きしめて、一緒に食堂へ行ってしまった。

 子どもと一緒にいるのは大変だろうなということがわかった。テレサはスーラとカミーラを見送って、新しく入れ直したお茶を口に含んだ。まだなれないこの国のお茶は少し渋くて苦みも強かった。
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