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僕、猫又ラルルッチ
しおりを挟む僕は猫又ラルルッチ。メス猫であり、僕っ子猫にゃんにゃる。
大正時代に生きる猫又の僕は、人を化かして馬鹿にすることを生きがいとする、悪い妖怪なのにゃ。
手法は簡単。人間に化けて、そいつとお喋りをする。最初は社交的に振舞い、相手と仲良くなる。
そして段々とそいつの繊細な部分を小馬鹿にしていき、相手をぷんぷんさせて、その場を立ち去る。
これこそ妖怪に相応しい、陰湿手法なのにゃ。
所で僕は古より伝説が残る曰く付きの神社に住んでいる。
この山の中にひっそりと建つ神社は、死んだ人間の亡霊が夜な夜な現れるという伝承が存在する。
そのためか、昔はこの神社に訪れに来る人間が多かったのに、
今では閑散としていて寂しい場所になってしまった。
化かしがいのある人間も減ってしまったという訳にゃる。
しかし、こんな曰く付きの変てこ神社に頻繁に訪れる変態人間がいる。
奴はこの神社に訪れては、うろうろして去っていく。
何を探しているのか分からないが、とにかくうろつく。
かと思えば、神社に植えてある柿木から実をもぎ取り帰っていく。
その柿は僕のものなのにぃ。ゆるせないにゃる。
そんな訳で、今日はその人間をたーげっとぉにする。標的にするという訳にゃ。
今現在、奴は神社に寄った後、家に帰宅したばかりなのにゃ。
さて、こっそり家に忍び込んでと。
うわっ、キモイ奴なのにゃ。
机の上に妻とのらぶらぶな写真をいくつも並べている。
ちょっと前から流行しているこの写真という代物。
外国人が開発した西洋の魔法らしく、この大正時代には頻繁に撮れるものではない。
そんな妻との写真をいくつも撮り、大切そうに机に並べてぇ……
僕も撮って欲しいにゃ☆
さて、そんなことはどうでも良い。
丁度妻の写真があったから、こいつの顔を観察してと。
僕は天才猫又ラルルッチ。一度写真を見れば、そいつに化けるなんてお手の物。
どろんっと!!
よし、妻の姿に化けてやったのにゃぁ。
それに何々、写真の裏には「茂」と「京子」と名が書かれている。
妻が恐らく京子という名で、あいつの名前は茂というのかにゃ。
よし、準備は整ったのにゃ。
あの茂という者に甘い言葉で誘惑し、夫婦仲を演出しつつ、
日頃起きるであろう夫婦の問題に言及し、茂に悪口を言って嫌な気持ちぃにさせてやるかにゃ。
人間の不幸は蜜の味ぃ……なのにゃあ☆
あっ、考えていれば奴が来たのにゃ。
「茂!今日もいい天気ねぇ。茂もいつもに勝ってかっこいいんだからぁ」
「京子……、京子なのか!」
「えっ、どうしたの、京子だよ。そんなに慌てて、えっ」
「京子ぉ!!」
うわぁ!なんなのにゃああああ!急に抱き付いてきたのにゃ、きっしょぉ。
頭とちくるってやがるのにゃああ。
「わわわ、びっくりしたよ、茂」
「京子、京子ぉぉ!」
なんだこいつ、頭がおかしいのかにゃ。
京子と妻の名前だけ叫んで、変な奴にゃる。
「ちょっとぉ、急にどうしたの茂ぅ。離して、苦しいよぉ」
「やだ、離さない!」
うわ、本当に苦しくなってきたのにゃ。どんだけ抱きしめるのにゃこいつ。
もうこうなったら、さっさと悪口だけ言って神社に帰るかにゃあ。
「離してって言ってるでしょ。お前そんな奴だったの?嫌いよ茂」
どうだにゃ。効いたかにゃ。悪口言われてがっかりしただろぅ。
「そうだよな、京子。お前は俺のこと、嫌いになってしまったよな。だって、全て俺が悪いんだから」
「俺が悪ってなんの話よ、茂」
「2年前、子供らが伝染病に侵されただろ。俺は元より病弱で、仕方なく山を越えた薬屋に薬を貰いに京子に頼んで、山中、熊に襲われて亡くなってしまった」
「亡くなった……」
「俺はずっとあの日を後悔してきたんだ」
この茂という男、妻を既に亡くしていたのかにゃ……
そんな男の前に、妻の姿で現れてしまった。
人選ミスったんじゃねえのこれ……
でも不思議だ。なんでこの男、頻繁に神社に来ていたのか……
「どうして頻繁に神社に訪れて……」
「お前さんに会うためだよ。あの神社の伝承。亡くなった人間の亡霊が現れると言われるあの神社なら、もう一度妻に会えると」
「だから、あの神社に」
こいつ、なんて奴なのにゃ。今思えば変な話だ。
手足はやせ細っているし、この男自身病弱らしい。
そんな奴が、頻繁に習慣的に神社に訪れては何かを探して、去っていく。
亡霊として現れる妻を探していたのか、お前……
さらには欠かさず採取していく柿。もしかして柿が妻の好物で、お供え物に取っていたものなのかにゃ。
「そう言えば私、柿って良く食べてたっけ」
「ん?何言ってるんだ京子。お前は柿が嫌いだったろ。俺の好物は柿だけども」
お前が柿好きなだけかよ。ただの柿泥棒か、返せよ。
「それより、京子。帰ってきて嬉しい。この日をずっと待っていたんだ。ずっと待ったさ、2年間ずっと」
今この男は僕の事を、亡霊として現れた妻と考えているのかにゃ。
「そうだ、これ、丁度お前さんの好物だった美味しいサンマがあるんだ。一緒に食べよう」
「これは……」
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