僕、猫又ラルルッチ

ロズロズ

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人間の行く末

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僕はイケ猫ラルルッチ。
愛する家主、いや、仮夫と言うのも変な話にゃるが、とある茂という優男を大事にするメス猫にゃる。

彼と会ったのは1年前だったか。

出会いは唐突であったが、あの日から僕はいつものように茂の家に訪れるようになった。

とある唐突な嘘のせいで、息子に会わないように毎晩神社に戻り、畑仕事に出掛けている間、茂の家に訪れ談話する毎日。

人間に優しくされるのは何年、いや何世紀ぶりかにゃ。

今日も茂に会いに行く。
柿が美味しくなるこの季節、神社に生えるそれをむしりとり、今年初めての熟した果実を茂に届けてやるにゃる。

さらには今日、再開の1年記念に、僕にプレゼントをくれるというにゃる。
なんだろう、何をくれるのかにゃあ。楽しみだにゃあ。

「茂、会いに来たよ!」

「……」

おかしいのにゃ、茂はどこにいるのかにゃあ。

「茂、どこにいるのぉ?」

「……」

おっかしいにゃあ、どこにいるのかにゃあ?
あれ、裏庭に方に茂の可愛い足が見えるのにゃ。
こっちにいたのかにゃあ。

「茂、ここっちにいたのか。会いにきた……、しげ、茂!お前、その姿!」

茂の半透明な姿。生気を感じない顔、そして何より……
浮遊する茂の下に転がるもう1体の茂。いや、遺体か、にゃ……。
その姿は霊体の姿にゃるか、茂。
お前、どうして。

「ああ、京子。きょうもあいにきて、くれた、のか」

「茂、お前、どうしちまったんだよ!」

「元々びょうじゃく、の、身。裏庭で倒れて、そのまま、ばったりと……」

霊体は死の瞬間から時間が経つほど、生きていた頃にまとっていた生気が薄れ、人の言葉を話せなくなるはず。
死後、本来はすぐにでも山中の霊界道を越えて、あの世に向かうはずなに、
お前がこの場所に残っているということは……。

お前、地縛霊になりかけているのかにゃ。
何か後悔があるのか、にゃ、、。
成仏できず、何百年も後悔に苦しみ続けることになるぞ、茂!

「京子、きょう、子」

「どうしたの、茂、何を伝えたいの!」

「それ」

「な、もう一度言って、分からないよ!」

「それ」

何を指さしているのかにゃ。
箱……、これは何の箱かにゃ。
茂はこの箱を指さしているのにゃ。

この箱を開ければ、いい、のか、にゃ。

この箱、は……

あ……

「ホタテ、、」

「たべたい、言ってた、ろ。きょう、子。再開の、1ねん、きねん……」

「茂、私の好物覚えていてくれたんだね」

「ああ」

「今食べるよ」

「ああ」

「美味しい、美味しいよ、茂」

「あ、あ」

「美味しい、本当にお美味しいよ、茂」

「よかった」

「ありがとう、ありがとう、茂。ありがとう、ありがとう!」

「……」

消えたのかにゃ、茂……
なんで、今日死んじまったんだよ、お前。

しかも、まだまだ息子が小さいじゃないか、茂。

元々父子家庭の身。なのに、お前が逝ってしまったら、だれが息子の面倒を見るんだよ、茂!

こんな貧しい家庭で、畑仕事を教えてあげてたのもお前だろ、茂。

「パパ、どこにいるの、パパ」

な!なんで息子が帰ってきたのにゃ!
今、畑仕事に行っているはずじゃ。

「さっき届けたホタテだけど、おまけにサンマもくれるって言うから家に置きに来たよ」

ここで息子が茂の遺体を見たらどうなる。
3年前に母を亡くしたばかりなのに、ショックが大きすぎる……

「どこにいったの、パパ」

どうすれば、いいだよぉ。分からないよ、茂。

「パパ、どこ?」

まずい、こっちに来るにゃる、ヤバイにゃる!

「パパ、どこ」

ヤバイ!!

「パパ!」

………

「パパ!」

……

「パパ!」

……

「パパぁ、なんで無視するんだよ。あれ、なんか泣いてる?」

「何言ってるんだ、ちょっとゴミが目に入っただけだよ。いつものパパだよ」

「何いってるんだよ。そりゃいつものパパだよ。ほれ、おまけのサンマだってよ」

「ありがとう。それより、早く畑仕事にお戻り」

「へいへい、分かったよパパ。それより、今日の夕ご飯はホタテだろ。奮発したじゃん。楽しみにしてるからね」

「ああ、分かってるよ」

「じゃあ、また夕方には戻るよ」

僕は猫又ラルルッチ。
人間が大好きな妖怪です。

茂の遺体は後で、僕が育った神社の片隅に埋めに行こう。
息子には、茂が亡くなったことを黙っておこう。

罪。だけど、今、それが必要です。

はあ、また僕は人間に悪い事をするのかにゃ。
好きな人間の姿。僕。だけどもうこの世にはいない。

僕は悪い猫又にゃる。人に化け、人を欺く妖怪。
だけど、最後に茂の大事な宝を守る義務が僕にはある気がするにゃる。
だから……

人間を化かすのは、この子で最後にするかにゃ。
畑仕事も手伝うよ。毎日美味しいご飯も作るよ。茂みたいに。

そう、あと数十年。
せめて、この子が立派に育つその日まで。
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