LIGHT and DARK~明日はきっと晴れる~

咲華

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始まりと再会

始まりと再会1

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それから6年。
「尚史さんー!」
「あっ葵ちゃん! それに真也くんたちも……」
「尚史さん、お疲れ様ですー」
カフェで葵たちは男性―――音坂尚史と会っていた。
彼は苦安の依頼を紹介する、いわゆる受付である。
「もう夏休みだもんね、例年の通り学校が休みだからバンバン依頼を渡すから!」
「あはは……ガンバリマス」
「えっと、早速だけれど今回の依頼はねー」
そう言いながら彼が机に何枚かのクリアファイルを並べた。
なんとか自分たちの飲み物を置く場所だけは確保しつつもその量はかなり多かった。
「かなり依頼が多いなぁ」
「うん、いつもより多いよね」
真也の言葉に葵がうんうんと頷く。
「それが結構雑務が回ってきていて……いや、まぁ確かに苦安でしかできないことだけれどさぁ」
それに尚史が困った顔を浮かべる。
「確かに内容からして、そうだけれど……」
彰が唸る。彼は続けて
「でも尚史さん、流石にこの内容がこんなにいっぱい出てくるのはおかしいんじゃないです?」
ファイルを数冊手に取って机の別の場所に並べる。そこに書いてある言葉を見て、隆斗が息をのんだ。
「猛獣討伐って……猛獣さんなんか滅多に見ないレアな存在じゃないの?」
猛獣というのは森や林にいるわけではなく、町に出てきては人を襲う獣のことだ。
確かに普段は出会わないのだが……
「でも、ここ最近新聞やテレビニュースの一面は猛獣被害ばかりよね」
葵の言葉に真也も顔をしかめた。
「場所も都市部の方ばかり……これはどうも妙だな」
「あっちには森も林もないのにね……」
だからこそ都市部はあまり好きじゃないんだよなぁ、と彰がため息を吐く。
(でも猛獣退治だけだったらおかしいような……)
「……その、尚史さん。私の知識不足だったらごめんなさいなんだけれど……」
彼女がおずおずと手を挙げた。
「ん? どうした、葵ちゃん」
「こういうのって別に「苦安でしかできないこと」ではないよね?」
そういった猛獣を狩る組織があったはずだと彼女は記憶していた。
彼女たちが所属している苦安は警察では対応できない裏社会の犯罪を取り締まる組織であり、例外として武器も所持できる。とはいえ、苦安の仕事じゃないと思うのだ。
「そういうのはスペシャリストに任せた方がいいのではないのかと思ったのですが……」
そう言いながらも、それとは別に。
苦安じゃないといけない何かがあるのではないかと彼女は感じた。
(スペシャリストじゃ駄目で、苦安じゃないといけないこと……)
「なるほど、絡んでいるんですか」
彼女が答えを出す前に、真也が深刻な口調で呟いた。
「絡んでるって……闇組織が、ですか?」
彰が顔をしかめた。
確かに、闇組織が絡んでいたらそれはもう苦安の管轄だ。
「んー……おかしいなぁ」
「隆斗兄? どしたの?」
ファイルに目を通していた隆斗が首を傾げた。
「うんん、ちょっと違和感があって……でも何かとかは言えなくて。もう少しデータが欲しいんだけれど……」
つまりまだデータ不足ということだろう。
「隆斗、データがあれば分析出来そうか?」
「え、う、うん。それは僕の得意分野だし」
真也の質問に隆斗は頷いた。
そしてその答えを聞いた真也は
「そういうことなら尚史さん、俺らがこの依頼を一式受けます」
そう尚史に進言した。
「ありがとねー! って一式!?」
尚史が困惑したような反応をした。
(いや、まぁそうなるよね)
「いくつもの場を見たほうが判断しやすいと思ったんだ、ダメなのか?」
「うーん、まぁ実力があるチームだから任せることは出来るけれど……無理しないでよ?」
渋々といった感じで彼は数冊のファイルを手渡した。
そして立ち上がると
「じゃあ俺はこれで。くれぐれも気を付けてね!」
彼はひらひらと手を振ってお店を出て行った。
「……ごめん。俺のせいで複数受けることになって」
尚史を見送ると隆斗がしょんぼりとした表情で謝罪をした。
「隆斗兄、気にしないで」
「ああ、俺が決めたことだしな」
真也がキッパリと言い切る。
「違和感っていうのが何か分かればいいね、とりあえず僕らも行きましょー」
彰の言葉に葵たちもまたお店を出た。
「それで隆兄、どこから向かおうか?」
葵がコテンと首を傾げる。
「うーん一番近いところから……ん?」
隆斗が言いかけたその瞬間、声が聞こえてきた。
(え……この声って……)
どこか透き通るような、力強い歌声だった。
(うそ……どうして……)
だんだんと葵の顔が青ざめていく。
「とても綺麗な声……」
その変化に気づかない彰が思わず呟く。
「誰だ? 有名な歌手が来てるのか?」
「そんな話聞いてないけれど……って葵ちゃん!?」
隆斗が呼び止めるのを聞かずに、葵は声の方向に駆け出した。
聞き覚えのある声、そしてそれが意味することは……
―――歌声がやんだ頃、ようやくその場所に着く。
周囲を見回しても探している相手はいなかった。
その代わり、
「大丈夫ですか!」
通行人が数人、横になって倒れていた。
「葵! どうした!?」
真也たちが駆け寄ってくる。
そして瞬時に状況を察知したのだろう。
「これって!?」
「なんで……こんな……?」
隆斗と彰が声を上げた。
「みんな……」
「どうしたんだ?」
真也が再度問いかける。
葵はどう言おうか少し迷い、口を開く。
「さっきの歌声は……私が前いた組織の幹部の声なの」
そう告げたときの3人の表情を見ることが怖く、思わず彼女は俯く。
「えっ」
「葵ちゃん! それ本当!?」
「とにかく近くにいるのなら探しに……」
真也がそう言ったとき
ヒュンッ
何かが飛んで来る音がした。
「うわ!? 動けない!?」
隆斗が足を動かそうとするものの、その努力も虚しく動かなかった。
「っまさか!!」
反射的に彼女が周囲を見回す。
(しまった! 今警戒すべきなのはこっちなのに!!)
自分が昔いた組織について負い目に感じている場合ではなかったと葵は後悔する。
「そのまさかだな」
そんな葵の前にスッと背が低い赤髪の青年が現れた。
「久しぶり葵、6年ぶりだな」
「流歌……」
彼の優し気な声に、葵はかき消されそうな声で答える。
「やっぱりあの声は流歌だったの……」
ほぼ確定事項だったのだが、どこかで違うと思いたかった葵は落胆する。
「なんだ? 俺の声は不満だったか?」
「そんなことないよ。でも……」
ニヤニヤ笑う流歌に対して葵は言葉を詰まらせる。
「……それにしても、大きくなったなぁ」
流歌は葵に近づいて頭を撫でた。
「おいっ!」
真也のその言葉を聞かずに
「でも葵姉ちゃん、俺より身長低くなってる」
「俊……」
彼らの背後からまた1人、俊がやってきた。
「久しぶりー! 葵姉ちゃん、元気そうでよかったぁ」
「俊も、流歌も元気そうでよかった」
この状況はとても喜べないが。
その会話を少し続けて、ようやく彼らは真也たちの方を見る。
「お前ら一体誰だ?」
この機会を逃さまいと真也がそう問う。
「まさか……幹部さんとか?」
彰がオドオドと言葉を発する。
「ああ、自己紹介しないと、ですね」
俊が面白そうにふっと微笑んだ。
「はじめまして、【シャドー】こと、忍河俊です」
「おい、俊。本名も言ってしまうのか?」
裏社会の人間は、本名とは違う二つ名で名乗ることになっている。
それが暗黙のルールなのだ。
なので、この場で本名を名乗るのは不自然だった。
「まぁ、葵姉ちゃんが知ってるし、いいんじゃない?」
俊がさらりとそう言い放つ。
「仕方ない、か。俺は【エデン】。本名は久遠流歌」
俊とは対照的にため息を吐いたのち、冷静な声で流歌が名乗った。
その自己紹介を聞いて、隆斗と彰は思わずポカーンとする。
しかしその反面、葵と真也が鋭い視線を向けた。
「2人とも何しに来たの? 何が目的?」
彼女が冷たく言葉を放つ。
「そんなに焦らなくても大丈夫、今日は何もしないよ。
ただ葵姉ちゃんたちに挨拶しに来ただけ」
そんな葵に俊は先ほどと同じテンションで答える。
「まっ、俺らの目的は葵姉ちゃんに会って、連れて帰ることだけどね」
「…………っ!!」
(やっぱり……今になってとは思うけれど……でも……)
「残念だけど組織に戻る気はないよ」
「って言うと思った。でもな……」
流歌が少し黙る。
そして
「蓮香も……江も心配してた」
「…………」
彼女は鋭い目を解いて、申し訳ないような顔を浮かべた。
「……そっか」
ようやく葵はそれだけをポツリと呟く。
「でも私は……」
そう続けようと思ったとき、俊も流歌も踵を返していた。
「あ、寝た奴らはすぐ目覚ますから。じゃあまたな」
「ばいば~い!!」
「あっ……」
流歌に手を伸ばすも、それが彼に触れる前に、彼らはその場から去ってしまった。


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