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138話 ミドリムシの家族のお姉さん
しおりを挟む「はぁ、はぁ、はぁ。 なんだよ、どうなってるんだよ……」
小さな獣人の子供は泣きそうになりながら思わずそんなセリフを吐き捨てる。彼は自分の村に病がはやり王都にその事を伝えるために走ってきた。普段なら王都に近づくにつれ少なくなる魔物が普段とは違い少年の視界には数多く見つけられた。
「いつもはこんな居ないのに! うううう…… ぐすぐす」
獣人の少年が泣き出すには然程時間がかからず、その目からは涙が溢れだした。
少年は泣きながら今の状況に文句を言うが、それでも王都に向かって走りづづける。その時少年の遥か後ろで爆発音が聞こえる。
「なんだ!? ひっ!」
少年が走りながら後ろを振り返ると、猪型の魔物が自分達の進行方向にある木をなぎ倒して森から出てくる姿を発見する。猪型の魔物は森から出ると横一列に並ぶと後ろ脚を蹴り突撃する準備をはじめる。
少年がその様子を見ていると横一列に並んだ魔物がいっせいに走りはじめる。
その光景を見た少年の足は止まってしまう。少年が住む村の周りにはめったに見られない危険な魔物が大量にあらわれ、その魔物が今、自分が向かっている王都に向かって走ってくる状況は少年の心を絶望に落とす。
そんな光景を見た少年の走る足が止まるのも無理はなかった。
少年は絶望からその場で茫然と魔物達が向って来るのを眺めていたが、その時少年の耳に自分に向けられた小さな声が聞こえた。獣人の少年の耳は人族ではとても聞き取れない、遠くの声をききとった。
思わず少年が振り返ろうとすつ途中、今度は耳元で声が聞こえた。
「大丈夫ですよ♪」
その声に少年が驚くが、その声の主は少年が振り返った先にはいなかった。少年は聞こえた声に驚き振り返るも声の主を見つけれず、再び魔物達の方に視線を向ける。そのわずかな時間の間に魔物が迫りくる光景は驚くべき変化をとげていた。
王都に向かって走って生きた魔物の一団の先頭が空に打ち上げられていた。背丈が地面から2mはあるかと思われる猪型の魔物達がまるで木の葉の様に空を舞っている。
少年には理解が出来ない光景が広がりその光景をぼんやりとみていると上空より大きな音が通りすぎていった。
ブブブブブブブ!!
その音に気づいた少年が空を見上げる。そこには大量のキラービーが飛んでいくのが見えた。少年の頭はもう周りの光景を情報として処理できないほどに混乱していた。
小さな少年の頭の中は見た光景の状況を処理できずにいたが一つだけ確信したことがあった。それは、自分はここで死ぬのだろうという事であった。
少年が見た光景は自分の周りに大量の魔物が居る光景。それ自分は決して生きて王都にはいけないと思わせた。自然と少年の目からは涙が溢れポツリと言葉をこぼす。
「おかあちゃん…… おとうちゃん……」
それが少年の口から出た言葉であった。自分の死を悟った少年の口から出た言葉は最愛の家族へのよびかけであった。
ドドドドドドドドド!!
少年が思わず言葉をこぼした直後に辺りに響く大地も揺るがす爆音が鳴り響く。少年はあまりに大きな爆音に飲まれ声もあげれずにうずくまる。そして、その音に恐怖して震えていた。
「大丈夫ですよ♪」
そう声が聞こえた瞬間、今まで聞こえていた爆音が小さくなる。それでも恐怖に打ち震える少年であったがその頭がやさしく撫でられる。
「大丈夫ですよ♪」
もう一度聞こえた声に顔を上げる少年。少年が見たのは自分より少しだけ大きな少女が見せる笑顔であった。
少女の顔を見た瞬間、少年は抱きしめられる。
「本当に、間に合って良かったです♪」
「え? え? お姉さんは誰ですか?」
少女の声に我を取り戻した少年が尋ねる。
「私はクウと言います♪」
その声に安心した少年であったがすぐに自分の置かれていた状況を思い出し声を上げる。
「お姉さん! 魔物が! 魔物が!」
幾度目かの少年の【お姉さん】という言葉にクウが喜びの声を上げる。
「お姉さんっていいました!?」
そんな2人の会話を遮るように猪の魔物がクウに襲い掛かってきた。獣人の少年は、声も出せずその光景をただ見る事だけしかできなかった。
だがその後は、少年の予想とは違い魔物をクウが何事もなかった事の様に倒す。
「えい♪」
軽い掛け声とは裏腹にクウに向かってきた魔物は、クウの体の内部を破壊する技に体にある内臓に直結する穴や口、目や耳から血や内臓を噴き出し倒れる。
普段家族の蟲人の中で2番目に小さな体のクウは、何かと他の家族に子供扱いされることが多かったために少年に賭けられた【お姉さん】という言葉にとても喜んでいた。
「ほら! 大丈夫だよ♪」
そう言って少年に声をかけるクウであった。
「……」
だが、少年から返ってきた反応は血や内臓にまみれのクウを見て沈黙。その事に気づかないクウはとにかく少年を落ち着かせようと抱きしめる。
「……」
少年が震えを止めたことにより安心したと思ったクウの気持ちとは裏腹に、少年は内臓や血を被ったクウに抱きしめられた余りの恐怖に気絶した。クウは、頭をしばらくなでるが反応が返ってこない事に気づき少年の顔を確認する。
顔を確認するクウ。
少年は白目を向き気絶していた。クウはその少年に声をかけるも、少年が目覚める事もなく、急いで大きなホレストアントの子供を呼び寄せた。クウはその体に少年を括り付け、王都に向かうように指示をだすのであった。
「クウは頼られるお姉さんになりたいです……」
そう呟いたクウは他の王都に向かってい逃げている人達を守るために駆け出すのであった。
「おい! 大きなホレストアントがこっちに来るぞ!」
亜種で体長2mほどの大きなホレストアントを見た人々が騒ぎ始める。その声を聞き騎士や冒険者があつまってくると、その中の1人が叫ぶ。
「おい! こいつは【軍団】の家族だ! こんなでかいやつは【軍団】以外考えられない! 道を開けろ!」
叫んだ者の言う通りに人々が、ホレストアントの進む方向から道の両脇に移動する。走ってきたホレストアントは速度を落とすと、丁寧に少年を地面に下ろし、足を上げて支持をだした冒険者に敬礼をすると戦場に戻るべく振り返り走り出した。
走り去ったホレストアントを確認した人々は少年の元に集まる。
「おい! 大丈夫か!?」「ケガはしてないか!?」
気絶し反応の無い少年の体にケガはないかと騎士や冒険者達が確認する。その内の1人が少年に括り付けられた手紙を発見する。
「何か手紙が着いているぞ」
少年に括り付けられていた手紙に気づき少年のそばに集まった者達が全員でその内容を確認する。
『この少年を保護してください チーム【軍団】のお姉さんより』
その手紙を読んだ冒険者は叫ぶ。
「この少年を保護するぞ! 前線から運ばれたようだ!」
その叫び声に冒険者が反応する。
「誰からの手紙だ!?」
「チーム【軍団】のお姉さんらしい!」
その言葉に冒険者達は心の中で手紙の主を叫ぶ。
「ヒカリさんだ!」「レイさんだ!」
クウが手紙に込めた心とは裏腹に手紙の主をクウという者はいなかった。
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