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161話 ミドリムシは倒れる

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 気を失って床に寝かされている緑を家族がのぞき込む。緑が気を失うことなど無かったために家族は心配しつつもただ緑の様子をうかがうようにしていた。そんな中、我に返ったヒカリがウィスプに尋ねる。

「はっ! このままではいけません緑様をベッドに運びます……案内してもらえますか?」

 家族の中でも緑を崇拝しているヒカリはそう言ってウィスプを見つめる。その視線に若干焦りながら恐縮して答えるウィスプ。

「ど、どうぞこちらです。私の部屋で申し訳ありませんが」

 そう言ってウィスプもあまりの展開に意識が付いてきておらず、少し戸惑いながら自室に案内する。

「どうぞ私のベッドで申し訳ありませんが……」

 そこは、広い部屋に大量に干し草が置かれているだけであった。それを見てヒカリはこめかみに青筋を立てて尋ねる。

「じょ、冗談ですよね?」

 明らかにヒカリが不機嫌になった事に気づきつつもヒカリの言葉を理解できないウィスプが思わず聞き返す。

「…えっ?……な、何がでしょうか……?」

 そんな2人の後を付いてきた龍種達がその様子を見て、代表する様にウンディーネが慌てて声を上げる。

「落ち着いてヒカリ! 私達が普段子供の姿で生活しているから忘れているのかもしれないけど、本来の私達の姿は大きな龍なのよ! 私達もダンジョンでは日によっては、森や草原なんかで龍の姿のまま地面で寝たりするのよ!」

 慌てて答えたウンディーネの言葉を聞きヒカリは、黙り込む。皆がヒカリの様子をうかがう中、ヒカリは落ち着きを取り戻し謝罪する。

「……確かにそうですね……頭の中がハッキリしてなくて申し訳ありません」

 普段冷静なヒカリが緑が倒れたことにより、表面は冷静を取り繕っているが内面はかつてないほど混乱していた。そのヒカリを見て、魔緑の嫁の3姫がヒカリに声をかける。

「ヒカリこちらで世話になるよりダンジョンにみなで戻る方が良いのではないかのう?」

「せやでダンジョンなら敵もこんやろうし、来たとしても皆がおるし!」

「その方がすっごい安心できます!」

 3人の言葉になぜ今まで気づかなかったのかと自問自答を始めてしまいそうになるヒカリだが、落ち着きを少し取り戻したのかすぐさまに3人に返事をかえす。

「た、確かにそうですね……私としたことが…冷静で……なかったです…ね……」

 そう言った途端、ヒカリの目から涙がこぼれ落ちる。

 1つ涙がこぼれるとそこから堰を切った様に涙が溢れ出る。ヒカリは緑を抱き上げているために涙を流す顔を隠せずうつむく。

「うぅ…緑…さ…まぁ……」

 そのヒカリの声を聞いた琉璃、凛、珊瑚はたまらなくなり、緑を抱け上げているヒカリを後ろから抱きしめる。

「大丈夫だ……絶対に大丈夫だ……」「せや! 大丈夫に決まってる!」「ちっとも心配なんかいりません!」

 そう言う3人の目にも涙が見える。

「うぅ、ぐすっ……ヒ、ヒカリさん……行き…ましょう……」

 そう言ってヒカリと同じように涙を流しながらクウがダンジョンの扉を開く。

 その日から数日の間、緑は眠りつづけるのであった。



 緑が倒れてからから数日後に闇の龍種でウィスプ達の国と敵対する国の王のシェイドに戦況の連絡が行われる。

「龍種と蟲毒の戦士が負けただと?」

「はい……敵は他の大陸に行って救援をもとめたようです……」

 そう言って直接シェイドに戦況を伝えているのは、2重スパイとなったヤスデの蟲人であった。彼女は、緑達が必ず蟲毒の風習をなくすという条件で2重スパイの依頼を引き受けた。

「その他の大陸の戦士の姿は見たか?」

「いえ、残念ながら……私がその情報を知れたのは、蜘蛛の戦士が捕まったと聞き、その確認に潜入している時に向こうの国にで蟲毒の戦士と龍種に勝ったと大喜びをしていたからです」

「そうか……たかが2匹倒したくらいで大喜びか……馬鹿な奴らだ……。ウィスプが前線に出てきでもしなければこちらに大した被害は出ないというのに」

 ヤスデの戦士の報告を受けても特に問題はないだろうと思うシェイドをよそに、ヤスデの戦士は自分がスパイになりボロがでないか内心冷や冷やしながら報告をしていた。

 ヤスデの戦士が報告を終えその場から下がろうとした時、シェイドの呟きが聞こえる。

「ウィスプ……ウィスプ……お前さえ居てくれれば俺はこんな事をせずに済んだのに……なぜだ……」

 その言葉でヤスデの戦士は報告の間下げていた頭を思わず上げてしまう。ぼんやりとヤスデの蟲人を見つめながら呟いたシェイドの目線が交差する。

 思いがけずにシェイドと視線が交差したヤスデの戦士は驚く。それはシェイドが目尻にほんの僅かに涙を浮かべていたためであった。シェイドがヤスデの戦士に視線に気づくと慌てて声を上げる。

「報告は以上か!? ならば下がれ!」

「はっ! 失礼します!」

 シェイドの見せた涙に疑問が湧くも問いだだす事などできず、ヤスデの戦士は大人しく自室に戻る。部屋に戻り部屋の中に誰もいない事を目視で確認したヤスデの戦士は深いため息つく。

 すると、誰もいないはず場所から声がする。

「上手くいきましたね~」「はいレイさん順調ですね」

 その声にヤスデの戦士は驚きもせず尋ねる。

「居ると思っていたから驚きはしなかったが……あんた達は、俺が報告をしている間どこにいたんだ?」

 そうヤスデの戦士に尋ねられたファントムとレイが誰も居なかった空間から姿を現しなんでもない様な様子で答える。

「貴方が報告をしている間はこの城の中を見て回っていました」

「ウンディーネさんでも私達の幻術を看破できなかったので大丈夫でしょう」

 そんな言葉を聞き敵の本拠地で情報を集めていた2人の言葉に、ヤスデの蟲人は頭痛を覚えるのであった。



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