聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる

文字の大きさ
14 / 17
おまけ

第四節 聖女と侍女(前編)

 私は聖女に憧れていました。子供の頃――と言っても、今でも子供のようなものですが、ずっと幼い頃、聖女様が皆の前で説教をされたときがありました。そのとき、遠くからお見かけしたその姿は、もう、言葉に言い表せられないほど神々しく……これが聖女というものなのだと、いたく感激したのです。しかし、私は祈りの力をまったく持っておらず……まして、黒髪のぱっとしない私のような凡人が、聖女の器になれるなどとは到底思えませんでした。
 説教が終わると、聖女様は御付きの方とともに、姿を隠されました。
 そのとき――私は閃きました。
 聖女になれなくても、聖女様のおそばに控え、俗事から解放して差し上げることはできるのではないか――と。大げさですが、これが天啓、というものなのかも知れません。私の生きる道は、ここに決まったのです。
 侍女としての修行の日々は、決して平坦なものではありませんでした。お恥ずかしい話、涙を流したことは、一度や二度ではありません……。けれど、私は最年少ながらも、なんとか喰らいついていったのです。
 そんな日々が数年続いて……あるとき、聖女様が交代されるとの報せが入りました。それに伴い、侍女の交代もあるとのことでしたが、私より優秀な方がおられるのは良く知っていましたから、きっと自分の出番はないだろうと、さみしく思っていました。実際、次々と先輩方の名前が呼ばれていきます。

「ルゥ・リーズベル」

 ですから……自分の名前が呼ばれたときは、本当に嬉しく……感極まってしまい、皆さんに慰めてもらうことになったのでした。あとでお聞きしたところ、新しい聖女様もお若くいらっしゃり、私の一つ上とのこと。歳が近い方が、何かと聖女様も安心であろうということから、私に白羽の矢が立ったのでした。
 初めて聖女様――エリス様とお会いしたときは、あの幼き日の思い出が甦ってくるようでした。ああ、この方は、まことの聖女様なのだ……この方になら、すべてを捧げられると、そう思いました。それから、粉骨砕身の心でお世話をしようと、ぐっと意気込んだのです。

「ルゥ」
「は、はい! いかがされましたか、聖女様」

 エリス様は、多くを人に頼られない方でした。そのような方に必要としていただけることは、本当に喜びだったのです。

「髪に糸くずが付いています。取ってあげますね」
「は、はい……。お手数おかけします……」

 けれど、エリス様は何でも卒なくこなされ、侍女の仕事にも多分に気を遣ってくださり、あげくの果てには、私がお世話をされるという有様でした……。
 それに、聖女の勤めは、民が思うほど並大抵のものではありません。エリス様の心身の負担たるや、どれほどのものであるか……。
 何とかエリス様のお役に立ちたい。少しでもお気持ちを楽にして差し上げたい。私は考えました。

「聖女様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「聖女様の熱心なはたらきぶり、皆認めているところです。王からも、自由に使えるお金を多く頂戴しております。ここは、何か美味しい――」
「あら、そうなのですね。では、そのお金は、すべて孤児院の経営にあててください」
「――え?」
「はい?」
「い、いえ! すぐに手配いたします!」
「? 苦労をかけます」

 別の日のこと。

「聖女様」
「ルゥ? どうしましたか?」
「宮殿にこもりっぱなしでは、息も詰まりましょう。たまには、どこかへ羽を伸ばしに出掛ける、というのはどうでしょうか? きっと、お身体にもようございます」
「そう、ですね……。たしかに、ルゥの言う通りです。たまには陽の光を浴びないと、身体に良くありませんね」
「っ! はい! ……ぁの、ですね。僭越ながら、実は私、聖女様にご満足していただける、街のぶらり旅プランを百二十八個ほど考えてきたのです。有名なお菓子屋さんから、歴史ある観光名所、見晴らしの良い丘まで、要所はすべて押さえております。外出の許可に関しては、私が責任持ってお手続きをさせていただきますので何の心配も――」
「ルゥ? 何をしているのです? 庭へ出ますが、あなたは来ないのですか?」
「――え?」
「はい?」
「い、いえ! お供させていただきます!」
「? では行きましょうか」

 そのあとも、諦めずに何度も何度もアプローチをかけてみましたが……暖簾に腕押し。一度も上手くいくことはなかったのでした……。
感想 4

あなたにおすすめの小説

殿下、妃殿下。貴方がたに言われた通り、前世の怨みを晴らしに来ましたよ

柚木ゆず
恋愛
「そんなに許せないのなら、復讐しに来るといいですわ。来世で」 「その日を楽しみに待っているぞ、はははははははははっ!」  濡れ衣をかけられ婚約者ヴィクトルと共に処刑されてしまった、ミリヤ・アリネス。  やがてミリヤは伯爵家令嬢サーヤとして生まれ変わり、自分達を嵌めた2人への復讐を始めるのでした。

わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました

柚木ゆず
ファンタジー
 より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。 「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」 現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

愛する妹が理不尽に婚約破棄をされたので、これからお礼をしてこようと思う

柚木ゆず
ファンタジー
※12月23日、本編完結いたしました。明日より、番外編を投稿させていただきます。  大切な妹、マノン。そんな彼女は、俺が公務から戻ると部屋で泣いていた――。  その原因はマノンの婚約者、セガデリズ侯爵家のロビン。ヤツはテースレイル男爵家のイリアに心変わりをしていて、彼女と結婚をするためマノンの罪を捏造。学院で――大勢の前で、イリアへのイジメを理由にして婚約破棄を宣言したらしい。  そうか。あの男は、そんなことをしたんだな。  ……俺の大切な人を傷付けた報い、受けてもらうぞ。

格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう

柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」  最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。  ……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。  分かりました。  ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。

結婚式当日に私の婚約者と駆け落ちした妹が、一年後に突然帰ってきました

柚木ゆず
恋愛
「大変な目に遭ってっ、ナルシスから逃げてきたんですっ! お父様お姉様っ、助けてくださいっ!!」  1年前、結婚式当日。当時わたしの婚約者だったナルシス様と駆け落ちをした妹のメレーヌが、突然お屋敷に現れ助けを求めてきました。  ふたりは全てを捨ててもいいから一緒に居たいと思う程に、相思相愛だったはず。  それなのに、大変な目に遭って逃げてくるだなんて……。  わたしが知らないところで、何があったのでしょうか……?

魅了の魔法をかけられていたせいで、あの日わたくしを捨ててしまった? ……嘘を吐くのはやめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「クリスチアーヌ。お前との婚約は解消する」  今から1年前。侯爵令息ブノアは自身の心変わりにより、ラヴィラット伯爵令嬢クリスチアーヌとの関係を一方的に絶ちました。  しかしながらやがて新しい恋人ナタリーに飽きてしまい、ブノアは再びクリスチアーヌを婚約者にしたいと思い始めます。とはいえあのような形で別れたため、当時のような相思相愛には戻れません。  でも、クリスチアーヌが一番だと気が付いたからどうしても相思相愛になりたい。  そこでブノアは父ステファンと共に策を練り、他国に存在していた魔法・魅了によってナタリーに操られていたのだと説明します。 ((クリスチアーヌはかつて俺を深く愛していて、そんな俺が自分の意思ではなかったと言っているんだ。間違いなく関係を戻せる))  ラヴィラット邸を訪ねたブノアはほくそ笑みますが、残念ながら彼の思い通りになることはありません。  ――魅了されてしまっていた――  そんな嘘を吐いたことで、ブノアの未来は最悪なものへと変わってゆくのでした――。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。