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ノエルのはなし
女神との邂逅6
しおりを挟む――こわい。
少女の己とは対照的な美しい姿が。
――聞きたくない。
美しい唇で紡がれる拒絶の言葉が。
――見たくない。
清廉から侮蔑に染まる瞳が。
ゆっくりと、己の鋭い五感が空気の揺れを感知した――。
「――それで? どうして怪我だらけであそこにいたの?」
……それは、何かを咎めるような言葉ではなかった。悲鳴でも上げられるとばかりに考えていた為、信じられなくてつい、少女を見てしまった。だが、そこには予想していた拒絶の雰囲気はなく、落ち着いた様子の少女がいた。
静かにこちらを見通す少女の澄んだ瞳に、いつまでも黙っているのは居心地が悪くて思わずぼそぼそと、小さく声を漏らしていた。……人化して誰かと話したのはいったいいつぶりだろうか、と考えながら。
「……逃げてて……途中で意識失くして……気付いたら……」
――そう、追手から逃げていた。それも手練れの。
普段は狩りをして得ていた食事も儘ならぬような状態に追い込まれ、ふらふらのところを執拗に狙われ続けて逃げ切れなかったのだ。記憶が曖昧だが、確か何かに吹っ飛ばされて気付いたらここにいたのである。
「あなた、種族は?」
これは、尋問なんだろうか。と、少し身構えながら答える。過度な怯えも悲鳴も拒絶も無かったものの、それで少女を穢した罪が消えるわけではない。結界のせいで逃げられないのは当に分かっているからこその尋問なのかもしれない。
「――ハーフ、です」
「そうなの? 珍しいわね。何と何のハーフ?」
その言葉に――もう、逃げられない。と悟る。真実を言えば、最悪あいつらに引き渡されるのだろう。せっかく逃げ延びた命もここまでであった。だから、嘘をついてしまえばいい。どうせバレやしない。
……けれど、嘘の言葉はいつまで経っても出てくることはなく。口がもごもごと意味なく動くだけであった。
「……あー、言いにくいことなら別に言わなくとも――」
「――神狼と吸血鬼」
「えっ!?」
――気付いたら口が勝手に動いて言ってしまった。
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