乙女夢想~雑な恋愛フラグは罠です。触れるなキケン~

たみえ

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春 7

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「そんなことしていても、いい考えは思い浮かびません。貴重な考えを生み出す頭をもっと大事にしてください」

 茜ちゃんんんんんっ!!

 その場を奇妙な沈黙が支配した。茜ちゃんのあちゃーな発言以降ぴたっ!と静止画なヤンキー。普段は失言なんてしない優等生だろうからか、自らの失言に狼狽えてオロオロする茜ちゃん。
 そして、このタイミングでどう動こうともちっとも良くないパターンしか思いつかず、黙して動かない私。

「「「…………」」」

 ――どのくらいの間そうしていたのか……ヤンキーが立った。

 なんだなんだ? やるのか!?

 心の中でだけファイティングポーズを取り、ヤンキーこと島田くんを注視する。隣では突然立ったヤンキーにビクついた茜ちゃんがそのまま固まっていた。さあ、どうでる……?

「……おい」
「「…………(ごくり」」

 私と茜ちゃんはいつの間にか互いに手を取り合い、同時に深く唾を呑み込んでいた。べっ、べつにび、びびってねーし!

「……おまえら」
「「ひぅ……!」」

 まさかのダブルご指名に、不本意ながら二人同時にか細い悲鳴が上がった。しかしそれに気付いてるのか否か、突如島田くんがその強面こわもてを上に向けて、ついでに指もさした。
 ……ん? 上……? ――あ。

「……あれ、救助ヘリってやつじゃねーのか?」

 島田くんの声につられて上を見ると確かに遠くにヘリのような影がぼんやり見えた。ヘリっぽいような、鳥のような? まだ判別が難しい。

「――あ!ほんとですね!」
「おう。これで帰れそうだな」

 やっと目視できる距離に近付いたのか、茜ちゃんもヘリを見つけて喜んだ。……しっかし、島田くんも良くあの距離で認識できたな。今も音すら聞こえない距離なのに。と、茜ちゃんが――

「――あんなに遠くなのに、よく見つけられましたね」
「いや、音で分かるだろ」
「「…………」」

 うん、ヤンキーは野生児だったようだ。なるほど、どおりでクマから逃げられたわけである。足手まといの私たちがいなければ勝ってたりして……? ……まさかね。あはは。

「……ん……っ!?」

 そうしてまさかな妄想を取り払いつつ救助ヘリを待っていると、なぜかヘリが近付くにつれて見慣れた小柄な茶髪がはっきりと視認出来た。
 そしてしばらくのちにその認識を確信した瞬間、茜ちゃんがギョッとするほどモアイと顔がリンクする。今まで忘れていたとあることに今更思い至ったからである。
 ――ねえ、もしかしてそれってプライベートヘリ?

          ◇◆◇◆◇

 小鳥遊たかなし満月みつきとの初めての出会いは、前世の記憶が戻る前、父の付き添いで訪れた所謂上流階級といわれる方々がお集まりになるお茶会でだった。
 ここで勘違いしないで頂きたいのが、我が家系自体は遡れば代々れっきとしたただの一般庶民であることだ。
 紛うことなく純血のド庶民たる私がこのようなお上品な場に御呼ばれすることなど本来有り得ないのだけど、理由を尋ねられたら父の実績が為せるお零れだと答える。
 なにせ、本来は父が上司に御呼ばれされたこの場にはついでで私がその上司に招待されたに過ぎないのだから。

 私はこの頃、まだ記憶自体は戻っていなかったけれど、深層心理では違ったのか、男性は避けに避けまくっていた。
 実の父とも、その頃かなりすれ違いになっていて、やっと慣れたところだったのだ。
 単純に人見知りだと思われたのか、別の理由なのか、そんなこんなで私は強引にその場へ連れだされていた。

「こんにちは、千尋ちゃん」

 後光が差すような優しい微笑みで挨拶された父の上司というのが何を隠そう、小鳥遊たかなし満隆みちたかさん。満月の父だった。
 ――ま、まぶしい……!

 家に引きこもってばかりで外に出たことの無かった私が今世初めて見た美形の感想であった。もちろんすぐさま身を引いて父の後ろに隠れましたとも。
 嬉しいのか悲しいのか、父に抱き着いて隠れる私へ複雑な苦笑を浮かべる父には悪いけれど、比較的平々凡々な容姿の父のほうが目の前の綺羅綺羅しい人より安心出来たのだ。

 自分から箱入りになるべく家族以外と断固として会ったことの無かった私にとって、初めて家の外へ出て接触した第一村人が実は王様だった、くらいの衝撃といえば分かりやすいか。

「まあ! なんて可愛らしいお嬢さんかしら!」

 まぶしい満隆さんの後ろからひょこっと顔を出したのは、これまたキラキラとした輝きを振りまかんばかりの美女であった。

玲子れいこさん…」
「まあ満隆さんもお人が悪いですわ。こんなに可愛らしいお嬢さんがいらっしゃるならわたくしに教えて頂いてもよろしいでしょうに」
「い、いや、玲子さんこの子は……」
「まあ! 何をそんなに慌てているのかしら? わたくしにもご紹介くださいますでしょう?」

 押しの強い美女は後から知ったのだが、満月の実の母で、遡れば遡るだけ華麗なる血筋を脈々と受け継ぐ、それはそれは由緒正しい系図のお方であった。
 満隆さんが豪族で、玲子さんは華族の系図に連なる正真正銘の雲の上の人たちだった。それを本能的に察知した私が及び腰であったのは仕方ないと思う。

「――そう! 徳正とくまささんのお嬢様、千尋さんというのね? わたくしのことはぜひ、玲子お母様とお呼びになってくださいな」

 私が固まっているうちに何やら代わりに父が紹介してくれたのか、玲子さんが美しい上品な笑みで視線の高さを合わせて笑いかけてくれた。あ、徳正はうちの父のことです。
 まぁ……華麗なる一族というのはデフォルトで後光が差しているのかもしれない、と明後日のことを考えていた私は緊張のし過ぎでそのまま気絶してしまったのだけど。

          ◇◆◇◆◇

 その後、お屋敷の客室にて目覚めた私が色々あって満月と出会い、勘違いしたまま暫く満月ときゃっきゃうふふする日々があるのだけど、それは封印した過去なので今は割愛します。
 ――そんなわけで、何故こんな長々とした回想をしているのかというと、言わずもがなただの現実逃避である。何からだなんて野暮なことは聞かないでほしい。勿論、悪魔からの現実逃避である。

「――ちーちゃん! ちーちゃん! 大丈夫だった?」

 小鳥遊グループのロゴというか、家紋というか、まあそんな感じの見たことあるデザインがされているプライベートヘリから文字通り飛び降り、一目散に私へ向かってきた悪魔はその勢いのまま私へ突撃して――可愛い表現をするとぎゅっと抱き着いて――きたのである。
 そしてそのまま私の全身を撫でまわして怪我の確認をしている最中であった。……故に遠い昔へ現実逃避していたのだけども。
 きっと悪魔の強引さは玲子さんからの遺伝ではなかろうか、と死んだ目でまさぐられる感覚をやり過ごそうと試みているのだ……。

「……ねえ、どこも怪我してない? ……ああ、本当は怪我してるでしょう? ね、ほら脱いで見せ――」
「却下!!」

 一通り大丈夫であると確認出来たのか、いよいよ落ち着いて興奮し始めた悪魔がいやらしい手つきをし出したので、すぐさまベリッ! という効果音でも響きそうなほどの勢いで悪魔を引き剥がした。
 ――まったくもって油断も隙も無い。

 誰だ、悪魔に接近を許したのは。私か。……仕方ない、仕方ないのよこれは……だってある程度は許さないと後が怖いんだもん。

「――(すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……)」

 くっ! 変態が!
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