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トビーは、自分の姿が嫌で、いつも暗い穴の中に引っ込んでいるトビネズミだった。
同じように耳が長いのに、たくさんの人に愛されるウサギとは大違い。
足はひょろ長くて不格好に大きいし、顔もしっぽもウサギのような愛らしさはない。
鏡を見るたび、いつもそう思って泣いていた。自分も愛される可愛いウサギになりたい。
そんなトビーを、朝の光が辛抱強く誘う。
『朝の清らかな光の中に出て、君の得意なジャンプをみせてみなよ。一度だけでいいからさ。もしかしたら、君もウサギになれるかもしれないよ』
トビーはそれを信じ、決心して朝の光の中に出て行く。たくさんの人が、彼の愛らしいジャンプやダンスを称賛した。
『やった、僕、ウサギになれたんだ』
でもみんなは首を横に振る。
『違うよ、君はトビネズミのトビーだよ。みんな君の事が大好きなんだよ』―――
「今日のお昼に、コニーランドに行ったんです。またトビーに会えるかな、って思って。でも演目が違っていて、トビーはいなくて、ショックでした。でも、あたりまえですよね。トビーは寝込んでたんですもん。会えなくて当然でした」
三沢君は、少し笑って首を横に振る。
「僕のほかにもトビー役はいくらでもいます。僕なんかいなくても、たいして困らないと思います……。でも、どうして僕があの日のトビーだと思ったんですか?」
「声です」
「でもキャラクターの声はみんなアテレコで」
「コニーランドで、私に言ってくれたじゃないですか。だいじょうぶ、だいじょうぶだから……って」
三沢君は口を閉じ、真っ直ぐ目を合わせて来た。
私も見つめ返す。
少しの間、沈黙ができた。
「勝手に声を出すなんて、トビーの中の人、きっとルール違反したんだなって思いました。後できっと責任者に叱られるな、とか。でも私にとっては有難いルール違反でした。その瞬間私は世界に、ひとりぼっちじゃなくなったんですから。私と、トビーと、中の人、三人になりました」
「でも……」
「さっき電話口で、同じ声を聞いたんです。全く一緒でした。声だけじゃなくて、そのイントネーションも、柔らかさも。ああ、あのときのトビーだ、って思いました」
コンビニで何度か言葉を交わした時に、もしかしたら予感があったのかもしれない。トビーだとは思わなかったけれど、その声色や仕草が、妙にいつも気になった。
あんなに素っ気ない態度を取る人なのに。
そんな態度を取られたから、余計気になったのかもしれない。
同じように耳が長いのに、たくさんの人に愛されるウサギとは大違い。
足はひょろ長くて不格好に大きいし、顔もしっぽもウサギのような愛らしさはない。
鏡を見るたび、いつもそう思って泣いていた。自分も愛される可愛いウサギになりたい。
そんなトビーを、朝の光が辛抱強く誘う。
『朝の清らかな光の中に出て、君の得意なジャンプをみせてみなよ。一度だけでいいからさ。もしかしたら、君もウサギになれるかもしれないよ』
トビーはそれを信じ、決心して朝の光の中に出て行く。たくさんの人が、彼の愛らしいジャンプやダンスを称賛した。
『やった、僕、ウサギになれたんだ』
でもみんなは首を横に振る。
『違うよ、君はトビネズミのトビーだよ。みんな君の事が大好きなんだよ』―――
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三沢君は、少し笑って首を横に振る。
「僕のほかにもトビー役はいくらでもいます。僕なんかいなくても、たいして困らないと思います……。でも、どうして僕があの日のトビーだと思ったんですか?」
「声です」
「でもキャラクターの声はみんなアテレコで」
「コニーランドで、私に言ってくれたじゃないですか。だいじょうぶ、だいじょうぶだから……って」
三沢君は口を閉じ、真っ直ぐ目を合わせて来た。
私も見つめ返す。
少しの間、沈黙ができた。
「勝手に声を出すなんて、トビーの中の人、きっとルール違反したんだなって思いました。後できっと責任者に叱られるな、とか。でも私にとっては有難いルール違反でした。その瞬間私は世界に、ひとりぼっちじゃなくなったんですから。私と、トビーと、中の人、三人になりました」
「でも……」
「さっき電話口で、同じ声を聞いたんです。全く一緒でした。声だけじゃなくて、そのイントネーションも、柔らかさも。ああ、あのときのトビーだ、って思いました」
コンビニで何度か言葉を交わした時に、もしかしたら予感があったのかもしれない。トビーだとは思わなかったけれど、その声色や仕草が、妙にいつも気になった。
あんなに素っ気ない態度を取る人なのに。
そんな態度を取られたから、余計気になったのかもしれない。
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