「枝分かれ」する未来が少し見えるので、時どき合流する面白パーティーのふりをして、主人公たちをちょっと助けようと思う

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

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第1章

2.へぼスキルじゃねぇか!

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ところかわって二人はテーブルにすわっていた。

カフェテリアのようなお店だ。

この世界ではパブとでも言うのか。

ふたりともよくわからない果実をしぼったジュースを頼んでいる。

「とー、言うわけでえええ」

力説する女神とうんざりとした表情の元高校生がそこにはいた。

「この世界はモンスターあり、盗賊あり、ギルドあり、そして魔王がいて、勇者がいるというファンタジー世界なんだな、これが♪」

(ううーむ、にわかには信じられん……が)

カノユキが周りを見回せばそれだけでいろいろな人種が目に入る。

ドラゴンの頭を持つ武人風の男。がっしりとしたガタイのドワーフ。耳の長いのはエルフだろう。それから犬の頭を持つ者。人と見た目がほとんど変わらないが翼を持っている者。

信じざるを得ない、か。

だが、その沈黙を否定的なものと勘違いした女神が立ち上がって声高に主張した。

「あーん、お姉さんのことうたがってるんだね!? ならとっておきの証拠をみせてあげるんだから。かーくん、さあ、そのスキルを発動するのよ‼ 次元をあやつり、未来を見通すその力を今こそ発揮するの! さすればあなたは」

「おいうるせえぞ」

「ちょっとは静かにできねえのか‼」

「わあ!」

「すいません、すいません!」

よく言ってきかせますんで!

カノユキがへこへこと頭を下げると、そのあらくれた感じの男たちは、いちおう引き下がってくれた。

「おい、怒られちゃったじゃないか」

「い、いやあ、おほほほ。で、でもさあ。ちっさい声だとしまらないじゃない?」

「いやいや。この際は見栄えはどうでもいいだろう」

スキルをどう使うのか、だろう。

そ、そうね。

こほんと女神は咳払いをうってから。

「簡単よ。念じればいいの。あと、詠唱ね。まあ気分だけど」

そう言って目を閉じると、手の平をテーブルの上に掲げるようにして、

「我が身、我が命、我が魂を言祝ぐために未来の女神スクルトよ、この身に注ぐ世界の糸を仄めかせたまえ」

ふおおおおおん……と、神々しいオーラのようなものが、アルテノから立ち上がる。

それだけ見ると、「おお、こいつもちょっとは女神っぽい」、とカノユキは正直にそう思った。

「とまあ、こんなふうに唱えて見てよ」

長いな……。

まあ、スキルだとかなんとか。全く興味がないわけではない。

「えーと、我が身? 我が歳? 我がなんたらを言祝ぐために、未来を丸っと見せたまえ」

だったかな? こんないい加減で発動するわけが……。

ズキリ!

「ぐあああああああああああああああ」

カノユキは思わず悲鳴をあげる。

今までに感じたことのないドロリとした、マグマのような熱い何かが全身をかけめぐるのを感じた。これまで開いていなかった血管を無理やり広げられているような、おぞましい感覚である。

「ぐ、が、何だこれは……。熱い……」

と、そんなシリアスなカノユキの眼の前で、アルテノはずびーとジュースを飲みながら、

「あ、最初からいきなり発動しちゃうと、頭がね、ばーんて弾けちゃうこともあるから慎重にね~。急に魔力を使いすぎたらだめよ」


さらりという。

「先に言わんか、この馬鹿‼」

ころすきか!

ちなみに、先程うるさいと文句を言ってきたおっさんたちも、いきなり俺が悲鳴をあげたりするから、ドン引きしてむしろ黙ってしまった。余計つらい気持ちになる。

「でも、ほら、おかげでスキルは無事に発動したんじゃない?」

全然納得はできん……。

「が、まぁ、たしかに……」

ブオン!

俺の目の前には長方形のビジョンが現れていた。

仮にスクリーンと呼ぶことにする。

そこには見たこともない人物が、様々な状況に直面している光景が映し出されている。

「これが将来起こること……」

未来視、か。

「ええ、そうよ」

胸をはって女神がのたまう。ドヤ顔で。

「でも未来は刻々と変化するもの。だから、あなたの見えているものは正確には未来そのものではない。未来が持つ可能性。その種。未来の種というべきもの」

どういうことだ?

未来の……種?

「飲み込みが悪いわねえ」

うるさい。さっさと説明しろ。

はいはい、とアルテノは言い捨てる。

「要するに未来はいくつも枝分かれしてるってこと。可能性がいくつもあって、そのうちのどれかが選ばれる」

そうなのか?

そうなのよ。

コンコン、と女神は飲み終わったジュースの空き瓶を指で鳴らす。

「例えば、この空き瓶。私がこれを目をつむって投げるとします」

ぽいーん、と間抜けな女神は間抜けな擬音を口にする。

「その瓶は店主の頭にあたるかもしれないし、もしくはさっき私達を怒鳴りつけたならずものたちにあたるかもしれない。地面に落ちてくだけることもあるでしょう。それらは不定であるが一定ではない。何かが起こることが必然でも、すべてが蓋然的であるということ」

「おいおい、未来視って言っただろうが」

話が違うんじゃないのか?

「そんな中途半端なものを見せられたところで、俺になんのメリットがある?」

はっきり言って、

「スキルとしては落第なんじゃないのか」

が、女神アルテノは大声で反論した。

「なわきゃあ、ないでしょうが‼ このへっぽこかーくん‼」

「うるせぞ‼ いい加減にしねえか‼」

「ひい、すんませんすんません」

……こほん。

「そんなわけで、いい? 未来がいくつも分岐しているとしても、よ。そのうちの一端を垣間見えることができる、というのは、すごいことなのよ?」

「そうか~?」

そうよ! とアーパー女神は力強く頷いた。

「だって、未来が垣間見えるということは、そのうちのより良い未来を手繰り寄せられるってことだもの!」

胸をはっていう。

「ああん? つまりどういうことだ?」

「ガッデム! 決まってるでしょうが!」

天を仰ぐ。

「あなたは未来に干渉することができる。より有利な未来を提示することができるのよ」

ふーん。

「なるほどな」

「わかってくれた?」

ああ、まあな。実に都合の良いスキルだ。そう。

この女神にとっては、な。

「俺にとってはなんのメリットもないな」

別に俺は枝分かれする未来を操作する欲望などない。

だが、女神アルテノはニヘラと笑う。

「そう? でもでも、あなたが幸福になる未来を視ればいいじゃない」

ふん、騙そうとしているのか?

(この未来視のスキルにはとんでもない欠陥が一つある)

「だが、この俺の未来は見えないじゃないか」

「え、えーと」

で、でも未来視ってそんなもんだから。

ぶつぶつとアルテノは言い訳をする。

眼の前に浮かぶビジョンにはどこともしれぬ人物が映し出されている。

しばらくしたら、次の映像へと切り替わる。

対象がどうやって選ばれるのかはわからない。

だが、一度としてカノユキの姿が映ることはなかった。

ゆえにとんだ欠陥スキル。

俺はうんざりしてそう評価するしかなかった。
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