「枝分かれ」する未来が少し見えるので、時どき合流する面白パーティーのふりをして、主人公たちをちょっと助けようと思う

初枝れんげ@出版『追放嬉しい』『孤児院』

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第1章

9.漆黒の旅団が飛翔した日

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しばらくして、視界を取り戻した勇者たちは、そこにあの二人組。漆黒の旅団がいなくなっていることに気がついた。ついでにレッドマスタードラゴンも。

「ま、まさか。本当に……」

勇者は戦慄した。

「本当にレッドマスタードラゴンを討伐してしまったのですね! すごい、すごいです!」

「い、いや、そうか? なんか枝が折れて落下して悲鳴をあげてる音とか、ドラゴンは単純に飛んで去っていく音とか、そんなもんが色々と聞こえたような気がするが?」

「いいえ、きっとそうじゃありません」

勇者はけがれなき美しい瞳をきらきらとさせて言った。

「カノユッキー様はレッドマスタードラゴンとあの一瞬で攻防を繰り広げられたんです。はい、私達では想像もつかないような……おそらく次元すらも超越するすごい攻防を! あの憂いを帯びた口調は、きっとその強すぎる力に翻弄されたつらい過去があるんですね!」

「えっと、勇者さあ」

ツインテール娘のイブキは戦慄しながら言った。

「様、ってなに?」

だがその声は聞こえていなかった。

勇者はポヤーンとした顔で、さきほどまでカノユッキーのいた木を見上げているのであった。

「また、お会いできますか?」

そんな儚い声が森に響いたとかなんとか。




なお、ドラゴンはなにゆえに突然飛び立ったのか。

それは満足したから。

ドラゴンとは神と同一視されることの多い存在である。

実際、地方によってドラゴンは信仰されることも多い。ドラゴンも信仰されることに不満はない。

今回、カノユキたちが行った焚き火を、ドラゴンは祭壇だと認識していた。

なぜなら、そこに供物が置かれていたからである。

それはうさぎの丸焼き。

女神アルテノが森でつかまえた晩ごはん候補たちである。

アルテノは焚き火をするついでに、うさぎの丸焼きを作っていたのである。

それは見事、竜の腹の中におさまっていた。

帰り際に確認して「ド、ドロボー! わたしの夕食返しなさいよー!」

と泣き叫んだのはまた別のお話である。


王国歴240年。

この漆黒の旅団がのちのち勇者の物語とともに語られるサラザール王国史の英雄譚になっていくとは、このとき誰も気づいてはいなかった。


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