27 / 27
27.わたしはあなたの隣で幸せに咲く
しおりを挟む
目の前には上等のハーブティーと、クッキーが並んでいます。
私の隣には旦那様がお座りになり、対面の座席には美しい金髪のどこか柔和な雰囲気の男性が座っています。
「本当にあの処置で良かったのか? 本来ならば処刑は免れ得ない罪を犯した。何より、君が彼らから受けた仕打ちを考えれば、それだけでも大問題だというのに」
「もちろんです。ずっと心配をしていました。国王様の恩赦に星の数ほどの感謝を捧げます」
「やれやれ。まったく。ケイン王太子殿下も何とか言ってやってくれ」
旦那様が目の前の相手……殿下にとても親しい口調で言いました。
「いやぁ、この唐変木をここまで変えてくれてありがとう。早々に結婚した僕としては、ロベルタにもこの国を支える柱として早く身を固めてもらいたいと思ってたんだ。しかし、この唐変木をこれほどデレデレにさせる女性がいて感無量だよ。ささ、早く結婚式を挙げたまえ」
「余計なお世話だ! まったく」
旦那様がとても砕けた様子でおっしゃいます。
でも、小心者の私はカチンコチンです。
だってしょうがありません。
目の前にいらっしゃるのは、このランズ王国の第一王子ケイン様なのですから。
旦那様は貴族学校で同学年だったようで竹馬の友のようなご関係のようです。
いつもは堅物と思われがちな旦那様ですが、気の置けないご友人の前ではとてもリラックスされているので、私まで嬉しくなります。
ただ、それが王太子殿下なので、やはり小心者の私の言動はぎこちないものになってしまうのですが……。
と、そんな緊張気味に微笑みを浮かべている私に、殿下はまじめな表情でおっしゃいました。
「……とはいえ、罪は罪だ。この意味は分かるね?」
「はい」
そう、それは妹や両親のこと。
本来存在しないペンゾラム侯爵の謀反を捏造しました。
その目的は、妹のリンディを私の代わりに公爵に嫁がせるというものでした。
どうやら伯爵領の経営がもはや破綻寸前まできており、私を嫁がせたことによる結納金でも間に合わないと踏んだ両親が、妹の企てに賛同したのです。私から旦那様へ婚約破棄の手紙を書かせ正式に別れさせた後、妹のリンディを嫁がせるという計画でした。そのために謀反という嘘を捏造し私の誘拐を企《くわだ》てたのです。
「本来ならばお家取り潰しの上、スフィア伯爵家の親族一同は処刑だ。国家転覆罪に相当するかもしれないからね。ただ、困ったことに、この王国で最も頼りになるそこの唐変木と」
「誰が唐変木だ」
「君だよ、君。そして何より、調べれば調べるほど酷い境遇だったシャノン令嬢が、そろって陳情に来るじゃないか。参ったよ」
「本当に申し訳ありません」
「いいのいいの。うちの母上が、君の身の上を知った上で陳情を聞いてさ、すごく心動かされたみたいなんだ。で、過去の判例を調べたところ、類似の罪で国外追放で対応している事例があったんだ。だから、問題ないから安心して」
「良かった、本当に」
私はうっすら涙ぐみながら言う。
もちろん、今までされたことも、何もかも忘れたわけじゃない。でも、それでもやはり家族だから……。
「本当に変わった奥さんだねえ。いや、ロベルタにはぴったりだよ」
またからかうように、殿下がおっしゃられた。
きっとまた口喧嘩が始まる。
そう思ったけれど、旦那様はそのアクアマリンよりも美しいアイスブルーの瞳を優し気に細められて、
「当然だろう。俺の愛する妻だぞ?」
とおっしゃられたのでした。
「ちょ、ちょっと。旦那様……」
私はすぐに真っ赤になってしまいます。
「やれやれ、あてられてはかなわないな。それじゃあ、僕は退散することにするよ。あとはお二人でどーぞ」
「もう帰るのか?」
「まぁね。今回のことで問題のある貴族のあぶり出しが必要なことも分かってきたし、やることが沢山あるんだ。まぁまた遊びに来てよ、ロベルタ」
「ああ、ありがとう、ケイン」
その心のこもったお礼の言葉に、殿下は嬉しそうに微笑まれると、退室されて行かれたのでした。
「ところで一つ疑問があるのですが、聞いても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「どうして私の居場所が分かったのですか?」
私が閉じ込められていたのは、公爵領内とは言えすぐに見つかるとは思えない辺鄙な場所にあった。
どうやって探しだしてくれたのか、分からなかったのだ。
「あの日、王城へグリフォンで急行した俺は謀反のことをケイン王太子殿下に言った。だが、それはすぐに嘘だと分かった」
「なぜですか?」
「そこにペンゾラム侯爵がいたからな」
「まぁ!」
「あいつは野心家だが、王家には忠誠を誓っている男だからな……。最初から変だとは思っていたんだ。交易の相談にちょうど王城を訪問していたらしい。それで俺はすぐに領地へ戻ることにした。嫌な予感がしたからな」
そういうことだったのですね。でも、
「私の居場所はどうやって見つけて下さったのですか?」
やはりそこが分からない。
「シャノン。大聖女の逸話は知っているか?」
「え?」
唐突に話が変わったので、ついていけずにポカンとする。
そんな私を、旦那様は優しい、吸い込まれるような瞳で見られながら、
「聖獣は仕えるべき主の場所が分かるのだそうだ。そして、聖獣の本来の主とはかつて聖女と言われた、心美しく、人々を労わる存在だという」
「へ?」
「グリフォンには君の場所が分かった。君が美しい心を持つ聖女だからだ」
そう言って、旦那様はウインクをされた。
聖女?
私が?
私はその話を聞いて……。
「ふふふ、旦那様は時々冗談をおっしゃられるから困ってしまいます」
すぐに微笑みを浮かべて、
「私がそんな凄い存在な訳がありません。いえ、そんな肩書きはいりません。私は……その……」
私はしっかりと旦那様を見つめながら、
「旦那様とずっと一緒にいたいのです。妻としてあなたの傍でずっと……」
そう言うと、旦那様も優しい微笑を浮かべられて、
「俺もシャノンを愛している。俺の隣にずっといて欲しい」
「はい、旦那様」
徐々に旦那様の顔が近づいてきます。
あの日、庭園でできなかった続きを、私たちはするのでした。
私の隣には旦那様がお座りになり、対面の座席には美しい金髪のどこか柔和な雰囲気の男性が座っています。
「本当にあの処置で良かったのか? 本来ならば処刑は免れ得ない罪を犯した。何より、君が彼らから受けた仕打ちを考えれば、それだけでも大問題だというのに」
「もちろんです。ずっと心配をしていました。国王様の恩赦に星の数ほどの感謝を捧げます」
「やれやれ。まったく。ケイン王太子殿下も何とか言ってやってくれ」
旦那様が目の前の相手……殿下にとても親しい口調で言いました。
「いやぁ、この唐変木をここまで変えてくれてありがとう。早々に結婚した僕としては、ロベルタにもこの国を支える柱として早く身を固めてもらいたいと思ってたんだ。しかし、この唐変木をこれほどデレデレにさせる女性がいて感無量だよ。ささ、早く結婚式を挙げたまえ」
「余計なお世話だ! まったく」
旦那様がとても砕けた様子でおっしゃいます。
でも、小心者の私はカチンコチンです。
だってしょうがありません。
目の前にいらっしゃるのは、このランズ王国の第一王子ケイン様なのですから。
旦那様は貴族学校で同学年だったようで竹馬の友のようなご関係のようです。
いつもは堅物と思われがちな旦那様ですが、気の置けないご友人の前ではとてもリラックスされているので、私まで嬉しくなります。
ただ、それが王太子殿下なので、やはり小心者の私の言動はぎこちないものになってしまうのですが……。
と、そんな緊張気味に微笑みを浮かべている私に、殿下はまじめな表情でおっしゃいました。
「……とはいえ、罪は罪だ。この意味は分かるね?」
「はい」
そう、それは妹や両親のこと。
本来存在しないペンゾラム侯爵の謀反を捏造しました。
その目的は、妹のリンディを私の代わりに公爵に嫁がせるというものでした。
どうやら伯爵領の経営がもはや破綻寸前まできており、私を嫁がせたことによる結納金でも間に合わないと踏んだ両親が、妹の企てに賛同したのです。私から旦那様へ婚約破棄の手紙を書かせ正式に別れさせた後、妹のリンディを嫁がせるという計画でした。そのために謀反という嘘を捏造し私の誘拐を企《くわだ》てたのです。
「本来ならばお家取り潰しの上、スフィア伯爵家の親族一同は処刑だ。国家転覆罪に相当するかもしれないからね。ただ、困ったことに、この王国で最も頼りになるそこの唐変木と」
「誰が唐変木だ」
「君だよ、君。そして何より、調べれば調べるほど酷い境遇だったシャノン令嬢が、そろって陳情に来るじゃないか。参ったよ」
「本当に申し訳ありません」
「いいのいいの。うちの母上が、君の身の上を知った上で陳情を聞いてさ、すごく心動かされたみたいなんだ。で、過去の判例を調べたところ、類似の罪で国外追放で対応している事例があったんだ。だから、問題ないから安心して」
「良かった、本当に」
私はうっすら涙ぐみながら言う。
もちろん、今までされたことも、何もかも忘れたわけじゃない。でも、それでもやはり家族だから……。
「本当に変わった奥さんだねえ。いや、ロベルタにはぴったりだよ」
またからかうように、殿下がおっしゃられた。
きっとまた口喧嘩が始まる。
そう思ったけれど、旦那様はそのアクアマリンよりも美しいアイスブルーの瞳を優し気に細められて、
「当然だろう。俺の愛する妻だぞ?」
とおっしゃられたのでした。
「ちょ、ちょっと。旦那様……」
私はすぐに真っ赤になってしまいます。
「やれやれ、あてられてはかなわないな。それじゃあ、僕は退散することにするよ。あとはお二人でどーぞ」
「もう帰るのか?」
「まぁね。今回のことで問題のある貴族のあぶり出しが必要なことも分かってきたし、やることが沢山あるんだ。まぁまた遊びに来てよ、ロベルタ」
「ああ、ありがとう、ケイン」
その心のこもったお礼の言葉に、殿下は嬉しそうに微笑まれると、退室されて行かれたのでした。
「ところで一つ疑問があるのですが、聞いても宜しいでしょうか?」
「なんだ?」
「どうして私の居場所が分かったのですか?」
私が閉じ込められていたのは、公爵領内とは言えすぐに見つかるとは思えない辺鄙な場所にあった。
どうやって探しだしてくれたのか、分からなかったのだ。
「あの日、王城へグリフォンで急行した俺は謀反のことをケイン王太子殿下に言った。だが、それはすぐに嘘だと分かった」
「なぜですか?」
「そこにペンゾラム侯爵がいたからな」
「まぁ!」
「あいつは野心家だが、王家には忠誠を誓っている男だからな……。最初から変だとは思っていたんだ。交易の相談にちょうど王城を訪問していたらしい。それで俺はすぐに領地へ戻ることにした。嫌な予感がしたからな」
そういうことだったのですね。でも、
「私の居場所はどうやって見つけて下さったのですか?」
やはりそこが分からない。
「シャノン。大聖女の逸話は知っているか?」
「え?」
唐突に話が変わったので、ついていけずにポカンとする。
そんな私を、旦那様は優しい、吸い込まれるような瞳で見られながら、
「聖獣は仕えるべき主の場所が分かるのだそうだ。そして、聖獣の本来の主とはかつて聖女と言われた、心美しく、人々を労わる存在だという」
「へ?」
「グリフォンには君の場所が分かった。君が美しい心を持つ聖女だからだ」
そう言って、旦那様はウインクをされた。
聖女?
私が?
私はその話を聞いて……。
「ふふふ、旦那様は時々冗談をおっしゃられるから困ってしまいます」
すぐに微笑みを浮かべて、
「私がそんな凄い存在な訳がありません。いえ、そんな肩書きはいりません。私は……その……」
私はしっかりと旦那様を見つめながら、
「旦那様とずっと一緒にいたいのです。妻としてあなたの傍でずっと……」
そう言うと、旦那様も優しい微笑を浮かべられて、
「俺もシャノンを愛している。俺の隣にずっといて欲しい」
「はい、旦那様」
徐々に旦那様の顔が近づいてきます。
あの日、庭園でできなかった続きを、私たちはするのでした。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。
下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。
アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。
小説家になろう様でも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる