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13.どうしてこうなった……

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「ああ、今日から王立貴族学院の女子学生なのね♪ ルンルン♪」

言葉通りルンルンとした気持ちで、私は外出用のドレスに袖を通す。明るめのグリーンを基調にした衣装でとても動きやすい。他にも青や赤の外出用のドレスはあるけれど、一回目の人生では、青色のドレスを着てくる子が多かったので、せっかくだから差別化しようという心意気なのだ。やはり女子たるもの、ファッションだって楽しみですもの。

というわけで、馬車に揺られて片道1時間程度。よく整備された街道を抜けて行けば、王都へと入ることになる。とても活発な街で流行が発信される場所でもある。治安も良くて素晴らしい所だ。

そんな王都の目抜き通りを過ぎ、しばらくすると貴族街があって、その一角に王立貴族学院が建てられている。奇麗に整備された学び舎はまるで白亜のお城みたいで、お庭の芝生はよく水まきされ整備されていた。季節ごとに咲く花が植えられて年中美しい学び舎である。

気候の良い日は食堂のお料理や、サンドイッチなどを持ち出して外で食べたりするととても美味しいし、たくさんの教室があるので、その中で友達と話しながら食べるのも楽しい。とにかく普段は貴族としての責任と義務、マナーで縛られている令息・令嬢にとっても、息抜きできる場所なのである。

ところで。

(この芝生は改めていいものね、ふむふむ)

と、貴族学院に到着して早々、私は芝生へ吸い寄せられるようにして座り込み、まじまじと観察してしまった。

ふーむ。ふーむ。

「どうかされたんですか? アイリーン。そんな風に芝生をまじまじと見て。牧草ではないから食べたらお腹を壊されますよ?」

「いえ、そうじゃなくってですね。これだけの敷地があるのに、これほどの面積の芝生を維持するのにどれだけの予算がかかっているのかと思うと、ちょっと興奮してしまって。私のカフェにも導入しようかと最初は計画していたのですが、水まきの大変さと維持の難しさに断念したのを思い出したのです。ああ、でもやっぱり素晴らしいですわね、芝生。いいわね、芝生。ビバ芝生」

「いやぁ、花々に目を奪われる新入生が多いのは知っていましたが、芝生に目を奪われるのはあなたくらいですよ、アイリーン」

「そうなんですか? ところで、どうして私の名前をご存じで……って、エ""⁉」

「こんにちは。アイリーン。久しぶりですね。ところで今の『エ""』とはどういう意味ですか?」

目の前にはニコニコと微笑みを浮かべた、仮想敵が立っていた。いつもなら、会う前に、主に心構えなどの防御体勢を完璧にしてから会うので、うろたえるような失態は犯さないのだが、今日は絶対に会うはずがないと思っていたため、完全に油断していたのだ。

「キース王太子殿下⁉ ど、ど、ど、ど」

「どうしてこんなところに、ですか?」

コクコクと私は頷く。

彼は微笑みながら、

「もちろん、婚約者であるあなたが入学されると聞いて、なら僕も入学しようと思ったのですよ。悪い虫に刺されでもしたら大変ですからね」

と言ったのだった。私は若干落ち着きを取り戻しながら、

「わ、悪い虫ですか? 大丈夫ですわ、殿下。変な虫が来たらバシッと自分でやっつけますので」

そうパチンと手をたたく仕草をした。これでも反射神経は良い方なのだ。

「伝わってなさそうですが……そうあって欲しいものですね。まぁ、それはともかく、先ほどのエ""の意味をそろそろ聞かせてもらい……」

「しつこい男性は嫌われますよ、殿下。はい、バスク君からも一言」

「そうですよ、キース様。クライブ様のおっしゃる通りかと」

「あなたたちも来たんですか、やれやれ。まあ、そうですね。良しとしましょう」

え? え? え? え?

へ?

なんで?

どうして?

どうしてここにキース王太子殿下にクライブ副騎士団長、それにバスクまでいるの⁉

「おっと、ご挨拶が遅れてすみません、アイリーン様。私の美しき鳥。あなたを必ずや不届者からお守りしましょう」

「あなたは私の警護のために入学したはずだったのでは?」

「もちろんですとも。どちらの任務も私にお任せください」

将来の騎士団長だけあって、力強く言った。いえいいえいえいえ、学園は警備もしっかりしているから、私の警備はいりませんから⁉ っていうか、前回のルートでは私への警備はなかったはずですが、今回はどうして私の警備が任務に入ってしまっているんですか⁉

そう内心でツッコんでいると、次にバスクもあどけなさを残した顔で言う。

「僕もアイリーン姉さんが入学するならぜひ一緒に学生生活を送りたいと思ったんだ。そして、姉さんに見合うような立派な男性になるために勉強に励むよ!」

わ、私に見合う? えっと、どういう意味かしら? 前回のルートでは確かお父様からは、どちらでも良いと言われたけど、いちおう他の貴族の方々との顔つなぎのために入学したって言ってなかったっけ? なんでその理由がおくびにも出ないの⁉ 私と一緒の学生生活を送りたいって何? 私に見合う男になるのが目的ってどういう意味⁉

私は思わず頭を抱え、

「私の平和で自由な学院生活がー!」

とまぁ、そんな私のむなしい叫び声が美しい学び舎の庭園に木霊したのでした。






ざわざわ……。

ざわざわ……。

ざわざわ……。

見られている……。遠巻きに。他の生徒達に。ああ、なんでこんなことに……。

「アイリーン。なぜそんなに速足なのですか? ほら一緒に歩きましょう。授業開始はまだですよ?」

「そうですよ、アイリーン様。それに、転んでは大変です」

「姉さんは転んでも見事受け身を取るタイプですけどね、ははは」

ワイワイと、私の周りで楽しそうに三人の男が話に華を咲かせている。

いやいやいやいや。

「目立つんですよ……」

「え? 何かおっしゃいましたか?」

キース様がポカンとした表情をされる。私は思わず、思いっきりつっこんでしまう。

「目立つんですよ! 皆さんは! 私はフツーのですね、他の女子学生の方々とゆっくりとした学院生活を送りたいだけなのです! なのに!」

「「「なのに?」」」

今度は三人がぽかんとした表情をした。くー、これだから無自覚イケメンどもはタチが悪い!

「あなたは王太子殿下ですよね⁉」

「ですね」

ですねじゃない!

「あなたは副騎士団長!」

「ですな」

ですな、じゃないんですよー!

「でもって、バスク! あなたは今のところ公爵家令息! 将来は子爵位を継ぐけど、リスキス公爵家との関係は残る、実は隠れた優良株!」

「そうなんだー」

ああ可愛い! あどけない顔が可愛い! じゃなくって!

「自覚してくださいませ! そんな三人にまとわりつかれたら、みんな怖がって寄って来ません! 分かりますか⁉」

私は必死に訴える。これだけ言えば伝わるだろう。

だが、三人は顔を見合わせた後、

「「「その方が都合がいいかもしれない」」」

と言ったのだった。

「お願いだからやめてくださいー! 私は普通に女友達を作って、華の女子学生生活がしたいだけなんです! なんですか⁉ いじめなんですか⁉ 私に友達を作らせない新手のイジメなのですか⁉」

そんな私の必死の抵抗むなしく、なかなか三人は私の周りから離れてはくれないのでした。

こうして入学一日目の私は新しい友達0人という、最悪のスタートを切ったのです。

ああ、どうしてこうなった。
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