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第五章【蛇王討伐】
5-12.本気出しちゃった人外系勇者様
しおりを挟む巡視隊の護衛がついたことで、その後は襲われる事もなく旅は順調に……ならなかったりする。
というのも、護衛が10名だけなものだから、数にものを言わせた大集団の襲撃があったのである。
その数、実に約150名。
そこまで行くともはや強盗集団とかいうレベルではなく、ほとんど反乱軍と称しても良い有り様である。
…………であったのだが。
ブチ切れたレギーナが本気で威圧を放った事により、賊が全員泡吹いて気絶してしまい一瞬で終わった。というか強盗軍の下っ端十数名がショック死したほか、周囲及び威圧の届いた範囲にいた他の全ての旅人や商人、その護衛たち、さらにアプローズ号を護衛してくれている巡視隊員までほぼ全員が気絶する事態になり、違う意味で被害が甚大になってしまった。
付近に都市や集落がひとつもなかったのが不幸中の幸いであった。もしもそれらが巻き込まれていれば、子供や心臓の弱ったお年寄りを中心にかなりの犠牲者が出ていたはずである。
ちなみに旅行者や隊商には死者はいなかった。何しろ集まってくる150名の大盗賊団を恐れて、それら全てが全力でアプローズ号から逃げている最中で、つまり威圧の範囲の周縁部で逃げ遅れた者たちだけが被害に遭った形だったためである。
なお肝心の巡視隊員まで全員気絶してしまったせいで、ミカエラが賊の全員にひとりで[拘束]をかけるハメになってぶつくさ文句を言っていた。彼女はそれだけでなく巻き添えを食った旅人や隊商たちも全て回って[気付]や[平静]を施し、意識を回復した人々に謝罪と賠償の約束をして回るハメにもなった。まあ西方世界から来ている者たちの大半は相手が勇者パーティと知って、恐縮して辞退しようとしていたが。
ついでに言えば、アルベルトは辛うじて気を失わずに持ちこたえた。スズでさえ怯えて動かなくなってしまったほどだったのに、よくもまあ耐えきったものである。
「ばってんおいちゃん、よう頑張ったねえ」
「いやいや、俺咄嗟に自分に[平静]かけたもの。でなきゃ多分落ちてたよ」
それでも身体硬直、呼吸困難などに陥ってしばらくは息をするのがやっとだったアルベルトである。
ちなみにミカエラはもっとも慣れていて耐性がある方だが、それでも自分で威圧を放って威力を相殺したのだったりする。
「いや、なかなか強烈であった。さすがは西方の勇者どのよな」
もうひとり、比較的楽に耐えきったのは銀麗だ。彼女に言わせれば、母が本気で怒るとあんなものではないらしい。
「朧華さんが本気で怒ったのは、俺も見たことないな……」
「怒らせぬ方がよいぞ。吾は二度と怒らすまいと子供心に誓ったものだ」
いやまあ、この先朧華と会う予定は今のところ無いのだが。というかどこをほっつき歩いているのか英傑母ちゃんは。
「レギーナの本気の威圧なんて本当、正直もう二度と御免だわ」
ヴィオレは過去に一度同じものを食らった経験があり、その分の耐性があったから何とか頑張れた。なお過去に食らった時はバッチリ失神している。
クレアはといえば一見平然としているようにも見えたが、よく確認すると気絶していた。
そして犯人はというと。
「ごめんなさい……反省してます……」
セイザして小さくなっていた。
まあ勇者ともあろう者が、大人数の強盗団とはいえただの人間相手に本気で怒り狂ったのだから、そしてその結果甚大な被害を招いたのだから、大いに反省してもらわなければならない。すでに東方世界に入っていたからまだいいものの、仮に西方世界でやらかしていれば勇者として致命的な失点になりかねなかった。
いやまあ東方でだってダメに決まっているが。
そもそも勇者条約で定められている勇者の責務、つまり人類全ての守護者というやつだが、実を言うと西方世界に限定していない。だから東方世界であろうとも、勇者は勇者として振る舞わなければならない。そして勇者が守護する“人類”には、エルフやドワーフなどの他種族はもちろん善悪の別も指定されていないのだ。
だからきっちり反省して、二度と起こさぬよう自身を厳しく律してもらわなければならない。でなければ勇者候補の指定を取り消されてしまいかねないのだ。
そしてそもそもの話、相手がただの賊程度なら仮に千人集まろうともレギーナの敵ではないのだ。だから威圧など放たずとも、コルタールを手に面倒臭がらずに殺さぬよう手加減しつつ全員を無力化して回ることだって、レギーナにはできたのだ。
まあこの場合、被害者でもある彼女ひとりにそこまで気遣いつつ戦えというのも、なかなか酷な話ではあるのだが。
「まぁちぃと冷静にやれたやん?」
「ごめんなさい……」
「ウチらさあ、小鬼王の二千の軍勢潰したことだってあるっちゃけんが、盗賊の150人ぐらいやったらなんちゃないやん?」
レギーナとミカエラがパーティを組んで2年目の17歳の時、エトルリアとその西北に位置するヘルバティア共和国との国境付近で発生した“魔王級”小鬼王の率いる二千の軍勢の過半を、ふたりだけで殲滅したことがある。まあその時はさすがに周辺各国も重大な危機と認識して、各国で選りすぐりの冒険者たちを討伐に向かわせていたためレギーナたちだけの功績ではないのだが。
ちなみに小鬼王はゴブリンを率いるゴブリンキングが瘴気によって魔王化した存在である。ただし元がゴブリンなだけに純然たる魔王ほどの強さはなく、それで当時まだ“達人”に上がったばかりのレギーナでも倒すことが可能だった。
レギーナの勇者候補としての主な功績はこの小鬼王の討伐と、トロールチャンピオンを一騎打ちで滅ぼしたこと、その二点である。その意味でもアナトリアで血鬼を倒せたことは大きな加点になっている。
「あ、あれはだって、殺しても良かったから」
「まあそらそうやけどな。今ウチが言いようとは、冷静でおれたらもっとやりようがあったやろ?っちゅう話やけんが」
「うん……返す言葉もないわ……」
「ちゅうことで今夜は姫ちゃん、飯抜きな」
「えっウソやめて!それだけは!」
他のみんながアルベルトの手料理を堪能する中、自分ひとりがそれを味わえずに指をくわえて見ているしかないなんて。そんなのもはや拷問を通り越して死刑に等しい。
「つまらんて。率先してペナルティ貰うとかんと、あんた選定会議からより重いペナルティの来るっちゃけんね?」
「そ、それは…………そうだけど……」
どういう手段を用いているのか、勇者選定会議は勇者が東方にあろうともその動向をかなり詳細に把握しているという。だから今回のこれも、おそらくはバレるはず。それゆえ詳細がバレる前に反省と改心の態度を明らかにしておく必要があった。
そしてそれは、飯抜きだけで済まされるはずもなく。
「ほんでこれ。選定会議に提出する用の反省文な」
「ううう……やっぱり反省文書かなきゃダメよね……」
「ダメやね。それも選定会議に伝わるごと誠心誠意書かなつまらんけん」
「はい…………」
ということで、3日ほどかけて論文みたいな長さの発端、結果、原因究明からの改善点、勇者としての反省点、再発防止策など章立てて細々と書き記した『反省文』を書き上げたレギーナであった。
なお余談であるが、この『反省文』を読んだ選定会議中央委員会メンバーは全員が呆れ返っていたという。特に最年長、89歳の女性委員などは「我を忘れたらやり過ぎるところなんか、学生時代から何も成長しとらんのさねあの子は」などと言って嘆息していたそうである。
もうひとつ余談だが、総勢150名もの大盗賊団は元からひとつの集団だったわけでなく、実は近隣の野盗の一味がいくつも連合して急遽出来上がった即席の集団であった。それをレギーナが文字通り一網打尽にしてしまったため、付近はその後の治安状況が大幅に改善されて、しばらくは平和で安全な環境になったそうである。
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