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第五章【蛇王討伐】
5-19.“アルドシールの栄光”宮殿
しおりを挟む宮殿正面の車寄せでレギーナたちはアプローズ号を降りた。アルベルトも東方世界への案内人として雇われているため、ここでは御者でなく本来の案内人の仕事をせねばならない。そのため彼も御者台を降り、王宮の使用人に手綱を渡した。使用人は案の定スズの巨体に恐れをなしていたため、スズによく言って聞かせ、危険はないと使用人にも理解してもらった上で御者台に上がってもらった。
ちなみに先導の兵士隊は万国門までで引き返して行った。彼らは門衛であるため、庭園を含めた宮殿内には基本的に立ち入れないのだそうだ。
なお、アプローズ号を降りたレギーナたちの服装は旅装のままである。本来なら着替えるべきなのだろうが、陽暮れも迫っているということで今日のところは略式の挨拶だけで済ませ、正式な謁見は後日になるためそのままでよいと出迎えの役人に言われたためである。
「まずご案内致しますのは“百柱殿”でございます」
長く広い大階段を登った先にある百柱殿は、無駄とも思えるほどに広大な空間であった。高さ15ザルゥあるという巨大な石造りの柱が4本並び、それが25列にもわたって連なる、東西に長い空間が続く。
両サイドに等間隔で扉が並んでいるのは、控室や休息室があるのだという。案内の役人が説明するには、朝貢や謁見を求めてやってくる国内外の多くの者たちの中で直接の謁見を許されない身分の低い者たちが、待機室として左右の小部屋を宛てがわれるのだそうだ。
役人はレギーナたちを先導したまま、百柱殿を通り抜けた。聞けば西方の勇者一行は国賓の扱いであり、国賓の謁見は百柱殿ではなく、その奥の謁見殿で行われるという。
謁見殿は百柱殿ほどの広さはないものの、柱の高さは20ザルゥにも及ぶそうで天井がさらに高い。柱列も6本が6列並んでいて、横幅と奥行きが等しくなっている。その柱列の真ん中に真っ赤な絨毯が敷き詰められていて、そこを進んで玉座の前まで案内された。
だが、肝心の玉座には誰も座ってはいなかった。
(どういうこと?)
(国王陛下の居んしゃれんやん)
「こちらでございます」
訝しんでいると、謁見殿の玉座に向かって右隅の扉を指し示された。
一行は訝しんだまま、その扉を抜けた。抜けると廊下が続いていて、役人はさらに奥に向かって歩き出す。
「本日のところは非公式にて、“対面殿”にお通しするようにと仰せつかっております」
どうやら最初から、謁見殿ではなくその対面殿とやらで謁見が組まれていたようである。
(……だったら最初から、こっちの廊下に案内したら良かったじゃないの)
(あの豪勢な謁見殿ば見せたかったとやないと?)
レギーナとミカエラがアイコンタクトで意思疎通しているが、実のところ少し違う。正式な国賓はまず謁見殿に通されると決まっており、決められたとおりにレギーナたちは玉座の前まで通されただけである。つまり最初の面会を対面殿で行うことが異例なのであり、謁見殿奥の扉を使えるのは本来はリ・カルン側の人間だけなので、それもまた異例だったりする。
ともあれ一行は、廊下を進んだ先にある控室に案内された。そこは来客用の応接控室で、準備が整うまでしばしお待ちを、と言われてアルベルト以外はソファに腰を落ち着けた。
「あなたも座りなさいよ」
「いやこの場合、俺は雇われの従者だからね」
「あっ……、そ、そうだったわね」
そう言われて、久々に互いの関係性を思い出したレギーナである。最近はすっかり同席するのにも慣れてしまっていたから忘れていた。
侍女が入室してきて、レギーナたちに茶を淹れて供した。西方世界で飲むものとは明らかに違う香りの茶で、色味が白っぽいのは斑牛乳が入っているのだろう。
東方世界に入ってここまでの道程でも幾度も飲んできた、茶である。なおこれも、アルベルトの分は用意されない。
「悪いけれど、彼の分も用意してくれる?」
「畏まりました」
侍女は素直に応じ、すぐにカップが用意されて応接テーブル脇のサイドテーブルに茶が用意された。それでアルベルトもありがたく頂いた。空調の魔道具を効かせているのだろうひんやりした室内で、温かいお茶はより美味しく感じられた。
「準備が整いましたので、ご案内致します」
上級使用人と思しき壮年の男性が入室してきて、レギーナたちは彼の案内で部屋を出た。廊下をさらに進んだ先に、重厚な木材の両開き扉があった。
「西方よりお越しの、勇者様をお連れ致しました」
使用人の声に応じて、扉が内側から開かれた。
対面殿はさほど広くはなく、人が百人も入れば一杯になりそうな程度であった。本来は王家の人間が私的な客人を出迎えるための部屋だそうなので、この程度で充分なのだろう。だが壁や柱の装飾、高い天井から下がる照明、床に敷かれた絨毯など、充分以上に豪奢な作りになっている。
その最奥の階の上に、玉座というにはやや簡素ながらも立派な作りの椅子が据えられていて、そこに座っていた女性が立ち上がった。
「ようこそお越し下さいました。歓迎致します、西方の勇者様」
一見して、古代イリシャ風のドレスだと見えた。ゆったりとしてドレープを多く取った柔らかな白い絹のドレスで、裾は長くつま先まで隠れている。両肩に留め飾りで長めのケープを留めてあり、そちらは肩から腕を包み込んでいた。腰帯は太く、中央に濃い青の大ぶりな宝石をあしらったバックルが付いていて、だが多く取られたドレープに半分隠されている。
ふわりとまとめられた黒髪の上には精緻な意匠の金の小さな王冠が留められていて、黒髪によく映えていた。
彼女は西方式の淑女礼で挨拶すると、先に名乗りを上げた。
「わたくしが天地開闢からの王統、世界全ての神聖なる支配者、神の子、勇者の末裔たる王の、地上をあまねく見渡す目。大地の第二の統治者たる副王・メフルナーズと申します。こたびの勇者様は、女性の方なのですね」
そうして彼女は、にっこりと微笑んだのだった。
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