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第六章【人の奇縁がつなぐもの】
6-32.天眼の理解を深める(2)
しおりを挟む天眼で見ろと朧華に言われて、レギーナは改めて銀麗を見た。
ただ見ただけでは、いつもと変わらぬ銀麗の姿がそこにあるだけだ。だが。
(遠近・前後・内外・昼夜・上下に妨げなく……)
それはつまり、ドゥリンダナを“開放”した際の視界。どこにいてもどこから見ても、それが何であるかしっかりと見定める、能力。
ドゥリンダナの開放中、レギーナは人類には到底届き得ないほどのスピードで動く。そんな状態でも視界が明瞭に確保されていて普段と変わらぬ戦いができるのは、視界の端にさえ捉えればそれが何であるか、どう斬ればいいのか、ひと目で分かってしまうからだ。彼女が普段から言っている「斬れば終わる」という言葉もまた、実のところこの天眼によるものであった。
だが、ドゥリンダナを継承した直後はそうではなかった。ひとたび“開放”してしまえば、何を斬っているかも分からぬままに当たるに任せて全てを薙ぎ払ってしまうため、彼女が止まるまでは誰も彼女の視界に入れないほどだった。それから修練を積んで体得したからこそ、自在に“開放”して戦えているのだ。
その“開放”時の視点で、レギーナは銀麗を見た。普段と変わらぬ姿だが、しばらく注視していると、何故かみるみる巨大化してゆく。あっという間にその姿は見上げるほどに大きくなった。
「…………巨大な、力……?」
迷いながらも答えたレギーナに、朧華はますます破顔した。
「すごいねえレギーナどの!心得していないのに少しばかりヒントを与えただけで、そこまで理解できるとは!」
「理解しているのかしていないのか、わたしには何とも言えません。ただ、そう見えたというだけのこと」
「体得しても心得はしていない、というのはそういうことだよレギーナどの。本当に心得できていたなら、貴女のその疑念や迷いはなかったはずだ」
つまり、銀麗の姿が巨大な力に見えたのは、朧華の言葉を受けてレギーナが天眼をより理解しようとした結果ということのようである。
「そして貴女がもし“慧眼”を修得できていたなら、この子の姿はこう視えていたはずだよ」
上機嫌の朧華は銀麗に「見せてあげなさい。もうできるだろう?」と話しかけ、銀麗は一瞬だけ嫌がる素振りをしたものの、ひとつため息をついてから母の指示に従った。
腰を折り膝を曲げ、前のめりになった銀麗が両手を地につく。頭を下げ、その背が丸く膨らんだと思った次の瞬間、銀の毛並みが膨れ上がった。
背が盛り上がり、腰が膨らみ、体格が膨張する。その前肢がみるみる太く力強くなり、爪も鋭く伸びてゆく。後肢はさらに太く漲り、大地をしっかりと踏みしめてこゆるぎもしない。顔も腹もすっかり銀の毛並みに覆われて、鼻が伸び口が裂けてゆく。その口の中から覗くのは、太く長く大きな牙と真っ赤な舌だ。
さすがに唖然と見守るしかないレギーナや蒼薔薇騎士団の面々を前に、銀麗が前肢を踏ん張り頭を上げ、そして雄叫びのような咆哮を上げた。
そこにいたのは、一頭の大きな虎であった。だが西方世界には生息していない獣なので、レギーナたちにはそれがなんと呼ばれるのか分からない。
「これが霊獣。いわゆる“四霊獣”のひとつ、白虎と呼ばれるものだ。まあこの子はまだ力が足らないから、毛並みが白くないけれどね」
「白虎……」
「四霊獣が一、白虎。五行の金、五方の西、五徳の義、四季の秋を司りし道と風の守護者。それが我ら銀虎の宿星ってやつさ」
華国には古来より四霊獣と呼ばれる存在がある。青龍、白虎、玄武、朱雀がそれで、いずれも伝説上の存在とされるがその末裔と言われる種族が存在していて、それを「霊獣」と総称する。中でもその血を色濃く引く者のうち相応に実力のある者は、今見たように先祖返りするのだという。
だからレギーナが銀麗を見て、勇者級の実力者だと感じたのも当然のことであった。
「ま、それはそれとしてだ。天眼と慧眼、そして法眼は連動しているんだ。天眼はものの仮象を見通せど実相までは見抜けない。実相まで見通せるようになればそれが慧眼の境地だ。そして法眼は、慧眼で見通した実相を他者に教授し、教え導く力だ」
そう。だからこそ朧華はレギーナに対して、天眼の理解を深めるように言ったのだ。まず天眼を完璧に理解しないことには、慧眼の境地には到れないのだから。
「…………そう言えば、ドゥリンダナにも『理解度が足らない』って言われたわ」
「ドゥリンダナ、⸺ああ、その宝剣のことかい?やっぱりそれ、喋ってたんだ」
「ええ、そう。……ってドゥリンダナの声が聞こえていたのですか!?」
「我は宝剣を扱わないから、何を喋っているかまでは分からないけどね。でも視れば分かるよ、自我を持っていることくらい」
40歳くらいの壮年の男性だよね、と言われてまたもやレギーナは絶句した。“きらめく兜の大英雄”ことヘカトルの享年は『イーリオス』には記されてはいないため分からないが、記述の内容や他の史料と照らし合わせた彼の事績から考えても、40歳の少し手前で亡くなったことはほぼ確定的である。
「……そんな事まで分かるのですか」
「分かるさ。慧眼で視ればね」
つまり、慧眼で視れば実相が見えるというのはそういうことである。
レギーナの目にはドゥリンダナは剣にしか見えないが、朧華にはその本質である英雄ヘカトルの姿が視えているのだ。そして同じく慧眼で視れば、銀麗もその本来の姿である虎の姿が見通せたはずであった。
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