【完結】魔力なしの役立たずだとパーティを追放されたんだけど、実は次の約束があんだよね〜〜なので今更戻って来いとか言われても知らんがな

杜野秋人

文字の大きさ
3 / 13

03.こんなはずでは

しおりを挟む


 ソティンがギルドに駆け込んだ時には、もうそこにレイクの姿はなかった。

「おい!レイクのやつ来なかったか!?」

 ソティンは一直線にギルドの受付カウンターに駆け寄り、馴染みの受付嬢ルーチェに声を荒げた。

「そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ。レイクさんなら先ほど来られました」
「なっ……!」

 やはりレイクはパーティ脱退届を提出に来たのだ。だが、そんなものはリーダーが認めなければ受理されないはずだ。

「俺は認めんぞ!確かにちょっと言い争って出て行けみたいな事は言ったが、本気で言ったわけじゃないからな!」
「認めない、って何がですか?」
「だから!レイクの脱退だ!」

「……ああ。それなら」

 レイクさんの脱退届は不受理に回しますね。そう言ってくれると理解したソティンは内心で安堵する。そう、ルーチェだって担当する“雷竜の咆哮”が順調に実績を挙げている以上、それを失いたくはないはずなのだ。

「ソティンさんの意向は関係ありませんよ。レイクさんは『出奔届』を提出なさったので」

「…………は!?」

 フリウルでも有数の冒険者ギルドである〈隻角の雄牛〉亭では、というか冒険者ギルドでは大抵どこでもそうだが、冒険者がパーティを組む際には『結成届』が必要だ。そのほかメンバーの増減がある場合、新たな構成メンバー全員の署名を揃えた『変更届』が必要で、パーティを抜ける者がいた場合はその者は別途に『脱退届』を出す必要がある。
 〈隻角の雄牛〉亭は所属冒険者がかなり多いし、パーティの結成や加入、脱退などはとかくトラブルになりがちなので、ギルド側が把握し管理するためにそうしたものが必要になるわけだ。
 そして通常、これらの届け出にはパーティリーダーの承認と署名が必要になる。そのため、リーダーはどんなに学のない田舎者でも必ず、自分の名前だけは書けるように練習する。ギルドに練習させられる。
 まあこの世界では一般常識や魔力のコントロールを学ぶ必要があるのでどこの国でも教育が盛んで、よほどの貧民や孤児などでもない限りは一通りの読み書き計算や歴史、魔力のコントロール方法など学んでから大人になるものだが。

 まあそれはともかく、そんなふうにギルドに管理される冒険者パーティだが、パーティリーダーの承認も署名も必要ない届出がひとつだけある。それが『出奔届』だ。
 どういうことかと言えば、報酬の分け前や人間関係などで諍いを起こして、特定のメンバーがパーティを抜けて他の面々と縁を切りたい時に、ギルドの承認のもとで『出奔届』を出すのだ。そうすればそのメンバーはギルドに保護された上で、他の面々との過失割合など査定され、認められればパーティリーダーの承認がなくともパーティを抜けることができるのだ。
 これは、かつてパーティリーダーに不当に拘束され搾取されていたメンバーが存在していたから作られた、立場の弱いパーティメンバーへのである。

「出奔て……!まさか認めたわけじゃないだろうな!?」
「認めましたよ。“魔力なし”だから役立たずだと、そう言われたとの事だったので」

 ぐっと言葉に詰まるソティン。彼だって、魔力なしを差別するのは良くないことだと知ってはいるのだ。
 だが、実際に役に立たないじゃないか。魔術が使えないって事は魔術によるクエスト中のサポートはもちろん、日常生活に溢れている生活魔道具だって扱えないってことなんだぞ!なんでそんな奴のために、魔術を使えるこっちがサポートしてやらなきゃいけないんだ!

「ソティンさんは日頃から、あちこちの酒場で酔っては魔力なしを小馬鹿にする発言を多くの人に聞かれていますので、今回のことも信憑性があると判断されました」
「うっ……それは……!」

「ですのでレイクさんの『出奔届』は受理されました。もう彼は“雷竜の咆哮”のメンバーではありません」
「だっだが!そうなるとルーチェオマエだって困るだろう!?」

 順調に実力を増して冒険者ランクを上げ、このフリウルでも注目株のパーティとして名が知られるようになってきた“雷竜の咆哮”だ。そのメンバーの加増はともかく脱退となると、言い方は悪いが格好になる。
 そうなれば担当するルーチェの業績にだって傷がつくはずで、彼女も困るはずだ。

「困りませんよ。私が担当しているのは別に“雷竜の咆哮”だけではないので」

 だがルーチェはにべもなかった。

 焦るソティンと、澄まし顔で平静のルーチェ。ソティンのほうが劣勢なのは明らかだ。


 その時、ギルドの入口扉が勢い良く開け放たれた。そして慌ただしく駆け込んでくる、ひとりの冒険者。

「おっおいルーチェ!あの話本当か!?」

 戦士風の冒険者は脇目も振らず、真っ直ぐにルーチェの元まで駆けてくる。「ええ、本当ですよ」とルーチェが微笑んで、それではガッツポーズとともに「よっしゃああああ!!」と雄叫びを上げた。

「え……ジュノ、さん……?」

 呆然とソティンが呟く。だって今目の前で喜色を爆発させている女冒険者が、〈隻角の雄牛〉亭所属冒険者の中でも五指に入るトップ冒険者にして、街を歩けば誰もが振り返る美貌を誇り、しかもこれまで頑なにソロを貫いていた孤高の女戦士ジュノだったからだ。

「おめでとうございます!これで“凄腕アデプト”に昇格できますね!」
「ああ、ありがとう!これもルーチェとレイクのおかげだ!」

「…………は?」

 ジュノの口から、何故レイクの名が出るのか。ソティンは訝しんだ。
 そんなソティンに、ようやくジュノが気付く。

「やあ、ソティンじゃないか!君にもありがとう!よくレイクを解放する決断をしてくれた!礼を言うよ!」

 美しい顔に似合わず力強いその手で両手を握られブンブン振られて、ソティンは何がなんだか訳がわからない。

「パーティ名はどうします?」
「それはレイクと相談しなくちゃな!彼はどこだ?」
「今、二階の賃貸契約のために奥の談話室に居ますよ」
「そっか、ありがとう!行ってくる!」

 そしてジュノは、ルーチェとソティンに手を振りつつギルドの奥へと消えて行った。

「……というわけで、レイクさんは新たにジュノさんとパーティを組むことになりました。なので“雷竜の咆哮”への連れ戻しは許可できません」

「…………なん、だと……!?」

 魔力なしの役立たずであるレイクを追放し、新たにイオスを加入させる。そうすることでパーティにはソティン以外は女性冒険者しか居なくなる。これでようやくソティンが夢見ていたの完成だ。そのはずだった。
 まあレイクが泣いて縋りついてくるなら残してやってもいいが、その場合は雑用以下の半分奴隷みたいな扱いで確定だ。残してやるのだから、きっと文句も言わずに従うはず……というか従わせるつもりだった。
 だというのに、追い出されて困窮するはずのレイクは、この冒険者の街フリウルでも一目置かれるトップ冒険者で、そして誰もが密かに狙っていた美女のジュノとの繋がりを得てしまった。

 こんな、こんなはずではなかった。がっくりと膝をつきうなだれるソティンに対して、ルーチェはもちろん周囲に何人かいる冒険者たちの誰ひとりとして、声をかける者はなかった。





しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません

紫楼
ファンタジー
 母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。  なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。  さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。  そこから俺の不思議な日々が始まる。  姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。    なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。  十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...