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05.今すぐ帰れ!
しおりを挟む「というわけでな、悪ぃけど先約があんだわ。だから戻って来いとか言われても、もう聞いてやれねえな」
賃貸契約を終えて談話室から戻ってきたレイクは、まだ居残ってルーチェ相手にゴネていたソティンに目ざとく見つかり、居丈高に「今ならパーティ復帰を認めてやる」などと尊大な態度で言われた。
その返事がこれである。
「なっ⸺!?お、お前、今までそんな事ひと言も言ってなかったじゃねぇか!」
「言うわけねえだろう。俺が“雷竜の咆哮”を抜ける予定なんか無かったんだし、抜けねえならその場の口約束だけで終わるはずだったんだぞ」
確かにその通り。そしてレイクの方から抜けたいと言い出したわけではなく、ソティンが身勝手に追放しただけだ。つまりソティンがレイクとジュノのパーティ結成の話に現実味を持たせたわけである。
「だっだが、お前だって」
「今更何を言ってるんだソティン。もうレイクは私とパーティを組んだんだから無理に決まってるだろう?」
そして奥の談話室から戻ってきてからずっと、レイクの左腕に何故か抱きついているジュノまでが、そんなことを言う。
「あー、ジュノ、それなんだがな」
「うん?どうしたレイク」
「パーティ結成届出してないから、まだパーティ組んでないぞ」
「なんだ、そんな事か。今から出すんだから同じことだろう?」
「だってパーティ名もまだじゃないか」
「そんなのは……“レイク&ジュノ”でどうだ?」
「やめろこっ恥ずかしいから」
腕を組んだままの、喜色満面のジュノとスンとした表情のレイクのやり取りを、ルーチェはニコニコと、ソティンは呆然と眺めている。
「ていうかジュノさんや」
「うん、なにかなレイク」
「何故に俺の腕にさっきから抱きついているのかな?」
えっ今さらそれツッコむわけ!?
「なんだ、そんなの決まってるだろう」
「そうか?」
「そうだとも。冒険の相棒は人生の相棒、これから末永く仲良くするんだから抱きつくに決まってるだろう?」
「いや何ひとつ決まってないが?」
そもそもパーティを組むのには同意したが、人生の相棒になるなんて一言も了承してないレイクである。
「大丈夫だ!レイクが私の食事を作り、レイクが私の部屋を掃除して私の服を洗濯して、その代わり私はレイクを全ての危険から守る!ほらウィンウィンじゃないか」
「いやちっとも大丈夫じゃねえだろ。何ひとつ同意できかねるんだが?」
ていうかそれって、生活の面倒を見ろって事だよな?
「えー、ダメか?」
「ダメだ。俺は冒険とプライベートは分ける主義だからな。⸺ていうかその上目遣いやめろ。あんたの方が背高いのに器用な真似するんじゃない」
「いや、『レイクを落とすのならこうやればイチコロだ』って冒険者仲間が」
いやまあ確かに、ジュノの美貌でそんな仕草をされたら大抵の男はクラっと来るだろう。冒険中ではなく半分休暇だったから実はレイクも今ちょっとヤバかった。
まあ冒険者ギルドだから耐えられたが。
ていうか何教えてくれてんだあのエロ事女魔術師は!
だいたいこの人は、自分がどれほどの容姿と才能を持ってるのか、本当に分かっているのか。それを適切に使えばこんな田舎者のチビの探索者なんかでなく、いくらでもハイスペックイケメンを捕まえられそうなものだが。レイクは訝しんだ。
「とにかく、私はレイクがいい!むしろレイクでなきゃイヤだ!」
「参ったな……」
「チキショウ!なんで、なんでお前なんだ!」
「そんなの俺が知りたいわ……」
なんでも何も、冒険モードの時はどんな美女が相手でも仕事仲間としか扱わないレイクの態度がジュノに刺さっただけである。ついでに調理を含む家事スキルと女性に対する気遣いの数々もだが。
自分が意外と女性冒険者たちからの評価が高いことに、レイク本人はサッパリ気付いていないのであった。
「さてさて。おふたりともイチャつくのはそれくらいにして、そろそろパーティ名決めてしまいましょうか」
「いやイチャついてないぞルーチェ」
「どの口が何言ってんですかねこの朴念仁は。いいからそこ座る!はい案出して!」
「やっぱり“レイク&ジュノ”⸺」
「だからそれは却下だ!」
受付カウンター脇に設えてある相談カウンターにしれっと移動したルーチェが、申請用紙とメモを取り出してきてレイクとジュノに向かいに座るよう指し示し、3人はそのままああでもないこうでもないとパーティ名を協議し始める。
当然に、ソティンは独り取り残される格好になった。
「いや……」
「そんなに言うんなら、レイクも何か案を出すべきだと思うぞ」
「待てよ……」
「んー、そうだなあ……。“雷竜の咆哮”はソティンがひとりで決めたからなあ」
「俺を無視するなよ……」
「いやあ正直、新人パーティがカッコつけて御大層なパーティ名つけたもんだって、当時のギルド職員たちの間では笑い種でしたけどね」
「なっ……ウソだ!」
「まあでも、頑張って名前負けしない程度にはなっただろ?」
「レイクさんが裏で支えてたからですけどね」
「そうだな。レイクほど裏方仕事ができる探索者もそうはいないからな」
「レイクさんが抜けたから、“雷竜の咆哮”ももう終わりでしょうねえ」
「そ、そんなはず……」
「あー、そういやイオスとかいう探索者の女の子を新たに加入させるとか言ってたぞ、ソティンのやつ」
「「え゛っ」」
「……えっ?」
ジュノとルーチェが裏声で反応し、次いで同時にまだ後ろで何か言ってるソティンを振り返る。驚愕の視線を向けられたソティンが驚くが、3人ともそのまま絶句してしまう。
「ソティン……君、本気か?」
「あーあ、次の獲物はソティンさんかぁ」
「そのイオスとかいう子の腰を抱いて鼻の下伸ばしてたぞ」
「「もはや手遅れか……」」
「なっ、な、何だよ!?」
「……いや、君が決めたことだ。私からは何も言うまい」
「そうですねえ。ギルド的には個々のパーティの人間関係はノータッチですから」
「なっ、何だよ気になるだろ!?」
「そういやこの場に連れてきてないけど、あの子どこにいるんだ?」
「えっ?そりゃあ多分……俺らのアパートに残ってると思うが」
「「今すぐ帰れ!!」」
「ヒッ!?」
「ソティン、悪いことは言わないから今すぐ帰って、パーティの共有財産を確かめろ」
「あと個人財産も確認した方がいいですよ」
「な、何だよどういう事だよ!?」
「「あの子の噂、知らないの!?」」
「だ……だからなんの話……」
「帰れば分かる」
「ていうか帰らなきゃ後悔しますよ!」
「わ、分かったよ……帰りゃいいんだろ……!」
そうしてソティンは、何がなんだか訳もわからないまま、レイクを連れ戻すこともできずにすごすごと帰る羽目になったのだった。
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