傷物公女は愛されたい!

杜野秋人

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01.辞退するつもりはありません

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「おい、君」

 呼ばれて歩みを止め振り返ると、そこにはなんともキラキラしいイケメンが、不機嫌そうな顔をして立っている。
 誰?いや誰だか分からなくても誰かは分かる。どう見たって高位貴族のご子息、少なくとも侯爵家以上のお坊ちゃんだろう。そして彼の用事も分かる。多分、というかほぼ間違いなくアレだ。

「君は、辞退しようという気にはならないのか」

 ほうらやっぱり。
 もうそれ、聞き飽きたんで。

「子爵家の次男ごときが、かの麗しき公女のにつけ込むとは浅ましい。君は本当に、自分が彼女のおっととして相応しいとでも思っているのか?」
「あ、その件でしたら」
「なんだ、身の程を弁えるつもりがあ」
「公爵家の方へ直接お願いできますかね。子爵家次男わたしの方からは辞退さえ許されておりませんので」

 まあ辞退するつもりもないんだけどさ。

「なっ……!」
「そもそも婚約者を公募なさったのは公爵家ですし、公女さまご自身のご意向でそうなったのだとも伺っております。私をお選びになったのも公女さまご自身だと、当の本人から伺っておりますので」
「くっ、それは」
「ですのでご不満がお有りなら公爵家に、そして公女さまに直接言上ごんじょうくださいませ。では」

 そこまで言い捨てて一礼し、踵を返す。まさか反論されると思っていなかったようで驚きに顔色を染めていたが、知ったことではない。

「なっ!?⸺おい待て!君!」
「まだ何か?」

 慌てて駆け寄ってきて肩を掴まれたので、渋々また振り返る。今度は麗しいお顔が怒りに染まってらっしゃる。
 いやいやせっかくのイケメンっぷりが台無しですよ?

「なんて無礼なやつだ!たかだか子爵家の次男の分際で、侯爵家子息のこの僕に対して、何という言い草だ!」
「当然でしょう?」

「…………は?」
が、筆頭公爵家以上に礼を尽くさねばならない相手だとでも仰せで?」

 今誰の話をしてたと思ってるんだこのトンチキ坊やは。いや坊やったって多分先輩なんだけどさ。
 ていうかこっちに決定権はないって説明したじゃん?聞いてた?

「う……それは……」

 さすがに筆頭公爵家にはご自慢の権力が通じないことくらいは理解しているようで、侯爵家のご子息イケメンは口ごもる。

「今後、もし私や子爵家我が家に何かしらの圧力をかけるようであれば公爵家に報告させて頂きますので。そういうの、余さず報せるようにとも命ぜられておりますから」

 突き放すように宣言してやれば、みるみる顔色が悪くなる。当たり前でしょうに。俺にも子爵家じっかにもなんの地位も権力も財力もないだけに、婚約が発表されれば嫉妬と誹謗中傷と圧力とが降り注ぐことくらい分かってたことだし、そういうのから全部守ってあげるからきちんと報告なさい、って言われてるもの。

 肩に置かれたままの手を振り払って、今度こそ踵を返す。もう侯爵家のお坊ちゃんは追い縋っては来なかった。


 まあ公爵家からの公式発表の時点で、陰でコソコソ噂する奴はともかく、今みたいに突撃してくるおバカさんはほとんどいなかったんだけどね。でもたまーにいるんだよね。謎の自信に満ち溢れてたり、子爵家相手なら圧力でどうにかできると勘違いしたり、とばかりに謎のマウント取ろうとするオツムの弱い人たちが。
 ていうかそいつらだって釣書送ってるはずなんだけどね?送ってて選ばれなかったってことはなのに、なんで分かんないかなあ?





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