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05.断罪
しおりを挟む「貴様の罪を、今ここで暴いてやろう!」
子爵家の次男が呼び止められて振り返ると、そこには王国の第三王子の姿があった。お呼びでございますかとうやうやしく頭を下げれば、返礼もなしに指を突きつけられそう言われたのだ。
学園の授業の一環でもある、学園主催の夜会の会場。生徒たちは大半が貴族の子女であり、卒業後に社交界で恥をかくことのないよう、学園では社交マナーを学ぶために季節ごとに模擬夜会が開かれているのだ。
ゆえに参加者は生徒たちのみ。指導監督役として教師たちも参加しており、学園所属の使用人たちが給仕や配膳を行ってはいるものの、基本的には生徒たちだけの場であり、親である貴族家当主たちは誰もいない。
罪と言われて、なんのことかと次男は内心首を傾げる。だがすぐに、王子が何を企んでいるか悟ることになった。
「貴様がゴロツキを密かに雇って公女を襲わせ、その弱みにつけ込んでまんまと婚約をせしめたこと、すでに露見しているぞ!もはや言い逃れなどできぬゆえ、覚悟するがいい!」
あー、そういやこの王子も釣書送ってきたひとりだっけ。側妃さまが甘やかし放題に育てたせいで尊大で自己中で自信過剰、ワガママ放題で隣国のお姫様から婚約を断られたんだったよな、確か。それで公爵家に婚約を打診したのに、自分は落とされて平凡な次男なんかが婚約者に収まったものだから、我慢ならないんだろうな。
でもそう来ましたか。冤罪をでっち上げてまでオレを排除に来ましたかそうですか。
「お言葉ではございますが⸺」
「誰が口を開いてよいと言った!」
こんなアホでも身分は殿下。下手な扱いはできないため、下げたままの頭をさらに一段下げて恐縮するふりをするしかない。
「貴様は悪辣にも、公爵家からの婚約金のみならず公女そのものまで手に入れようと邪な欲望に身を任せ、その計画を実行に移した!相違ないな!」
確認するような口ぶりだが、口を開くなと言われた以上は返答もできない。そもそも礼を解いてよいとさえ言われていないのだ。
「貴様が雇ったゴロツキどもの身柄はすでに確保しておる!貴様に雇われたのだという証言も、契約の誓紙も押収済みだ!もはや言い逃れなどできんぞ!」
周囲の学園生徒たちや教師たちがザワザワと小声で話し合っている。下げたままの目線でチラリと周囲を窺うと、何人かは使用人出入り口から出ていくのが見えた。おそらく、話の内容が内容だけに責任の取れる大人たち、学園首脳部や王城などへご注進に走ったのだろう。
「貴様はこの場で身柄を拘束し、刑吏によって厳しく取り調べさせる!騎士ども!確保せよ!」
第三王子は声高に、会場警護の騎士たちにそう命じた。高位貴族や王族の子弟も通うこの学園には、万が一のないように専属の護衛騎士団が配備されている。
だが警護の騎士はなかなか集まろうとしない。会場内にいるのは最小限の人数だけで、大半は扉の外や廊下、広間に隣接する庭園などで警備に従事しているためで、しかも王子とはいえ生徒のひとりでしかない彼には本来指揮権がないからだ。
「お言葉ではございますが殿下。殿下は我らへの命令権をお持ちではありませぬ」
「貴様!王子であるオレの命が聞けぬだと!?犯行を未然に防止しこの場の安全を図るのが貴様らの任務だろうが!」
「子爵家のご子息がこの場で暴れるようなら取り押さえは致しますが……」
警護の隊長が困ったように事実を告げて、王子が激高しているが、そもそも警護の騎士たちは衛兵でも憲兵でもないのだ。そして次男はうやうやしく頭を下げたままで暴れる様子もないのだから、警護騎士たちが動かねばならぬほどの危険はさしあたって存在しなかった。
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