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11.ふたりは永遠にバカップル
しおりを挟むそうして婚約者として順調に交際を深めつつ、ふたりで主導したクーデターまで成功させた今となってはすっかりと、レジーナのほうがルキウスを気に入ってしまって手放せなくなってしまっている。
それもそのはずで、元日本人として平成時代とほぼ重なる年月を生きていたルキウスは生まれ変わってすでに14年が経過している。つまり精神年齢的には実質40代の大人であり、15歳の彼女にとってはとても包容力のある、魅力的な男性に感じられたのだ。
「なんだか、時々とっても腑に落ちないのよね」
「何が腑に落ちないのです?」
「だってわたくしのほうが歳上のはずなのに、貴方といると親に甘える子供みたいになってしまうのだもの」
「……甘えられるのは嬉しいですが、親代わりはちょっと……」
「わたくしだって嫌よ!でもそう感じてしまうのだもの仕方ないじゃない!」
「まあでもそれは、私の前でだけはひとりの女の子に戻れているって事ですからね。そう捉えると喜ばしいことです」
「喜んでもらえたならわたくしも嬉しいわ。でもねルキウス」
「はい、何でしょう?」
「だからって、後ろから抱きついて良いなんて一言も許してなくてよ!」
「嫌がる素振りもないのに、説得力が全然ありませんね」
「だっ……!だって、それは……」
「このままキス、しましょうか?」
「…………もう!これ以上わたくしを喜ばせるのはやめて頂戴!」
傍から見ればイチャイチャラブラブのバカップルでしかないが、公邸のテラスには他に誰もいないので、誰に憚ることもなくスキンシップを重ねるふたりである。
(おふたり、王都では相変わらず『仲の悪い婚約者』で通しているのですって)
(……あれで仲悪いとか言われても、ねえ……)
(王都の皆様にこのおふたりのご様子、見せて差し上げたいわぁ……)
少し離れた、テラスの壁際には侍女たちが並んで控えているのだが、高位貴族としては使用人など壁紙扱いなので余人など存在しないのだ。
(くっ……!ヤロウ、俺のレジーナたんにベタベタしやがって……!)
(お前それ、お嬢様の前では絶対に口にするなよ……)
(あ゛?これでも外面は完璧に繕ってる方だぞ心配すんな!)
(余計に不安になってきたな……)
(それに俺だけ排除しようともムダだ。レジーナたん親衛隊は他にも大勢いるからな!)
(なん……だと……!?)
そして天井裏や扉の前、隣の控え室などに護衛騎士たちも詰めているのだが、姿が見えない以上は居ないも同然である。
ちなみにルキウスは侍女には気付いているがイチャつき出すと忘れてしまうし、護衛にはそもそも気付いていない。そしてレジーナの方はどちらも分かっているものの、幼い頃からそれらが控えているのが当たり前だったせいで微塵も気にしていなかったりする。
「…………っぷは、もう!キスはまだダメとあれほど!」
「あんなに欲しそうに見つめてきたくせに」
(それにしても、どうしてお嬢様は王都ではルキウス様と仲良くなさらないのでしょう?)
(ねー。せっかく一緒に居られるのだから、もっと仲良くなさればいいのに)
(あー、わたし、多分分かるかも)
(えっ、貴女分かるの?)
(多分だけど、王都でも同じようにしてたら、すぐに我慢できなくなるんじゃないかしら?)
「……っ!だ、だって!普段接触を減らしている間にわたくしがどれだけ寂しい思いをしていると思っているの!?それなのにふたりきりの時にまで我慢なんて無理よ!」
(((あー、確かに)))
「ええ。ですから、今夜はたっぷりと満足させて差し上げますとも」
「本当に!?約束よ!絶対ですからね!」
「二言はありませんよ、私の愛しきレジーナ」
「わたしくしも!わたくしも愛しているわルキウス!」
(……くっ、ヤロウ!殺してやりたい……!)
(やめんかバカ者。お嬢様が幸せそうなんだからいいじゃないか)
(くうう……!俺が幸せにしてやりたかったのに……!)
(落選したんだから諦めろって)
ここ最近のレジーナは、本邸でルキウスと会うたびにグズグズに甘やかされ蕩かされて、普段の冷徹な雰囲気など微塵も残っていない。もしも王都で同じ状況になってしまえば、あっという間にその偶像など崩れさってしまうに違いない。
そして高位貴族とは何よりも体面を気にする生き物である。自らの作り上げた冷徹で理知的な姿を壊して普段の姿をさらけ出すのは、レジーナの矜持が許さないだろう。
事実彼女は、婚約期間中も婚姻してからも、女公爵とその配となってからも、そして女王と王配になってからも、人前では彼とは一切目も合わさなかったという。会話は政治的もしくは事務的な連絡事項のみ、ふたりで並ぶのは夜会や謁見など公的な場でのみという状態を終生貫いたと伝わっている。
そんな仲悪そうなふたりだったのに、何故か四男二女の子沢山に恵まれ生涯添い遂げたことで、当時の世間でも後世でも、ひどく不思議がられたそうである。
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感想ありがとうございます。
そう!ならば戦争だ!(爆)
新年明けましておめでとうございます。元日から感想をありがとうございます!
女性への暴行事件ってホントに最低最悪ですよね!女性にしてみれば一生もののトラウマですもんね!
ルキウスにしてみれば、転生者なのでそういった女性の心理状態にも心を配って心配してやれるわけで、そういうところもレジーナには好感だったんだろうなと思います。
あ、ところで私の作品世界では「魔法」ではなく「魔術」なので、そこのところお間違えなきよう(笑)。魔法は神々の使うような、人間には扱えない大きな力という設定なので、私の作品世界でも「おとぎ話の中の存在」です(^_^;
今年もちまちま作品を書いていきますので、また読んで頂ければありがたいです。よろしくお願いします。