5 / 33
5話
しおりを挟む
「これが例の脅迫状か……字が綺麗だし、丁寧に書いてあるね」
「変わった着眼点だなあ、レリアさんは。それより問題は、どうやってこれを置いたかだよ」
アベルが深刻そうに話すと、オルレアが同意する。
「見たところ、この部屋には窓がありません。つまり、外から入ってくるにはこの屋敷の警備をかいくぐるしかなさそうですね」
「その通り。だが、ここは仮にも騎士団長の屋敷。普段から警備もかなり厳重だ。いくら魔道教団とは言え、そんな人材が居るとは考えにくい」
その言葉を聞いて、レリアは周囲を見回す。なるほど言われてみれば、確かにこの部屋には窓が無い。思い返せばここまで来るルートだってかなり長く、そして複雑だった。警備が厳重な中であのルートを誰にも気づかれず突破し、帰りもまた同じ事をするというのは半ば荒唐無稽な話に感じられた。
となると、アベルの結論は何となく予想がついた。
「では内部犯を疑っている、と?」
「噂通り鋭いね。流石は一等騎士サマってところだ」
おお、と感心した様なリアクションは妙に嘘くさい。レリアにはこの男が、少し軽薄な人物に思えてきた。
「おたくのとこの騎士団長が襲われた時も、教団の内通者が何人か居たらしいからね。それも騎士団だけじゃなく、貴族、宮廷魔術師、果てには諜報部にまで」
「何処にでも居るね、連中は。となればこの屋敷の中に居てもおかしくはないか」
「ああ。執事やメイドを中心に、屋敷内の怪しい人物は全員こっそり騎士がマークしてる。また同じ事をやろうとすれば、すぐ分かるはずだよ」
これだけ警戒されればもうやる事はないだろうけど、とアベルは笑いながら付け加えた。
「ふむ。まあ次があるとしたらファウルハイト殿に直接危害を加えようとした時だろうね」
「だろうね。まあ、そんな事は俺達がさせないけども」
ごもっとも、とレリアは笑いながら話す。そんな折、扉の向こうから力強い男の声が聞こえてきた。
「ええい、まだ犯人は捕まらないのか!!」
「団長、申し訳ありません。教団の関与が疑われていますが、実行犯はまだなんとも……」
「要は何も分からんという事ではないか! もう良い! 私が直々に陣頭指揮を取ってやる!」
バタン! と乱暴な音と共に扉が開かれる。彫りの深い顔が目立つ、白髪混じりの男が部屋に入ってきた。第七騎士団団長、ファウルハイト・ゾンネ。その地位に相応しい風格の持ち主であり、そして今騎士団で最も勢いのある男であった。
「捜査は今どうなっている!」
半ば怒鳴り散らしながらの問いに、周囲が戦々恐々とする中、アベルが進み出る。
「お早う御座います団長。捜査の方は今始まったばかりですから、大きな進展はありません」
「ハナからそんなものには期待していない! 小さかろうと進展を報告しろ!」
「現在屋敷内の怪しい人物をリストアップし、全員に密かに監視をつけておりまして……」
「そんな当たり前の話はどうでもいい。何か犯人像の一つでも浮かび上がってこないのか!?」
何を言っても怒鳴られるこの状況にアベルもどうしようもないらしく、こっそり苦笑いしている。
しょうがないので、レリアが助け舟を出す事にした。
「犯人像と言えるかどうかは分かりませんが、一つ思い当たる事なら……」
「ふむ。そこの君、言ってみなさい」
「この脅迫状を書いた人物は、貴族階級か、あるいは裕福な商家出身かと」
「何だと? 何故そう言える?」
ファウルハイトの両目が、レリアをぎろりと睨み付ける。こんなに威圧される様な視線に晒されては、溜まったものではない。先程ファウルハイトが捜査状況を問いかけた時、アベル以外に誰も答えようとしなかった理由が分かった気がした。
「字が整いすぎています。おまけにご丁寧な事に、一角一角を一切省略しない格式ばった書き方です」
「……それはそうだが、だから何かね?」
「一般の平民は、こんな不便な書き方をしません。必要ありませんからね。それにそもそも、彼らの教育環境では知ることすらないはずです」
大半の国において平民の識字率が低いのに対して、帝国や王国といった大国では大半の人間が文字を読み書きできる。しかし、それはあくまで使えるだけだ。
日常生活で使えさえすれば問題ない為、彼らの字は大概汚く、また幾分か正式な物に比べて省略化されている。貴族階級が主に使う格式ばった書き方など、教えられてすらいないだろう。
「ふむ……言われてみればその通りだ。我が家の使用人もこの書き方をする者は少ないな」
少し考えれば当たり前の話だが、騎士団の大半の人間には思い当たらない。厳しい選抜をクリアして騎士になれる時点で、その殆どが良い教育環境で育った人間なのである。つまるところ、ほぼ全員がこれを書いた人間と同じく貴族か裕福な商家出身である。
この文字を書けるのが彼らには当たり前なのだ。だからこれを書けるのが一部の人間であるという事実が思い当たらない。
帝国における上流階級とそれ以外との差が、残酷なほどに表れていた。
(大半の騎士にとっては、平民など文字通り別世界の人間なのだろうな……)
レリアが感傷に浸っていた、その時。
「で、君は誰だ?」
ファウルハイトの目が、ぎょろりと動いた。
「変わった着眼点だなあ、レリアさんは。それより問題は、どうやってこれを置いたかだよ」
アベルが深刻そうに話すと、オルレアが同意する。
「見たところ、この部屋には窓がありません。つまり、外から入ってくるにはこの屋敷の警備をかいくぐるしかなさそうですね」
「その通り。だが、ここは仮にも騎士団長の屋敷。普段から警備もかなり厳重だ。いくら魔道教団とは言え、そんな人材が居るとは考えにくい」
その言葉を聞いて、レリアは周囲を見回す。なるほど言われてみれば、確かにこの部屋には窓が無い。思い返せばここまで来るルートだってかなり長く、そして複雑だった。警備が厳重な中であのルートを誰にも気づかれず突破し、帰りもまた同じ事をするというのは半ば荒唐無稽な話に感じられた。
となると、アベルの結論は何となく予想がついた。
「では内部犯を疑っている、と?」
「噂通り鋭いね。流石は一等騎士サマってところだ」
おお、と感心した様なリアクションは妙に嘘くさい。レリアにはこの男が、少し軽薄な人物に思えてきた。
「おたくのとこの騎士団長が襲われた時も、教団の内通者が何人か居たらしいからね。それも騎士団だけじゃなく、貴族、宮廷魔術師、果てには諜報部にまで」
「何処にでも居るね、連中は。となればこの屋敷の中に居てもおかしくはないか」
「ああ。執事やメイドを中心に、屋敷内の怪しい人物は全員こっそり騎士がマークしてる。また同じ事をやろうとすれば、すぐ分かるはずだよ」
これだけ警戒されればもうやる事はないだろうけど、とアベルは笑いながら付け加えた。
「ふむ。まあ次があるとしたらファウルハイト殿に直接危害を加えようとした時だろうね」
「だろうね。まあ、そんな事は俺達がさせないけども」
ごもっとも、とレリアは笑いながら話す。そんな折、扉の向こうから力強い男の声が聞こえてきた。
「ええい、まだ犯人は捕まらないのか!!」
「団長、申し訳ありません。教団の関与が疑われていますが、実行犯はまだなんとも……」
「要は何も分からんという事ではないか! もう良い! 私が直々に陣頭指揮を取ってやる!」
バタン! と乱暴な音と共に扉が開かれる。彫りの深い顔が目立つ、白髪混じりの男が部屋に入ってきた。第七騎士団団長、ファウルハイト・ゾンネ。その地位に相応しい風格の持ち主であり、そして今騎士団で最も勢いのある男であった。
「捜査は今どうなっている!」
半ば怒鳴り散らしながらの問いに、周囲が戦々恐々とする中、アベルが進み出る。
「お早う御座います団長。捜査の方は今始まったばかりですから、大きな進展はありません」
「ハナからそんなものには期待していない! 小さかろうと進展を報告しろ!」
「現在屋敷内の怪しい人物をリストアップし、全員に密かに監視をつけておりまして……」
「そんな当たり前の話はどうでもいい。何か犯人像の一つでも浮かび上がってこないのか!?」
何を言っても怒鳴られるこの状況にアベルもどうしようもないらしく、こっそり苦笑いしている。
しょうがないので、レリアが助け舟を出す事にした。
「犯人像と言えるかどうかは分かりませんが、一つ思い当たる事なら……」
「ふむ。そこの君、言ってみなさい」
「この脅迫状を書いた人物は、貴族階級か、あるいは裕福な商家出身かと」
「何だと? 何故そう言える?」
ファウルハイトの両目が、レリアをぎろりと睨み付ける。こんなに威圧される様な視線に晒されては、溜まったものではない。先程ファウルハイトが捜査状況を問いかけた時、アベル以外に誰も答えようとしなかった理由が分かった気がした。
「字が整いすぎています。おまけにご丁寧な事に、一角一角を一切省略しない格式ばった書き方です」
「……それはそうだが、だから何かね?」
「一般の平民は、こんな不便な書き方をしません。必要ありませんからね。それにそもそも、彼らの教育環境では知ることすらないはずです」
大半の国において平民の識字率が低いのに対して、帝国や王国といった大国では大半の人間が文字を読み書きできる。しかし、それはあくまで使えるだけだ。
日常生活で使えさえすれば問題ない為、彼らの字は大概汚く、また幾分か正式な物に比べて省略化されている。貴族階級が主に使う格式ばった書き方など、教えられてすらいないだろう。
「ふむ……言われてみればその通りだ。我が家の使用人もこの書き方をする者は少ないな」
少し考えれば当たり前の話だが、騎士団の大半の人間には思い当たらない。厳しい選抜をクリアして騎士になれる時点で、その殆どが良い教育環境で育った人間なのである。つまるところ、ほぼ全員がこれを書いた人間と同じく貴族か裕福な商家出身である。
この文字を書けるのが彼らには当たり前なのだ。だからこれを書けるのが一部の人間であるという事実が思い当たらない。
帝国における上流階級とそれ以外との差が、残酷なほどに表れていた。
(大半の騎士にとっては、平民など文字通り別世界の人間なのだろうな……)
レリアが感傷に浸っていた、その時。
「で、君は誰だ?」
ファウルハイトの目が、ぎょろりと動いた。
0
あなたにおすすめの小説
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる