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13話
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「隊長、どう思います?」
「……どう、とは?」
オルレアの曖昧な問いかけに、レリアは思わず聞き返した。すると横からフリージアが口を挟む。
「決まってるじゃないっスか。あの男が脅迫状を送ったかどうかっスよ」
「ああ、そういうことか……」
「それで、どうでしょうか。やはり、あの方が犯人なのでしょうか……」
オルレアの言葉からは、どうかアネモネの父が犯人であってほしくない――そんな思いがありありと読み取れた。
レリアはオルレアと長い付き合いだ。彼女のことをよく知っている。オルレアは一見冷徹そうだが、こう見えて意外と情に弱いのだ。
その不安を振り払うように、レリアはきっぱりと言った。
「最後の『恨んでいない』は、さすがにあり得ないと思う。だが同時に、犯行に走るほどの憎しみも感じなかったな」
その言葉を聞き、オルレアはぱっと顔を輝かせた。一方でフリージアは、どうにも納得いかない様子だ。
「たいちょー、ホントにそうなんスか? オルレアっちに配慮してないっスか、それー?」
「オルレアっちって……あなたねえ! 私はあなたより階級が上なんですから、ちゃんと敬意を示しなさい!」
レリアはふたりをなだめながら続けた。
「彼の怒りは、どちらかと言えば自分自身に向いていた。ファウルハイト団長に何かする気はないというか、それをする気力自体が残っていないように見えたな」
「えー、それはたいちょーの感想じゃないっスかー」
なおも不満げなフリージアに、レリアは淡々と重ねる。
「では、切り口を変えてみよう。そもそも脅迫状を屋敷に置くこと自体、彼には不可能だろう?」
「へ?」
「ファウルハイト団長の屋敷の警備は普段から厳重だ。そのうえ二枚目の脅迫状が見つかったときには、さらに厳重になっていた」
そこまで聞いて、フリージアはぽんと手を打った。
「そっか、そんな中で誰にも気づかれずに二度も屋敷に侵入するなんて、ふつーの人には無理っスね!」
「普通どころか、あの健康状態では激しい運動ができるかどうか……彼には不可能だ。間違いなくな」
レリアが断言すると、フリージアは満面の笑みで親指を立てた。
「さすがたいちょーっス! よっ、天才、怪物、帝国の至宝、騎士団一の変人!」
「さ、最後のは褒め言葉なのか?……まあいい。ともかく、そういうことだから別の人物を疑うべきだろうね」
レリアが話を締めると、オルレアが引き継ぐ。
「では、誰が脅迫状を送ったのでしょうか? そもそも、ローブの怪しい男は誰で、脅迫状と関係があるのでしょうか……」
「全然見当がつかないっスねー。外部からの侵入が難しそうだし、屋敷内部の人間っぽいんスけど」
ふたりが頭を悩ませていると、レリアがぽつりとつぶやいた。
「……個人的に、怪しいと思う人物はいるな」
「えっ、そうなんですか?」
「誰っスかそれ! たいちょー、教えてくださいよー!」
フリージアは教えて教えてと駄々をこねる。しかしレリアは首を横に振った。
「まだ確証がなくてな。論理的にはその人物が怪しいと思っているのだが、何かしっくり来ないというか……」
「推測でもいいから教えてほしいっスよー!」
結局、レリアがその人物の名を口にすることはなかった。
屋敷へ戻った後、レリアたちはいったん解散することにした。今ごろ二人は、フリージアお気に入りの店でステーキを食べているのだろう。
(ふむ、私も行けばよかっただろうか……)
フリージア曰く、酸味の利いた木の実のソースが肉の脂とよく合っていて美味しいらしい。想像すればするほど、レリアもだんだんとお腹が空いてくる。
「……だめだだめだ。今は捜査が先だ。それに、ここにいるのがばれたらまずい……」
レリアはいま、ファウルハイトの私室で彼について調べていた。ファウルハイトの人となりが分かれば、彼を恨む人物にも見当がつくのではないかと考えたのだ。
しかしファウルハイトからは先ほど「出ていけ」と言われたばかり。当然、これも無断である。
(ステーキ、食べに行けばよかったな……)
方や同僚と楽しくステーキ。方や他人の私室に無断侵入。どちらがいいかなど一目瞭然――まあ、その二択で後者を選ぶのがレリアなのだが。
(……別のことを考えよう。例えば、彼女が本当に脅迫状を送ったのか、とかな)
脅迫状を送ったのは誰なのか。
その問いに対して、レリアには一応の答えがあった。現時点で推測できる犯人像は、次の通りである。
・一枚目の脅迫状が丁寧かつ正式な書体で書かれていたことから、相応の環境で育っている
・屋敷への二度の侵入は現実的に難しく、犯人は屋敷内部の人間、あるいは屋敷に常にいても不自然でない人間
・二枚目の脅迫状から、犯人はファウルハイトと直接接触しているか、少なくとも彼の情報が容易に入る立場にある
そして何より――ファウルハイト本人に強い恨みを抱いている
この条件すべてに当てはまり、なおかつ怪しい人物は――
『それなりの貴族教育は受けたけど……』
『今はフレイ様の護衛をしてるわ』
『あと少しで……あと少しで、捕まえられたのに……!』
『あの時は、すべてを壊そうかと思った』
──騎士、ローズ・シュヴァルツである。
「……どう、とは?」
オルレアの曖昧な問いかけに、レリアは思わず聞き返した。すると横からフリージアが口を挟む。
「決まってるじゃないっスか。あの男が脅迫状を送ったかどうかっスよ」
「ああ、そういうことか……」
「それで、どうでしょうか。やはり、あの方が犯人なのでしょうか……」
オルレアの言葉からは、どうかアネモネの父が犯人であってほしくない――そんな思いがありありと読み取れた。
レリアはオルレアと長い付き合いだ。彼女のことをよく知っている。オルレアは一見冷徹そうだが、こう見えて意外と情に弱いのだ。
その不安を振り払うように、レリアはきっぱりと言った。
「最後の『恨んでいない』は、さすがにあり得ないと思う。だが同時に、犯行に走るほどの憎しみも感じなかったな」
その言葉を聞き、オルレアはぱっと顔を輝かせた。一方でフリージアは、どうにも納得いかない様子だ。
「たいちょー、ホントにそうなんスか? オルレアっちに配慮してないっスか、それー?」
「オルレアっちって……あなたねえ! 私はあなたより階級が上なんですから、ちゃんと敬意を示しなさい!」
レリアはふたりをなだめながら続けた。
「彼の怒りは、どちらかと言えば自分自身に向いていた。ファウルハイト団長に何かする気はないというか、それをする気力自体が残っていないように見えたな」
「えー、それはたいちょーの感想じゃないっスかー」
なおも不満げなフリージアに、レリアは淡々と重ねる。
「では、切り口を変えてみよう。そもそも脅迫状を屋敷に置くこと自体、彼には不可能だろう?」
「へ?」
「ファウルハイト団長の屋敷の警備は普段から厳重だ。そのうえ二枚目の脅迫状が見つかったときには、さらに厳重になっていた」
そこまで聞いて、フリージアはぽんと手を打った。
「そっか、そんな中で誰にも気づかれずに二度も屋敷に侵入するなんて、ふつーの人には無理っスね!」
「普通どころか、あの健康状態では激しい運動ができるかどうか……彼には不可能だ。間違いなくな」
レリアが断言すると、フリージアは満面の笑みで親指を立てた。
「さすがたいちょーっス! よっ、天才、怪物、帝国の至宝、騎士団一の変人!」
「さ、最後のは褒め言葉なのか?……まあいい。ともかく、そういうことだから別の人物を疑うべきだろうね」
レリアが話を締めると、オルレアが引き継ぐ。
「では、誰が脅迫状を送ったのでしょうか? そもそも、ローブの怪しい男は誰で、脅迫状と関係があるのでしょうか……」
「全然見当がつかないっスねー。外部からの侵入が難しそうだし、屋敷内部の人間っぽいんスけど」
ふたりが頭を悩ませていると、レリアがぽつりとつぶやいた。
「……個人的に、怪しいと思う人物はいるな」
「えっ、そうなんですか?」
「誰っスかそれ! たいちょー、教えてくださいよー!」
フリージアは教えて教えてと駄々をこねる。しかしレリアは首を横に振った。
「まだ確証がなくてな。論理的にはその人物が怪しいと思っているのだが、何かしっくり来ないというか……」
「推測でもいいから教えてほしいっスよー!」
結局、レリアがその人物の名を口にすることはなかった。
屋敷へ戻った後、レリアたちはいったん解散することにした。今ごろ二人は、フリージアお気に入りの店でステーキを食べているのだろう。
(ふむ、私も行けばよかっただろうか……)
フリージア曰く、酸味の利いた木の実のソースが肉の脂とよく合っていて美味しいらしい。想像すればするほど、レリアもだんだんとお腹が空いてくる。
「……だめだだめだ。今は捜査が先だ。それに、ここにいるのがばれたらまずい……」
レリアはいま、ファウルハイトの私室で彼について調べていた。ファウルハイトの人となりが分かれば、彼を恨む人物にも見当がつくのではないかと考えたのだ。
しかしファウルハイトからは先ほど「出ていけ」と言われたばかり。当然、これも無断である。
(ステーキ、食べに行けばよかったな……)
方や同僚と楽しくステーキ。方や他人の私室に無断侵入。どちらがいいかなど一目瞭然――まあ、その二択で後者を選ぶのがレリアなのだが。
(……別のことを考えよう。例えば、彼女が本当に脅迫状を送ったのか、とかな)
脅迫状を送ったのは誰なのか。
その問いに対して、レリアには一応の答えがあった。現時点で推測できる犯人像は、次の通りである。
・一枚目の脅迫状が丁寧かつ正式な書体で書かれていたことから、相応の環境で育っている
・屋敷への二度の侵入は現実的に難しく、犯人は屋敷内部の人間、あるいは屋敷に常にいても不自然でない人間
・二枚目の脅迫状から、犯人はファウルハイトと直接接触しているか、少なくとも彼の情報が容易に入る立場にある
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『それなりの貴族教育は受けたけど……』
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