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14話
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(ああ、にしてもステーキ食べたかったなぁ……)
ステーキに思いを馳せながら本棚を漁っていると、小難しそうな本が大量に並ぶ中で、一冊の無題の分厚いカバーがレリアの目に留まった。
「これは?」
ページをぱらぱらとめくり、すぐに事情を理解する。そこに収められていたのは、赤ん坊が少女へと成長していく過程を写した写真の数々だった。
「アルバム、というやつか……」
二本の足でよちよちと立つ赤ん坊に、大はしゃぎするファウルハイト。剣を構えるファウルハイトと、それを真似して構える幼い少女。大会で優勝したのだろう、トロフィーを掲げて満面の笑みを浮かべるフレイ。
そこには、確かに父から娘へ向けられた愛情が詰まっていた。
「これは中々……」
本来の目的も忘れ、夢中でページをめくり続けるレリア。当然、そんなに長居していれば気づかれないはずがない。
「貴様が何故ここにいる! レリア・ローゼンベルク!」
「あっ」
背後から怒声を浴びせられ、思わずアルバムを落としてしまう。振り返ると、屋敷の主人たるファウルハイトが立っていた。
「君、帰れという命令に従わず、それどころか私の私室に不法侵入とは……いい加減にしたまえ!」
「申し訳ない。色々と調べていまして」
「そもそも君は捜査に参加していないだろう! まったく、これも元の場所に戻さなくては……」
怒りを露わにしながら、ファウルハイトはアルバムを拾い上げる。落ちた拍子に、先ほどとは違うページが開いていた。
「……ん?」
そのとき、一枚の写真がレリアの目に留まった。フレイと誰かが並んで写っているツーショット写真。ちらりと見えただけで相手の顔ははっきりしなかったが――
「今の写真、見せてもらえますか!」
「はあ? 君、いい加減に――」
「いいから!」
レリアはファウルハイトからアルバムを引ったくり、問題の写真を確認する。そこに写っていた人物は、やはり予想していた通りだった。
それだけではない。ページをめくればめくるほど、その人物が写る写真がいくつも現れる。だが、ある時期を境にぱたりと姿を消していた。
(思い出した……私は、重大な勘違いをしていたのか)
レリアは、フレイを騎士団本部で見かけた時のことを思い出す。なぜ彼女が本部を訪れていたのか――その時は深く考えなかった。だが、今なら分かる。
──アネモネの自殺に関わる関係者として訪れていたのだ。
だとすれば、フレイが何を考えているのかもおおよそ見当がつく。
「君、話を真面目に聞き――」
「そんな話は今どうでもいい!!!」
突然の剣幕に、ファウルハイトは思わず言葉を失った。レリアは深刻な表情のまま、静かに告げる。
「フレイが危ない」
屋敷の二階に設けられた簡易キッチン。一階の厨房ほど本格的ではないものの、簡単な料理や飲み物を作るには十分な設備が整っている。
そこで彼女は紅茶を淹れていた。
それを物陰から伺う男がひとり。騎士アベルである。
(ここだ……間違いない。このタイミングだ。彼女は、ここでやる!)
ティーポットに茶葉をひとすくい入れ、円を描くようにゆっくりと熱湯を注いでいく。注ぎ終えると蓋をし、そのまま静かに待つ。彼女の表情はどこか切なく、それでいて強い決意に満ちていた。
二分ほどが経過した頃だろうか。蓋を外し、スプーンでそっと中をかき混ぜる。茶漉しを注ぎ口に当て、もう一つのティーポットへと移し替える。
(そろそろか……)
アベルにとっては数時間にも感じられた数分間が、ついに終わろうとしていた。
一対のティーカップに、静かに紅茶を注ぐ。名残惜しむかのように、じっくりと、丁寧に。
紅茶を注ぎ終えた直後、彼女は周囲を警戒するように視線を巡らせた。その仕草は「誰にも見られたくない」と語っていた。
そして懐から小包を取り出し、迷いなく開く。中には白い粉――それをティーカップへ入れようとした、その瞬間。
「何を入れようとしているのか、教えてもらおうか!」
アベルが声を張り上げる。驚いた彼女は振り向き――
──ローズ・シュヴァルツは、静かにアベルへと視線を向けた。
「あなた、いたのね。全然気づかなかったわ」
決定的瞬間を押さえられたというのに、ローズはどこか楽しげに微笑んでいた。
「その粉、何だ?」
「粉ってなぁに? 私、紅茶を淹れていただけよ?」
ふふ、と笑うローズ。しかしアベルは引かない。
「さっき、さりげなくポケットにしまったそれだ」
「……バレちゃった。残念」
おどけるように言って、小包を取り出す。しかしアベルの視線は鋭いままだ。
「それが何かによっては、ただじゃ済まないぞ」
「そうね。でも――あなたが喋らなければ問題ないわ」
気づけば二人の距離は、手を伸ばせば触れられるほど近づいていた。背筋に冷たいものが走る。
「やめろ! 離せ、離してくれ!」
「逃げちゃダーメ♪ 一足お先に味わってみて?」
懇願もむなしく、小包の中身がアベルの口に押し込まれる。
「もごっ! もごもごごっ!」
甘く爽やかな香りが口いっぱいに広がる。意識が遠のく中、アベルは後悔した。
(迂闊すぎた……せめて複数人でかかるべきだった……)
無念のまま、意識が闇に沈んでいき――
「……あれ? 俺、なんで死なないの?」
「……え? 薔薇砂糖って、死ぬほど危険な品物じゃないわよ?」
アベルとローズは顔を見合わせ、同時に困惑した表情を浮かべた。
ステーキに思いを馳せながら本棚を漁っていると、小難しそうな本が大量に並ぶ中で、一冊の無題の分厚いカバーがレリアの目に留まった。
「これは?」
ページをぱらぱらとめくり、すぐに事情を理解する。そこに収められていたのは、赤ん坊が少女へと成長していく過程を写した写真の数々だった。
「アルバム、というやつか……」
二本の足でよちよちと立つ赤ん坊に、大はしゃぎするファウルハイト。剣を構えるファウルハイトと、それを真似して構える幼い少女。大会で優勝したのだろう、トロフィーを掲げて満面の笑みを浮かべるフレイ。
そこには、確かに父から娘へ向けられた愛情が詰まっていた。
「これは中々……」
本来の目的も忘れ、夢中でページをめくり続けるレリア。当然、そんなに長居していれば気づかれないはずがない。
「貴様が何故ここにいる! レリア・ローゼンベルク!」
「あっ」
背後から怒声を浴びせられ、思わずアルバムを落としてしまう。振り返ると、屋敷の主人たるファウルハイトが立っていた。
「君、帰れという命令に従わず、それどころか私の私室に不法侵入とは……いい加減にしたまえ!」
「申し訳ない。色々と調べていまして」
「そもそも君は捜査に参加していないだろう! まったく、これも元の場所に戻さなくては……」
怒りを露わにしながら、ファウルハイトはアルバムを拾い上げる。落ちた拍子に、先ほどとは違うページが開いていた。
「……ん?」
そのとき、一枚の写真がレリアの目に留まった。フレイと誰かが並んで写っているツーショット写真。ちらりと見えただけで相手の顔ははっきりしなかったが――
「今の写真、見せてもらえますか!」
「はあ? 君、いい加減に――」
「いいから!」
レリアはファウルハイトからアルバムを引ったくり、問題の写真を確認する。そこに写っていた人物は、やはり予想していた通りだった。
それだけではない。ページをめくればめくるほど、その人物が写る写真がいくつも現れる。だが、ある時期を境にぱたりと姿を消していた。
(思い出した……私は、重大な勘違いをしていたのか)
レリアは、フレイを騎士団本部で見かけた時のことを思い出す。なぜ彼女が本部を訪れていたのか――その時は深く考えなかった。だが、今なら分かる。
──アネモネの自殺に関わる関係者として訪れていたのだ。
だとすれば、フレイが何を考えているのかもおおよそ見当がつく。
「君、話を真面目に聞き――」
「そんな話は今どうでもいい!!!」
突然の剣幕に、ファウルハイトは思わず言葉を失った。レリアは深刻な表情のまま、静かに告げる。
「フレイが危ない」
屋敷の二階に設けられた簡易キッチン。一階の厨房ほど本格的ではないものの、簡単な料理や飲み物を作るには十分な設備が整っている。
そこで彼女は紅茶を淹れていた。
それを物陰から伺う男がひとり。騎士アベルである。
(ここだ……間違いない。このタイミングだ。彼女は、ここでやる!)
ティーポットに茶葉をひとすくい入れ、円を描くようにゆっくりと熱湯を注いでいく。注ぎ終えると蓋をし、そのまま静かに待つ。彼女の表情はどこか切なく、それでいて強い決意に満ちていた。
二分ほどが経過した頃だろうか。蓋を外し、スプーンでそっと中をかき混ぜる。茶漉しを注ぎ口に当て、もう一つのティーポットへと移し替える。
(そろそろか……)
アベルにとっては数時間にも感じられた数分間が、ついに終わろうとしていた。
一対のティーカップに、静かに紅茶を注ぐ。名残惜しむかのように、じっくりと、丁寧に。
紅茶を注ぎ終えた直後、彼女は周囲を警戒するように視線を巡らせた。その仕草は「誰にも見られたくない」と語っていた。
そして懐から小包を取り出し、迷いなく開く。中には白い粉――それをティーカップへ入れようとした、その瞬間。
「何を入れようとしているのか、教えてもらおうか!」
アベルが声を張り上げる。驚いた彼女は振り向き――
──ローズ・シュヴァルツは、静かにアベルへと視線を向けた。
「あなた、いたのね。全然気づかなかったわ」
決定的瞬間を押さえられたというのに、ローズはどこか楽しげに微笑んでいた。
「その粉、何だ?」
「粉ってなぁに? 私、紅茶を淹れていただけよ?」
ふふ、と笑うローズ。しかしアベルは引かない。
「さっき、さりげなくポケットにしまったそれだ」
「……バレちゃった。残念」
おどけるように言って、小包を取り出す。しかしアベルの視線は鋭いままだ。
「それが何かによっては、ただじゃ済まないぞ」
「そうね。でも――あなたが喋らなければ問題ないわ」
気づけば二人の距離は、手を伸ばせば触れられるほど近づいていた。背筋に冷たいものが走る。
「やめろ! 離せ、離してくれ!」
「逃げちゃダーメ♪ 一足お先に味わってみて?」
懇願もむなしく、小包の中身がアベルの口に押し込まれる。
「もごっ! もごもごごっ!」
甘く爽やかな香りが口いっぱいに広がる。意識が遠のく中、アベルは後悔した。
(迂闊すぎた……せめて複数人でかかるべきだった……)
無念のまま、意識が闇に沈んでいき――
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