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21話
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屋敷の隅に位置する病室。窓から差し込む夕日以外にまともな光源はなく、何処となく薄暗い。レリアとフレイは脇にあるソファに並んで座っていた。
フレイが自殺しようとしてから数時間。しばらく茫然としていたフレイも、段々と落ち着いてきた。
「……少しは落ち着いたか?」
「うん……あんたを巻き込んで、ごめん」
弱々しい声で、フレイはそう言った。申し訳なく思っているのか、気まずそうにしている。
だが、レリアには彼女の言葉が引っかかった。
「あくまで、『私を巻き込んだ』事を謝るのか。君は、あの行為自体を後悔していないのか?」
「……」
「そんなに自分が許せないか、君は」
返事は返ってこない。だが、その沈黙が全てを物語っていた。いまだ彼女は自ら死を選ぼうとした事を悔いていない。
(このまま放っておけば、また同じ事をするだろうな)
レリアはそう直感した。そうなれば今度も止められるとは限らない。むしろ、そう何度も上手くはいかないだろう。……仮にまた止めれたとして、彼女が死を望む限り、何度でも同じ事を繰り返すだけだ。
根本的な解決が必要だった。つまりそれは、フレイツィヒ・ゾンネという少女が前を向いて生きられるようにするという事だ。
(こういうのは得意ではないのだが……)
「君が死のうと、君が守りたかった誰かが還って来る訳じゃない……なんて話はしても意味がないか」
「そんな事はあたしだって分かってるよ」
つっけんどんにフレイがそう返すと、レリアは困ってしまう。
「そうだな……ふむ」
少し考えた後、レリアはフレイに問いかけた。
「どうして、当時アネモネは自身に起きていた事を君に相談しなかったのだろうね」
「どうしてって……きっと、あたしの事を頼りなく感じたんじゃないかな」
「頼りない?」
「ああ。最初に会った時から、周囲から酷い扱いを受けてるのは知ってたんだ。それでもあたしは、それをはっきりと止められなくて……」
フレイはそう答えた。
「成程、君はそう考えている訳か。……一つ聞くが、君はアネモネから、それについて相談……あるいは愚痴の一つも聞いていなかったのか?」
「ああ……母さんが死んでから、アネモネはずっとあたしの側に居てくれた。でも、そっちについては何にも言わなかったし、素振りすら見せなかった……情けないよな。どんだけ頼りなかったんだろ、あたし」
ははは、とフレイは力無く笑った。
どうにもそれが痛々しくて、見ていられなくて……そしてレリアは、それが真実だとは思えなかった。
「もし、そうじゃないとしたら?」
「……はぁ?」
「なあ、フレイ。もし君が、その時アネモネから相談を受けていたらどうだった?」
レリアの問いに、フレイは少し考えた後、力無く答えた。
「そりゃ、あいつを助けてやろうと頑張っただろうけど……その時のあたしの状況じゃ、何の力にもなれなかっただろうな」
「……言い方を変えようか。君自身はどうなったと思う?」
「あたし自身?」
そう言われてフレイは少し考え込む。彼女が自身で答えを出す前に、レリアは話し出した。
「もしそうなれば、きっと君は更に追い詰められたと思うよ」
「……そうかもしれねえけどさ」
だからなんだよ、と言わんばかりのフレイ。レリアはただただ話し続ける。
「ところで君は、親友のアネモネを守りたいと思っていたんだったね」
「今更なんだよ。そうだよ、あたしはあいつを守ってやりたかったんだ。だけど、守れなくて……」
「では、アネモネの方はどうだろう?」
「……え?」
場を静寂が支配する。フレイはそこで黙り込んだ。
「何故、アネモネが君に自身の悩みを打ち明けなかったのか……単純な話だ。君が大切な親友だからこそだよ」
「それは……」
レリアが何を言おうとしているのかが分かったのか、フレイは顔色を変える。何を言っても死ぬ決意が変わらなかったであろう彼女に響いたのは、今は亡き親友のことだった。
「彼女は、どれだけ自分が追い詰められていようと君の相談に乗って、励ました」
「ボロボロな君に負担をかけまいと、どれだけ追い詰められようと、アネモネは悩みを1人で抱え続けたんだ……そして彼女は、最期まで抱え続けた」
ぽろぽろと、フレイの瞳から涙が零れ落ちる。その瞳の奥には、今は亡き親友が映っていた。
「アネモネも君を守りたかったんだよ、フレイ」
「そんな……」
「そして彼女はやり遂げた。君を守り抜いて見せたんだ」
地平線に太陽が沈んでいく。
「フレイ。君は彼女の努力を無駄にすべきじゃない。君は……生きるべきだ」
今際の際に、眩い光を残して……
──夕日は沈んだ。
フレイが自殺しようとしてから数時間。しばらく茫然としていたフレイも、段々と落ち着いてきた。
「……少しは落ち着いたか?」
「うん……あんたを巻き込んで、ごめん」
弱々しい声で、フレイはそう言った。申し訳なく思っているのか、気まずそうにしている。
だが、レリアには彼女の言葉が引っかかった。
「あくまで、『私を巻き込んだ』事を謝るのか。君は、あの行為自体を後悔していないのか?」
「……」
「そんなに自分が許せないか、君は」
返事は返ってこない。だが、その沈黙が全てを物語っていた。いまだ彼女は自ら死を選ぼうとした事を悔いていない。
(このまま放っておけば、また同じ事をするだろうな)
レリアはそう直感した。そうなれば今度も止められるとは限らない。むしろ、そう何度も上手くはいかないだろう。……仮にまた止めれたとして、彼女が死を望む限り、何度でも同じ事を繰り返すだけだ。
根本的な解決が必要だった。つまりそれは、フレイツィヒ・ゾンネという少女が前を向いて生きられるようにするという事だ。
(こういうのは得意ではないのだが……)
「君が死のうと、君が守りたかった誰かが還って来る訳じゃない……なんて話はしても意味がないか」
「そんな事はあたしだって分かってるよ」
つっけんどんにフレイがそう返すと、レリアは困ってしまう。
「そうだな……ふむ」
少し考えた後、レリアはフレイに問いかけた。
「どうして、当時アネモネは自身に起きていた事を君に相談しなかったのだろうね」
「どうしてって……きっと、あたしの事を頼りなく感じたんじゃないかな」
「頼りない?」
「ああ。最初に会った時から、周囲から酷い扱いを受けてるのは知ってたんだ。それでもあたしは、それをはっきりと止められなくて……」
フレイはそう答えた。
「成程、君はそう考えている訳か。……一つ聞くが、君はアネモネから、それについて相談……あるいは愚痴の一つも聞いていなかったのか?」
「ああ……母さんが死んでから、アネモネはずっとあたしの側に居てくれた。でも、そっちについては何にも言わなかったし、素振りすら見せなかった……情けないよな。どんだけ頼りなかったんだろ、あたし」
ははは、とフレイは力無く笑った。
どうにもそれが痛々しくて、見ていられなくて……そしてレリアは、それが真実だとは思えなかった。
「もし、そうじゃないとしたら?」
「……はぁ?」
「なあ、フレイ。もし君が、その時アネモネから相談を受けていたらどうだった?」
レリアの問いに、フレイは少し考えた後、力無く答えた。
「そりゃ、あいつを助けてやろうと頑張っただろうけど……その時のあたしの状況じゃ、何の力にもなれなかっただろうな」
「……言い方を変えようか。君自身はどうなったと思う?」
「あたし自身?」
そう言われてフレイは少し考え込む。彼女が自身で答えを出す前に、レリアは話し出した。
「もしそうなれば、きっと君は更に追い詰められたと思うよ」
「……そうかもしれねえけどさ」
だからなんだよ、と言わんばかりのフレイ。レリアはただただ話し続ける。
「ところで君は、親友のアネモネを守りたいと思っていたんだったね」
「今更なんだよ。そうだよ、あたしはあいつを守ってやりたかったんだ。だけど、守れなくて……」
「では、アネモネの方はどうだろう?」
「……え?」
場を静寂が支配する。フレイはそこで黙り込んだ。
「何故、アネモネが君に自身の悩みを打ち明けなかったのか……単純な話だ。君が大切な親友だからこそだよ」
「それは……」
レリアが何を言おうとしているのかが分かったのか、フレイは顔色を変える。何を言っても死ぬ決意が変わらなかったであろう彼女に響いたのは、今は亡き親友のことだった。
「彼女は、どれだけ自分が追い詰められていようと君の相談に乗って、励ました」
「ボロボロな君に負担をかけまいと、どれだけ追い詰められようと、アネモネは悩みを1人で抱え続けたんだ……そして彼女は、最期まで抱え続けた」
ぽろぽろと、フレイの瞳から涙が零れ落ちる。その瞳の奥には、今は亡き親友が映っていた。
「アネモネも君を守りたかったんだよ、フレイ」
「そんな……」
「そして彼女はやり遂げた。君を守り抜いて見せたんだ」
地平線に太陽が沈んでいく。
「フレイ。君は彼女の努力を無駄にすべきじゃない。君は……生きるべきだ」
今際の際に、眩い光を残して……
──夕日は沈んだ。
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