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22話
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泣き崩れるフレイを残して、レリアは病室を出た。
(彼女はもう大丈夫だろう)
レリアはそんな気がした。レリア自身も、先ほどよりはずっとマシな気分だった。
「……本来私がやるべき事なのだろうが、すまんね」
病室を出てすぐに、聞き覚えのある声を掛けられた。レリアはまた最悪な気分になった。
「……娘さんと話さなくて良いのですか? ファウルハイト団長」
「団長と呼ばなくてよろしい、敬語もいらんよ。間もなく団長でなくなるだろうからね」
そこに居たのは、ファウルハイト・ゾンネ。第六騎士団団長であった。
「直に団長でなくなる……ね」
彼の見立ては正しい。
──騎士団長の娘が自殺未遂。あまりに衝撃的なニュースだ。王都中……いや、国中の注目を集めるだろう。
ともなれば、その動機が探られるのは必然だ。アネモネに関わる一連の件は全てが衆目に晒される事となるだろう。
そうなれば、これまで彼の権力によって築かれてきた聖域などあっけなく消え去る。彼が率いる第六騎士団は知らないが、第五かレリアの属する第七に全てを暴かれ、彼は捕まるだろう。
だからこそ、レリアは問いかけた。
「……もう一度聞くぞ、娘と話さなくて良いのか?」
「構わん。今更何を話せと」
「そうか」
即答であった。
何を言っても無駄だろう。レリアはそう直感した。
ファウルハイトがまだ捕まっていない今のうちに聞いておきたいことがある。話題を変えることにした。
「権力者との繋がりを作って、何が狙いだったんだ?」
「唐突だな」
アネモネの件しかり、ファウルハイトが怪しい動きを見せたのは高位の貴族や大商人に関連した事件ばかりだ。忖度したと言ってしまえばそれまでだが、レリアはそれだけではない気がした。
ふっとファウルハイトは笑ってみせる。その仕草は、どことなく彼の娘を彷彿とさせた。
「良いから答えろ、何故だ?」
「やりたい事があった、それだけだ」
それ以上聞いても、ファウルハイトは黙りこくるだけだった。
──やりたい事。
清廉潔白だった騎士が捜査を歪め、汚い手を使って権力者とのコネを作ってでもしたい、何か。
本当にそんなものがあるとしたら、それは最早執念の域であった。
「……ん?」
下の階が騒がしい。誰か馬鹿騒ぎをしているのかと思ったが、妙に緊迫感がある声が聞こえてくる。段々と聞こえる様になってきて初めて、レリアは事態を把握した。
「襲撃だあああああ!」
「引くな、奴らを屋敷に入らせるなっ!」
「な、何でお前が、ぐわああああ!」
剣と剣がかち合う金属音混じりに、怒声や悲鳴が聞こえてくる。それは紛れもなく戦いであった。
「馬鹿な。何が起きている!?」
「もう私は捕まるというのに……連中、そこまでするか」
動揺するレリアとは対照的に、ファウルハイトはどこまでも冷静であった。
「何か知っているのか!? と、ともかく私は様子を見てくる!」
レリアは焦った様子でその場を離れていく。ファウルハイトとて、黙って見ている気は無かった。
「私が狙いだというなら、堂々と迎え撃ってやるとも」
そう独り言ちて階下に向かおうとしたファウルハイトは、背後から聞こえてきた声に止められた。
「……待てよ、親父」
「な、なんだこれは……!」
様子を見にきたレリアが目にしたのは、戦場そのものであった。押し寄せる大量の暴徒を相手に衛兵や騎士達は奮闘しているが、どうも混乱している様に見える。
その理由は明確だった。
「分かりませんね……なぜ貴方が連中に与するのです?」
「へへ、わりいな。我らが神がお望みなんだ。いくら友人のお前でも斬るしかねえんだわ」
見覚えのある2人の男がお互いに剣を向けている。それは、屋敷の門を警備していた騎士達であった。会話からして、チャラそうな騎士はあちら側なのだろう。
真面目そうな男の方は明らかに動揺している。つい先程まで仲間だと思っていたのだ。剣を向けるのも躊躇うのだろう。
(まずいな。オルレア、フリージア……無事であってくれ)
彼だけではない。何人もの騎士や衛兵が暴徒達に加勢している。
「あは、あはははははっ! 死ねえああええ!」
飛びかかってきた少女をかわして、そのまま地面に叩きつける。そのまま斬っても良かったが、レリアはそれを躊躇った。
(ただの民間人にしか見えないな……どういう事だ?)
たった今、レリアを襲おうとした少女を眺める。動きは完全に素人のそれだった。服装はどうだろうか。
木綿で作られた上着、荒い作りのスカート、可愛いピンク色の靴。……どこからどう見ても普通だ。
妙に小汚く、そして痩せ細っているが、完全に民間人であった。そしてそれは、老若男女問わず他の暴徒達もである。
完全に狂ってしまった民間人が襲い来る中、味方から多くの裏切り者まで。今は騎士と民間人の実力差から何とかなっているが、こちらが一度崩れ出せばもう止まらないだろう。
そんな中、レリアは聞き慣れた声を耳にした。
「たいちょー、何ボーっとしてるんスか!?」
「ご無事で良かったです、隊長!」
(彼女はもう大丈夫だろう)
レリアはそんな気がした。レリア自身も、先ほどよりはずっとマシな気分だった。
「……本来私がやるべき事なのだろうが、すまんね」
病室を出てすぐに、聞き覚えのある声を掛けられた。レリアはまた最悪な気分になった。
「……娘さんと話さなくて良いのですか? ファウルハイト団長」
「団長と呼ばなくてよろしい、敬語もいらんよ。間もなく団長でなくなるだろうからね」
そこに居たのは、ファウルハイト・ゾンネ。第六騎士団団長であった。
「直に団長でなくなる……ね」
彼の見立ては正しい。
──騎士団長の娘が自殺未遂。あまりに衝撃的なニュースだ。王都中……いや、国中の注目を集めるだろう。
ともなれば、その動機が探られるのは必然だ。アネモネに関わる一連の件は全てが衆目に晒される事となるだろう。
そうなれば、これまで彼の権力によって築かれてきた聖域などあっけなく消え去る。彼が率いる第六騎士団は知らないが、第五かレリアの属する第七に全てを暴かれ、彼は捕まるだろう。
だからこそ、レリアは問いかけた。
「……もう一度聞くぞ、娘と話さなくて良いのか?」
「構わん。今更何を話せと」
「そうか」
即答であった。
何を言っても無駄だろう。レリアはそう直感した。
ファウルハイトがまだ捕まっていない今のうちに聞いておきたいことがある。話題を変えることにした。
「権力者との繋がりを作って、何が狙いだったんだ?」
「唐突だな」
アネモネの件しかり、ファウルハイトが怪しい動きを見せたのは高位の貴族や大商人に関連した事件ばかりだ。忖度したと言ってしまえばそれまでだが、レリアはそれだけではない気がした。
ふっとファウルハイトは笑ってみせる。その仕草は、どことなく彼の娘を彷彿とさせた。
「良いから答えろ、何故だ?」
「やりたい事があった、それだけだ」
それ以上聞いても、ファウルハイトは黙りこくるだけだった。
──やりたい事。
清廉潔白だった騎士が捜査を歪め、汚い手を使って権力者とのコネを作ってでもしたい、何か。
本当にそんなものがあるとしたら、それは最早執念の域であった。
「……ん?」
下の階が騒がしい。誰か馬鹿騒ぎをしているのかと思ったが、妙に緊迫感がある声が聞こえてくる。段々と聞こえる様になってきて初めて、レリアは事態を把握した。
「襲撃だあああああ!」
「引くな、奴らを屋敷に入らせるなっ!」
「な、何でお前が、ぐわああああ!」
剣と剣がかち合う金属音混じりに、怒声や悲鳴が聞こえてくる。それは紛れもなく戦いであった。
「馬鹿な。何が起きている!?」
「もう私は捕まるというのに……連中、そこまでするか」
動揺するレリアとは対照的に、ファウルハイトはどこまでも冷静であった。
「何か知っているのか!? と、ともかく私は様子を見てくる!」
レリアは焦った様子でその場を離れていく。ファウルハイトとて、黙って見ている気は無かった。
「私が狙いだというなら、堂々と迎え撃ってやるとも」
そう独り言ちて階下に向かおうとしたファウルハイトは、背後から聞こえてきた声に止められた。
「……待てよ、親父」
「な、なんだこれは……!」
様子を見にきたレリアが目にしたのは、戦場そのものであった。押し寄せる大量の暴徒を相手に衛兵や騎士達は奮闘しているが、どうも混乱している様に見える。
その理由は明確だった。
「分かりませんね……なぜ貴方が連中に与するのです?」
「へへ、わりいな。我らが神がお望みなんだ。いくら友人のお前でも斬るしかねえんだわ」
見覚えのある2人の男がお互いに剣を向けている。それは、屋敷の門を警備していた騎士達であった。会話からして、チャラそうな騎士はあちら側なのだろう。
真面目そうな男の方は明らかに動揺している。つい先程まで仲間だと思っていたのだ。剣を向けるのも躊躇うのだろう。
(まずいな。オルレア、フリージア……無事であってくれ)
彼だけではない。何人もの騎士や衛兵が暴徒達に加勢している。
「あは、あはははははっ! 死ねえああええ!」
飛びかかってきた少女をかわして、そのまま地面に叩きつける。そのまま斬っても良かったが、レリアはそれを躊躇った。
(ただの民間人にしか見えないな……どういう事だ?)
たった今、レリアを襲おうとした少女を眺める。動きは完全に素人のそれだった。服装はどうだろうか。
木綿で作られた上着、荒い作りのスカート、可愛いピンク色の靴。……どこからどう見ても普通だ。
妙に小汚く、そして痩せ細っているが、完全に民間人であった。そしてそれは、老若男女問わず他の暴徒達もである。
完全に狂ってしまった民間人が襲い来る中、味方から多くの裏切り者まで。今は騎士と民間人の実力差から何とかなっているが、こちらが一度崩れ出せばもう止まらないだろう。
そんな中、レリアは聞き慣れた声を耳にした。
「たいちょー、何ボーっとしてるんスか!?」
「ご無事で良かったです、隊長!」
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