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26話
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2度目の訪問となる屋敷は、やけに静かだった。捜査中の騎士や衛兵が詰め掛けていた時とは一転して、屋敷の中はがらんとしていた。
テーブルの上に彩られた焼き菓子や華やかなティーカップが、なんだか空回りしているように映る。
「……静かだな」
「まあ、親父が逮捕されたからな。捜査が終わって騎士は居なくなったし、うちの使用人も辞める奴ばっかなんだ」
しーんとした屋敷に、話し声が響き渡る。捜査中は騒がしく感じたあの喧騒が、なんだか懐かしくなった。
寂しくないのか、そんな言葉が口に出そうになる。
(……寂しいに決まっているよな)
言葉に困って、何となく紅茶に手をつける。特徴的な薔薇の香りと、微かな甘さ。一口飲んだだけで高級品と分かる代物だった。
互いに沈黙するレリアとフレイに釣られてか、オルレアもフリージアも言葉を発さない。
何となく、気まずい。そんな現状を打破しようと、フレイが口を開いた。
「あたしさ」
途端に他3人の目線が、一斉にそちらに向く。……いや、フリージアだけはマドレーヌに夢中だった。
レリアとオルレアがフレイを見つめる。それでもフレイは、その一言を口にした。
「あたしさ、騎士になろうと思うんだ」
その言葉に、オルレアが飛びついた。
「騎士、良いじゃないですか! フレイさんの実力なら、優秀な騎士になれますよ!」
「そっか、ありがとな」
フリージアも、マカロンを頬張りながらもグッとサムズアップする。
「いいほおほふっふ。ふへいっひならやへるってひんじてるっふよ」
「ありがとな。……何言ってんのか分かんねーけど」
そして最後に、フレイはレリアに目を向けた。
「なあ、レリア。あんたはどう思う?」
「……騎士、か」
レリアは少し逡巡した後、断言した。
「やめた方が良い」
女性にしては低いアルトボイスが、部屋に響いた。
静寂。ざく、ざくとフリージアがクッキーを噛み砕く音だけが微かに聞こえた。
「……何も、私だって意地悪で言っている訳じゃないさ」
レリアがそう、ぽつりと呟く。
「君の実力は本物だ。頭も切れる。何よりも、強い正義感がある。これ以上なく、君は騎士に向いていると思う」
「だったら、何で……!」
「君の父、ファウルハイトの件だよ」
その言葉を聞いた瞬間、オルレアもフリージアも苦い顔をする。2人はレリアが何を言おうとしているのかを察したらしかった。
「ファウルハイトは捜査での不正……権力者に便宜を図ったとして逮捕された。今や全ての騎士がその事を知っている」
「まあ、そうだよな」
「その娘が、騎士になる……間違いなく、歓迎はされないだろう。今の君にとって、騎士団は針のむしろだぞ」
「それは……」
思い当たる部分があるのか、フレイは口をつぐむ。
「君がどんな人物かは関係ないんだ。『捜査で不正をした騎士の娘』そういう目で君は見られ続ける……騎士である限り、ずっとだ」
「隊長、何も騎士全員がそういう訳では……」
「もちろん。だが、大半の騎士はそういう目で見るだろうよ」
反論しようとしたオルレアも、うーと少し唸った後に、黙りこくってしまう。
「でも、しょうがなくないっスか?」
そのタイミングで割り込んできたのは、フリージアだった。クッキーを食べ終わった彼女は、ようやく目線を上げる。
「……しょうがない?」
「そうっス。それでもフレイっちは騎士になりたいんスよ。そこはフレイっちも、変えられないんじゃないっスか?」
「……ああ。あたしは、騎士になりたい」
そう力強く、言い切った。
そこで初めて、フリージアはフレイの方に顔を向けた。
「たいちょーとおんなじっスね」
「え……?」
「私とフレイが、か?」
困惑する2人に、フリージアは話し続ける。
「たいちょーだって、興味が湧いた事件になんでもかんでも首を突っ込むのやめた方が良いっスよ。出世が遠のくっス」
「うぐっ!?」
「そのせいで直属の部下のオルレアや自分も出世が遠のくっス」
「うぐぐ!?」
思わぬ流れ弾にレリアは動揺する。だが、彼女はすぐに言い返した。
「2人には迷惑をかけているだろう、本当に申し訳ない。だがそれは、私とて譲れない部分なわけで……」
「知ってるっス。たいちょーにはたいちょーなりの正義があって、譲れない部分なんスよね」
「……ああ」
「フレイっちが騎士になりたいってのも、多分おんなじっスよ」
そう言われて、レリアは考え込む。ダメ押しとばかりに、フリージアは言った。
「たいちょーのその悪癖が何言っても治らないのとおんなじっス。フレイっちも、何言ったって騎士になるっスよ」
「ひ、酷い言い草だな。……だが、言いたい事は伝わったよ」
レリアは、フレイにもう一度目線を向ける。そして遂に、その言葉を告げた。
「どうせ何を言っても騎士になるのなら……応援するよ。私も出来る限りは手伝おう」
「あんた……」
「どうせならうちに来い。そして私と一緒に、管轄外の事件に首を突っ込もう」
──レリアから差し出された手を、フレイはしっかりと握って。
「ありがとな……レリア隊長!」
「ふふ、気が早いな」
似た者同士な2人は、笑い合った。
「終わり良ければ、全て良しっスね~」
「貴女、またそれを食べるんですか……」
テーブルの上に彩られた焼き菓子や華やかなティーカップが、なんだか空回りしているように映る。
「……静かだな」
「まあ、親父が逮捕されたからな。捜査が終わって騎士は居なくなったし、うちの使用人も辞める奴ばっかなんだ」
しーんとした屋敷に、話し声が響き渡る。捜査中は騒がしく感じたあの喧騒が、なんだか懐かしくなった。
寂しくないのか、そんな言葉が口に出そうになる。
(……寂しいに決まっているよな)
言葉に困って、何となく紅茶に手をつける。特徴的な薔薇の香りと、微かな甘さ。一口飲んだだけで高級品と分かる代物だった。
互いに沈黙するレリアとフレイに釣られてか、オルレアもフリージアも言葉を発さない。
何となく、気まずい。そんな現状を打破しようと、フレイが口を開いた。
「あたしさ」
途端に他3人の目線が、一斉にそちらに向く。……いや、フリージアだけはマドレーヌに夢中だった。
レリアとオルレアがフレイを見つめる。それでもフレイは、その一言を口にした。
「あたしさ、騎士になろうと思うんだ」
その言葉に、オルレアが飛びついた。
「騎士、良いじゃないですか! フレイさんの実力なら、優秀な騎士になれますよ!」
「そっか、ありがとな」
フリージアも、マカロンを頬張りながらもグッとサムズアップする。
「いいほおほふっふ。ふへいっひならやへるってひんじてるっふよ」
「ありがとな。……何言ってんのか分かんねーけど」
そして最後に、フレイはレリアに目を向けた。
「なあ、レリア。あんたはどう思う?」
「……騎士、か」
レリアは少し逡巡した後、断言した。
「やめた方が良い」
女性にしては低いアルトボイスが、部屋に響いた。
静寂。ざく、ざくとフリージアがクッキーを噛み砕く音だけが微かに聞こえた。
「……何も、私だって意地悪で言っている訳じゃないさ」
レリアがそう、ぽつりと呟く。
「君の実力は本物だ。頭も切れる。何よりも、強い正義感がある。これ以上なく、君は騎士に向いていると思う」
「だったら、何で……!」
「君の父、ファウルハイトの件だよ」
その言葉を聞いた瞬間、オルレアもフリージアも苦い顔をする。2人はレリアが何を言おうとしているのかを察したらしかった。
「ファウルハイトは捜査での不正……権力者に便宜を図ったとして逮捕された。今や全ての騎士がその事を知っている」
「まあ、そうだよな」
「その娘が、騎士になる……間違いなく、歓迎はされないだろう。今の君にとって、騎士団は針のむしろだぞ」
「それは……」
思い当たる部分があるのか、フレイは口をつぐむ。
「君がどんな人物かは関係ないんだ。『捜査で不正をした騎士の娘』そういう目で君は見られ続ける……騎士である限り、ずっとだ」
「隊長、何も騎士全員がそういう訳では……」
「もちろん。だが、大半の騎士はそういう目で見るだろうよ」
反論しようとしたオルレアも、うーと少し唸った後に、黙りこくってしまう。
「でも、しょうがなくないっスか?」
そのタイミングで割り込んできたのは、フリージアだった。クッキーを食べ終わった彼女は、ようやく目線を上げる。
「……しょうがない?」
「そうっス。それでもフレイっちは騎士になりたいんスよ。そこはフレイっちも、変えられないんじゃないっスか?」
「……ああ。あたしは、騎士になりたい」
そう力強く、言い切った。
そこで初めて、フリージアはフレイの方に顔を向けた。
「たいちょーとおんなじっスね」
「え……?」
「私とフレイが、か?」
困惑する2人に、フリージアは話し続ける。
「たいちょーだって、興味が湧いた事件になんでもかんでも首を突っ込むのやめた方が良いっスよ。出世が遠のくっス」
「うぐっ!?」
「そのせいで直属の部下のオルレアや自分も出世が遠のくっス」
「うぐぐ!?」
思わぬ流れ弾にレリアは動揺する。だが、彼女はすぐに言い返した。
「2人には迷惑をかけているだろう、本当に申し訳ない。だがそれは、私とて譲れない部分なわけで……」
「知ってるっス。たいちょーにはたいちょーなりの正義があって、譲れない部分なんスよね」
「……ああ」
「フレイっちが騎士になりたいってのも、多分おんなじっスよ」
そう言われて、レリアは考え込む。ダメ押しとばかりに、フリージアは言った。
「たいちょーのその悪癖が何言っても治らないのとおんなじっス。フレイっちも、何言ったって騎士になるっスよ」
「ひ、酷い言い草だな。……だが、言いたい事は伝わったよ」
レリアは、フレイにもう一度目線を向ける。そして遂に、その言葉を告げた。
「どうせ何を言っても騎士になるのなら……応援するよ。私も出来る限りは手伝おう」
「あんた……」
「どうせならうちに来い。そして私と一緒に、管轄外の事件に首を突っ込もう」
──レリアから差し出された手を、フレイはしっかりと握って。
「ありがとな……レリア隊長!」
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