27 / 33
27話
しおりを挟む
帝都シリウス。二大国たるケイナス帝国の首都であるこの都市は、調和のとれた街並みが特徴だ。
赤レンガ造りの建物が、ずらりと建ち並ぶ光景は圧巻の一言である。そんな帝都の中に、石造りの一際目立つ建造物があった。レリア達が所属する、帝国第六騎士団の本部である。
その騎士団本部の廊下を、レリアは1人寂しく歩いていた。
「うう……さむ……仕事する私を差し置いて、スイーツ食べ放題とは。2人とも薄情な奴らだ……」
そう。騎士団本部に用があったのはレリアだけ。別にレリアの部下であるオルレアとフリージアは、本部にまで来る必要は無いのだ。
そういう訳で2人は、スイーツバイキングをしているらしいホテルに行ってしまった。何でも、そのスイーツバイキングは今日までの期間限定らしい。
(やけにそわそわしていたのも、その為か。はぁ……」
思わず溜息が出る。用事が終わったら来れば良いと2人は能天気に言っていたが、レリアはちっともそんな気分にはなれなかった。
「ああ、寒い……はぁ……」
窓から外を見れば、パラパラと雪が降っている。真っ白な雪と赤いレンガのコントラストは悪くなかったが、レリアからすれば寒いから雪は勘弁であった。
断熱性もへったくれもない石造りの廊下は、外と変わらないのではないかというくらい寒い。もはや気分は最悪だ。
それでも帰るわけにはいかないので、レリアは無心で廊下を歩く。しばらく歩くと、目の前にやたらと立派な扉が現れた。
「ああ、もう。私だ、失礼する」
少し乱暴に扉を開けると、ふわりと暖かい風がレリアを包んだ。
「この風は……助かるよ、ベリル」
「久しぶり、ここの廊下は寒かったでしょ。ボクの風魔法であっためてあげる」
そう言うと部屋の主、ベリル・スマラクトはニコリと微笑んだ。
第六騎士団団長、ベリル・スマラクト。剣技、魔法共に帝国内でトップクラスであり、その実力は帝国三勇者に並ぶとすら噂される。騎士団内でもそれなりの影響力を持っており、そしてそれを存分に行使する人物でもある。
強すぎる正義感によって上層部から睨まれていたレリアを隊長の地位にまで引き上げたのは、親友である彼女の尽力によるところが大きかった。
「それで要件は何だ? 君が私を呼ぶからには、何かあるのだろう?」
「まあまあ、今日くらいはゆっくりしていきなよ。せっかくだしケーキでも出そうか?」
「ケーキ……? 別にいつも通りクッキーで良いだろう?」
首を傾げるレリアを見て、ベリルは苦笑した。
「ああ、そう……キミってホントに仕事人間なんだね」
「ん? まあ、そうかもしれないな」
レリアが平然とそう返す。ベリルはあはは、と声をあげて笑った。
「何で満更でもなさそうにしてるんだよ? ボクは皮肉のつもりで言ったんだけど……んふふ」
ひとしきり笑って満足したのか、ベリルはいつもの表情に戻った。そして彼女は、今回レリアを呼び出した理由であろう本題に入る。
「例のファウルハイト元団長とその娘さんの騒動について、色々話したいことがあってさ」
「その件か。それについては君に礼を言わねばな」
「礼? ボク、キミに何かしたっけ?」
白々しくそう話すベリルに、レリアは首にかけたペンダントを見せる。
レリアがフレイと転落した時、ベリルから貰ったエメラルドのペンダントが光ったのだ。そしてレリアは柔らかな風に包まれながら、無傷で降りることが出来たのである。それが誰のおかげかなんて考えるまでもなかった。
「君がこれをくれなければ、私は死んでいただろう。フレイを助ける事も叶わなかったはずだ。……全て君のおかげだ。ありがとう、ベリル」
そう言うと、レリアは真っ直ぐベリルを見つめる。ベリルはいつもの何を考えているか分からない微笑みで見つめ返したが、その耳は真っ赤に染まっていた。そう長い時間が経たないうちに、ベリルは声にならない声をあげた。
「~~っ! そ、そんなことより本題に入るね。かつてファウルハイトの妻のトリトニアさんが襲われて殺された事件なんだけど、興味深いことが分かったんだ」
「……まず、フレイの母が襲われて殺されたのが初耳なのだが。事件でどうこうとは聞いていたが、まさか殺されていたとは」
レリアは、よりフレイのことが痛ましく思えた。守れなかったという彼女の悲痛な叫びも、より重みを増したように感じられたのだ。
「その時の状況が不思議でね。屋敷の敷地内、建物からすぐ出たところで殺されたんだけど……いくら何でも、屋敷の出入口にまで不審者が来ていたのはおかしいと思わない?」
「まあ、緩い警備だとは感じるな。それが何か?」
「当時門の警備を担当していた衛兵たち……今回の騒動で全員暴徒側に与しているんだよね」
「……何だって?」
そうなると、一気に話が怪しくなってくる。警備のミスによって防げなかった殺人事件ではなく、あえて引き起こされたものの可能性も出てきた。
「その事件の一部始終を、フレイは間近で見た目撃者でもあるんだ。そんな彼女曰く、その時の犯人は今回ファウルハイトを襲った犯人と似た特徴があったそうだよ? 濁った目、痩せ細りすぎた体、狂気的な様子……」
思い返してみれば、アネモネの父や暴徒達は確かにそんな様子だった。
「それは、今回の暴徒達にも共通して見られた特徴だな……何のせいだったんだ?」
「どうやらそれが、薬物らしいんだよね。王立魔導研究所が、全員から同じ薬物の成分が検出されたと言ってる」
「薬物……」
だとすれば、その薬物を流通させた者が今回の件の黒幕だと言えた。フレイという少女の人生を狂わせた、その黒幕が。
「どうも、魔道教団が取り扱ってるらしいんだけどさ」
遂に、その姿を現わにした。
赤レンガ造りの建物が、ずらりと建ち並ぶ光景は圧巻の一言である。そんな帝都の中に、石造りの一際目立つ建造物があった。レリア達が所属する、帝国第六騎士団の本部である。
その騎士団本部の廊下を、レリアは1人寂しく歩いていた。
「うう……さむ……仕事する私を差し置いて、スイーツ食べ放題とは。2人とも薄情な奴らだ……」
そう。騎士団本部に用があったのはレリアだけ。別にレリアの部下であるオルレアとフリージアは、本部にまで来る必要は無いのだ。
そういう訳で2人は、スイーツバイキングをしているらしいホテルに行ってしまった。何でも、そのスイーツバイキングは今日までの期間限定らしい。
(やけにそわそわしていたのも、その為か。はぁ……」
思わず溜息が出る。用事が終わったら来れば良いと2人は能天気に言っていたが、レリアはちっともそんな気分にはなれなかった。
「ああ、寒い……はぁ……」
窓から外を見れば、パラパラと雪が降っている。真っ白な雪と赤いレンガのコントラストは悪くなかったが、レリアからすれば寒いから雪は勘弁であった。
断熱性もへったくれもない石造りの廊下は、外と変わらないのではないかというくらい寒い。もはや気分は最悪だ。
それでも帰るわけにはいかないので、レリアは無心で廊下を歩く。しばらく歩くと、目の前にやたらと立派な扉が現れた。
「ああ、もう。私だ、失礼する」
少し乱暴に扉を開けると、ふわりと暖かい風がレリアを包んだ。
「この風は……助かるよ、ベリル」
「久しぶり、ここの廊下は寒かったでしょ。ボクの風魔法であっためてあげる」
そう言うと部屋の主、ベリル・スマラクトはニコリと微笑んだ。
第六騎士団団長、ベリル・スマラクト。剣技、魔法共に帝国内でトップクラスであり、その実力は帝国三勇者に並ぶとすら噂される。騎士団内でもそれなりの影響力を持っており、そしてそれを存分に行使する人物でもある。
強すぎる正義感によって上層部から睨まれていたレリアを隊長の地位にまで引き上げたのは、親友である彼女の尽力によるところが大きかった。
「それで要件は何だ? 君が私を呼ぶからには、何かあるのだろう?」
「まあまあ、今日くらいはゆっくりしていきなよ。せっかくだしケーキでも出そうか?」
「ケーキ……? 別にいつも通りクッキーで良いだろう?」
首を傾げるレリアを見て、ベリルは苦笑した。
「ああ、そう……キミってホントに仕事人間なんだね」
「ん? まあ、そうかもしれないな」
レリアが平然とそう返す。ベリルはあはは、と声をあげて笑った。
「何で満更でもなさそうにしてるんだよ? ボクは皮肉のつもりで言ったんだけど……んふふ」
ひとしきり笑って満足したのか、ベリルはいつもの表情に戻った。そして彼女は、今回レリアを呼び出した理由であろう本題に入る。
「例のファウルハイト元団長とその娘さんの騒動について、色々話したいことがあってさ」
「その件か。それについては君に礼を言わねばな」
「礼? ボク、キミに何かしたっけ?」
白々しくそう話すベリルに、レリアは首にかけたペンダントを見せる。
レリアがフレイと転落した時、ベリルから貰ったエメラルドのペンダントが光ったのだ。そしてレリアは柔らかな風に包まれながら、無傷で降りることが出来たのである。それが誰のおかげかなんて考えるまでもなかった。
「君がこれをくれなければ、私は死んでいただろう。フレイを助ける事も叶わなかったはずだ。……全て君のおかげだ。ありがとう、ベリル」
そう言うと、レリアは真っ直ぐベリルを見つめる。ベリルはいつもの何を考えているか分からない微笑みで見つめ返したが、その耳は真っ赤に染まっていた。そう長い時間が経たないうちに、ベリルは声にならない声をあげた。
「~~っ! そ、そんなことより本題に入るね。かつてファウルハイトの妻のトリトニアさんが襲われて殺された事件なんだけど、興味深いことが分かったんだ」
「……まず、フレイの母が襲われて殺されたのが初耳なのだが。事件でどうこうとは聞いていたが、まさか殺されていたとは」
レリアは、よりフレイのことが痛ましく思えた。守れなかったという彼女の悲痛な叫びも、より重みを増したように感じられたのだ。
「その時の状況が不思議でね。屋敷の敷地内、建物からすぐ出たところで殺されたんだけど……いくら何でも、屋敷の出入口にまで不審者が来ていたのはおかしいと思わない?」
「まあ、緩い警備だとは感じるな。それが何か?」
「当時門の警備を担当していた衛兵たち……今回の騒動で全員暴徒側に与しているんだよね」
「……何だって?」
そうなると、一気に話が怪しくなってくる。警備のミスによって防げなかった殺人事件ではなく、あえて引き起こされたものの可能性も出てきた。
「その事件の一部始終を、フレイは間近で見た目撃者でもあるんだ。そんな彼女曰く、その時の犯人は今回ファウルハイトを襲った犯人と似た特徴があったそうだよ? 濁った目、痩せ細りすぎた体、狂気的な様子……」
思い返してみれば、アネモネの父や暴徒達は確かにそんな様子だった。
「それは、今回の暴徒達にも共通して見られた特徴だな……何のせいだったんだ?」
「どうやらそれが、薬物らしいんだよね。王立魔導研究所が、全員から同じ薬物の成分が検出されたと言ってる」
「薬物……」
だとすれば、その薬物を流通させた者が今回の件の黒幕だと言えた。フレイという少女の人生を狂わせた、その黒幕が。
「どうも、魔道教団が取り扱ってるらしいんだけどさ」
遂に、その姿を現わにした。
0
あなたにおすすめの小説
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる