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28話
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「魔道教団……」
レリアもその名には聞き覚えがあった。騎士アベルが脅迫状の犯人だと予想していた集団だ。
「確か君も、連中が差し向けた刺客に襲われたという話だったな」
「刺客って程大層な奴らじゃなかったけどね。君たちを襲った暴徒達と同じように、戦いに関しては素人同然だったよ」
ベリルは少し笑ってみせたが、すぐに真面目な表情に戻った。
「でも、魔道教団はボクたちが思ってるよりも、ずぅっと厄介かもしれない」
「と、言うと?」
「今回騎士団や衛兵から暴徒に与した者達が居たけど……貴族にも教団の信者が多くいる可能性が高い」
「……それは確かに厄介だな」
帝国ははっきりとした階級社会だ。昔よりはマシになったとはいえ、依然として貴族の力は強い。低位貴族ならともかく、高位貴族の場合は騎士団の捜査に圧力をかけて止めることだって可能だろう。
「ファウルハイトは捜査で権力者に便宜を図ってたみたいだけど……貴族がバックについている教団に立ち向かうには、同じように貴族を味方にするしかないって考えたのかもね」
「だとすれば、今回ファウルハイトが殺されかけたのも、その後やけに早い動きで捕まったのも……」
「教団にとって邪魔な存在を消したかったんだろうね」
レリアは絶句した。ベリルの推測が正しければ、魔道教団は既に帝国内に途方もない影響力を持っていることになる。ファウルハイトの逮捕に動いた第五騎士団など、どれだけ教団の関係者が潜んでいるのだろうか。
「今回キミを呼んだのは、キミがこの件に協力してくれるか聞く為なんだ。こういう状況だからさ、この件は聞かなかった事にしてくれても良いよ」
「ベリル……」
「まあ、キミが加わらなくてもヘーキヘーキ。別にボク1人でもなんとかなっちゃうからね!」
そう言うと、ベリルは健気に笑ってみせた。確かにベリルは強い。純粋に戦うだけなら、教団とやりあったって何の問題もないだろう。
……だが、教団を相手にしてそれだけで済むとは思えなかった。きっと教団と対峙する事になれば、あちらは手段を選ばないだろう。貴族をも動かせるのであれば、場合によっては帝国自体を敵に回す事にもなりかねない。
それでもベリルがそんな風に言うのは、レリアのことを気遣っているからだった。捜査に加わらなくても気負うことはない。暗にそう言っているのだ。
「ベリル……君は、私を何だと思ってるんだ?」
だが、レリアの答えは決まっていた。
「君に命まで助けられておいて、君が危なくなったらおめおめと逃げ出す……私がそんな薄情な人間に思えるか?」
「レリア……」
「……親友だろう。私と君は」
レリアがそう言うと、ベリルは椅子から立ち上がり、近寄ってきた。
「レリア、ありがとっ!」
ぎゅっ、と思いっ切り抱きつく。そんなベリルの表情は、いつも通りの笑顔で。
「……やっぱり、その顔のほうが君らしいよ、ベリル」
レリアもそれに釣られて、笑ってみせるのだった。
その後。レリアはベリルに一緒に夕食をとらないかと誘われたのだが。
「ねえ、この後一緒にごはん行こうよ! 今日はボクが奢ってあげるっ!」
「いや、部下にスイーツバイキングとやらに呼ばれていてな。近場のホテルで開催されているらしいんだ」
そう答えると、ベリルは何かを察したように、にまにまと含みのある笑みを浮かべた。
「……へー。なら、ボクは後からそれについてくよ」
「後から? 別に一緒に来れば良いじゃないか?」
「主役の邪魔をする訳にはいかないからね。ふふ……」
そういうわけで、レリアは1人でスイーツバイキングが開催されているというホテルに来たのだった。
だが、スイーツバイキングが開催されているという割にはやけに人が少ない。それに、スイーツバイキング自体どこでやっているのかも分からなかった。
不思議に思いつつも、レリアは受付の男に話しかける。
「このホテルでスイーツバイキングが開催されていると聞いたのだが……」
「……ええと、ひょっとして貴方様がレリア・ローゼンベルグ様でしょうか」
「む、そうだが何か?」
レリアがそう答えると、男は一礼をした。
「お待ちしておりました。こちらにご用意させていただいております。どうぞこちらへ」
「……うん?」
どこかへと案内する男。レリアがそれについていくと……
「……この部屋、やけに暗くないか?」
「ではごゆっくり」
「い、いやいやいやちょっと待て! スイーツバイキングはどこでやってるんだ! おいっ!」
バタン、とドアが閉じられた。後に残されたのはレリア1人。
しょうがないので周囲を探ると、前方にうっすらと巨大な何かが見えた。暗いせいでよく見えないが、小さな山と言っても良いレベルで大きそうだ。
「……なんだ、あれは?」
レリアが巨大な何かに、恐る恐る近づくと……
パッ、一気に照明がつく。
そして目の前に、巨大なケーキが現れた。そのすぐ近くには、よく知っている2人の顔があって。
「隊長! お誕生日!」
「おめでとうございますっス~!!!」
「なっ……そ、そういえば、今日が誕生日だったか……」
すると部屋にぞろぞろと、レリアの部下であるローゼライ区の騎士達が入ってくる。それだけでなく、見知った顔のメンツもちらほらと……
「へへ、あたしあんなにでっかいケーキ初めて見るぜ! な、アベルもそう思うだろ!?」
「フレイ様、食べ過ぎは良くありませんよ?」
「ははは、固いこと言うなよローズさん。俺もテンション上がってきたなあ!」
先ほどまで静かだった一室は、あっという間に騒がしくなった。
「たいちょー、自分の誕生日も忘れちゃうなんてダメっすよー! はい、ケーキどうぞっス!」
「そうですよ隊長! 仕事と休暇ではしっかりメリハリをつけないと、いつか倒れてしまいます! あ、このマカロンも美味しいですよ!」
ぐいぐいとスイーツを食べさせようとしてくる2人に、レリアはたじたじだ。
「ま、待て2人とも……そんなに言われなくたってちゃんと食べるから……」
「はいっス!」
「どうぞ隊長!」
「むぐぅ!!! ……あ、どっちも美味しいな」
そんな様子のレリアを、ベリルは。
「……キミももう1人じゃないんだね、レリア」
どこか嬉しそうに、見つめていた。
レリアもその名には聞き覚えがあった。騎士アベルが脅迫状の犯人だと予想していた集団だ。
「確か君も、連中が差し向けた刺客に襲われたという話だったな」
「刺客って程大層な奴らじゃなかったけどね。君たちを襲った暴徒達と同じように、戦いに関しては素人同然だったよ」
ベリルは少し笑ってみせたが、すぐに真面目な表情に戻った。
「でも、魔道教団はボクたちが思ってるよりも、ずぅっと厄介かもしれない」
「と、言うと?」
「今回騎士団や衛兵から暴徒に与した者達が居たけど……貴族にも教団の信者が多くいる可能性が高い」
「……それは確かに厄介だな」
帝国ははっきりとした階級社会だ。昔よりはマシになったとはいえ、依然として貴族の力は強い。低位貴族ならともかく、高位貴族の場合は騎士団の捜査に圧力をかけて止めることだって可能だろう。
「ファウルハイトは捜査で権力者に便宜を図ってたみたいだけど……貴族がバックについている教団に立ち向かうには、同じように貴族を味方にするしかないって考えたのかもね」
「だとすれば、今回ファウルハイトが殺されかけたのも、その後やけに早い動きで捕まったのも……」
「教団にとって邪魔な存在を消したかったんだろうね」
レリアは絶句した。ベリルの推測が正しければ、魔道教団は既に帝国内に途方もない影響力を持っていることになる。ファウルハイトの逮捕に動いた第五騎士団など、どれだけ教団の関係者が潜んでいるのだろうか。
「今回キミを呼んだのは、キミがこの件に協力してくれるか聞く為なんだ。こういう状況だからさ、この件は聞かなかった事にしてくれても良いよ」
「ベリル……」
「まあ、キミが加わらなくてもヘーキヘーキ。別にボク1人でもなんとかなっちゃうからね!」
そう言うと、ベリルは健気に笑ってみせた。確かにベリルは強い。純粋に戦うだけなら、教団とやりあったって何の問題もないだろう。
……だが、教団を相手にしてそれだけで済むとは思えなかった。きっと教団と対峙する事になれば、あちらは手段を選ばないだろう。貴族をも動かせるのであれば、場合によっては帝国自体を敵に回す事にもなりかねない。
それでもベリルがそんな風に言うのは、レリアのことを気遣っているからだった。捜査に加わらなくても気負うことはない。暗にそう言っているのだ。
「ベリル……君は、私を何だと思ってるんだ?」
だが、レリアの答えは決まっていた。
「君に命まで助けられておいて、君が危なくなったらおめおめと逃げ出す……私がそんな薄情な人間に思えるか?」
「レリア……」
「……親友だろう。私と君は」
レリアがそう言うと、ベリルは椅子から立ち上がり、近寄ってきた。
「レリア、ありがとっ!」
ぎゅっ、と思いっ切り抱きつく。そんなベリルの表情は、いつも通りの笑顔で。
「……やっぱり、その顔のほうが君らしいよ、ベリル」
レリアもそれに釣られて、笑ってみせるのだった。
その後。レリアはベリルに一緒に夕食をとらないかと誘われたのだが。
「ねえ、この後一緒にごはん行こうよ! 今日はボクが奢ってあげるっ!」
「いや、部下にスイーツバイキングとやらに呼ばれていてな。近場のホテルで開催されているらしいんだ」
そう答えると、ベリルは何かを察したように、にまにまと含みのある笑みを浮かべた。
「……へー。なら、ボクは後からそれについてくよ」
「後から? 別に一緒に来れば良いじゃないか?」
「主役の邪魔をする訳にはいかないからね。ふふ……」
そういうわけで、レリアは1人でスイーツバイキングが開催されているというホテルに来たのだった。
だが、スイーツバイキングが開催されているという割にはやけに人が少ない。それに、スイーツバイキング自体どこでやっているのかも分からなかった。
不思議に思いつつも、レリアは受付の男に話しかける。
「このホテルでスイーツバイキングが開催されていると聞いたのだが……」
「……ええと、ひょっとして貴方様がレリア・ローゼンベルグ様でしょうか」
「む、そうだが何か?」
レリアがそう答えると、男は一礼をした。
「お待ちしておりました。こちらにご用意させていただいております。どうぞこちらへ」
「……うん?」
どこかへと案内する男。レリアがそれについていくと……
「……この部屋、やけに暗くないか?」
「ではごゆっくり」
「い、いやいやいやちょっと待て! スイーツバイキングはどこでやってるんだ! おいっ!」
バタン、とドアが閉じられた。後に残されたのはレリア1人。
しょうがないので周囲を探ると、前方にうっすらと巨大な何かが見えた。暗いせいでよく見えないが、小さな山と言っても良いレベルで大きそうだ。
「……なんだ、あれは?」
レリアが巨大な何かに、恐る恐る近づくと……
パッ、一気に照明がつく。
そして目の前に、巨大なケーキが現れた。そのすぐ近くには、よく知っている2人の顔があって。
「隊長! お誕生日!」
「おめでとうございますっス~!!!」
「なっ……そ、そういえば、今日が誕生日だったか……」
すると部屋にぞろぞろと、レリアの部下であるローゼライ区の騎士達が入ってくる。それだけでなく、見知った顔のメンツもちらほらと……
「へへ、あたしあんなにでっかいケーキ初めて見るぜ! な、アベルもそう思うだろ!?」
「フレイ様、食べ過ぎは良くありませんよ?」
「ははは、固いこと言うなよローズさん。俺もテンション上がってきたなあ!」
先ほどまで静かだった一室は、あっという間に騒がしくなった。
「たいちょー、自分の誕生日も忘れちゃうなんてダメっすよー! はい、ケーキどうぞっス!」
「そうですよ隊長! 仕事と休暇ではしっかりメリハリをつけないと、いつか倒れてしまいます! あ、このマカロンも美味しいですよ!」
ぐいぐいとスイーツを食べさせようとしてくる2人に、レリアはたじたじだ。
「ま、待て2人とも……そんなに言われなくたってちゃんと食べるから……」
「はいっス!」
「どうぞ隊長!」
「むぐぅ!!! ……あ、どっちも美味しいな」
そんな様子のレリアを、ベリルは。
「……キミももう1人じゃないんだね、レリア」
どこか嬉しそうに、見つめていた。
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