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29話
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ここ最近は寒い夜が続いている。特に今日は、体の芯まで凍えてしまうような、突き刺す寒さだ。
にもかかわらず、レリア達を含めた多くの人が劇場の前で列をなして並んでいた。
「ああああ寒いっスー!」
「フリージア、うるさいですよ」
寒さに耐えかねて奇声を出すフリージアを、オルレアが叱りつける。だがそのオルレアも、何枚も服を着込んでいるものの、ぶるぶると体を震わせていた。2人とも、今すぐにでも帰りたいのが本音らしい。
「……本当に寒いな。こんな状況でここまでの人間がよく集まったものだ」
そう呟くレリアからは、感心と呆れ、両方の感情が滲み出ていた。そんなレリアの呟きに、1人の少女が明るい声で口を挟む。
「皆そこまでしてこの劇を見たいって事だよ。帝国一の女優、アコナイト・ツォーンを」
ベリル・スマラクト。レリアの親友にして第六騎士団の団長でもある彼女の誘いが、レリア達がここにいる理由であった。
「……分からないな。大金を払ってわざわざこんな辛い思いをしてでも、1人の女性を見たがるとは」
「実際に見れば分かるよ。アコナイト・ツォーンの演技にはそれだけの価値がある」
「ふぅん……」
熱弁するベリルを、レリアは冷めた目線で見つめる。するとベリルは、不満気にぷくーっと頬を膨らませた。
「ちょっとちょっとー。あのアコナイト・ツォーンの演技を最前列で、目の前で鑑賞出来るんだよ! それも、ボクの伝手のおかげで。ちょっとくらい感謝してくれたって良いじゃん、もー!」
「そう言われてもな。それがどれだけありがたいのかが、劇に詳しくない私にはイマイチ……君達はどうだ?」
レリアが部下である2人に聞く。しかし2人も、レリアと同じようにどこか冷めた態度だった。
「そんなこと、たいちょーの付き合いで来た自分に言われても困るっスよー。そもそも観劇に使う金があったら美味しいゴハン食べるっス」
「申し訳ありません隊長。私も劇に関しては、あまり知識が……」
「……ふむ」
色好い返事のない2人を見て、レリアは考え込む。ベリルは少し、いやだいぶ嫌な予感がした。
(なーんか余計なこと言いだしそー……)
やはりと言うべきか、ベリルの嫌な予感は当たっていた。
「……そういう事ならここに来る必要は無かったな。流行りというからには2人も見たいのかと思っていたよ。せっかく遠出したんだ。何か食べて帰ろうか」
「ナイスアイディア、たいちょー! ちょうどここら辺にはうまーいシチューのお店があるっス! 寒いんだしあったかいの食うっスよ!」
「そうしましょうか。しかしフリージア、貴女のグルメ情報はどの地域も網羅してますね……」
あっさりと帰ろうとする3人。だが、それをベリルが慌てて止める。
「ちょっと待ったー! キ、キミ達ここまで並んでおいて帰る気!?」
「ああ。これ以上ここにいる理由がなくなったし」
「ひどいっ!」
躊躇なく帰ろうとするレリアに、ベリルはぎゅーっとしがみついた。振りほどこうにも、ベリルの圧倒的な身体能力を前にどうすることも出来ない。
公衆の面前での奇行に、レリアは恥ずかしそうに周囲を見る。やはり周囲は迷惑そうにレリア達を眺めていた。
「こ、こら。何をしているんだ君は。放してくれ」
「やだー、ボクはキミ達と劇を見るのっ! ぜったいぜったい離さないもん! 2人からもなんか言ってやってよっ!」
駄々をこねる子供のように振る舞うベリルを、オルレアとフリージアも冷めた目で見つめる。2人の目には、割と本気の軽蔑が込められていた。
「言うことがあるとしたら、団長の方にっスよ。新年早々劇を見よう劇を見ようって駄々をこねては、何回たいちょーに断られてました? ガキかなんかっスか?」
「いくらなんでも、こんな下らないことで団長の権限を振りかざすとは思いませんでした。隊長のご友人というからには、もっとまともな方なのかと……」
「うぅ、2人とも辛辣だぁ……ボクに味方はいないのかっ!」
そう。レリア達がわざわざ興味のない劇に来たのは、あまりにもベリルがしつこかったからである。レリアは何度も断ったのだがベリルは言うことを聞かず、しまいには団長命令だと言い出して居座る始末。
元々ベリルはわがままで自由人ではあったが、今回は特に酷い。レリアの中で急騰していたベリルの株は、あっという間に暴落した。
「『大人気の女優だから2人も劇を見たがるハズ!』って君の話も間違っていたじゃないか。本当にここに居る理由が見つからない……」
「いやいやいや、ホントに演技は凄いから! もーホントに凄いの! 心を揺さぶられるっていうか、真に迫る物があるっていうか……」
「ほお、それは凄い。では2人とも、帰ろうか」
「分かった、分かったから! じゃあ、貴重な経験をさせてあげるから!」
慌ててそう話すベリル。それでも訝しげな目を向ける3人に、ベリルはこう言った。
「帝国一の女優、アコナイト・ツォーンに直接会わせてあげるっ! ね、レリアも会ってみたいでしょ?」
「……なんだって?」
にもかかわらず、レリア達を含めた多くの人が劇場の前で列をなして並んでいた。
「ああああ寒いっスー!」
「フリージア、うるさいですよ」
寒さに耐えかねて奇声を出すフリージアを、オルレアが叱りつける。だがそのオルレアも、何枚も服を着込んでいるものの、ぶるぶると体を震わせていた。2人とも、今すぐにでも帰りたいのが本音らしい。
「……本当に寒いな。こんな状況でここまでの人間がよく集まったものだ」
そう呟くレリアからは、感心と呆れ、両方の感情が滲み出ていた。そんなレリアの呟きに、1人の少女が明るい声で口を挟む。
「皆そこまでしてこの劇を見たいって事だよ。帝国一の女優、アコナイト・ツォーンを」
ベリル・スマラクト。レリアの親友にして第六騎士団の団長でもある彼女の誘いが、レリア達がここにいる理由であった。
「……分からないな。大金を払ってわざわざこんな辛い思いをしてでも、1人の女性を見たがるとは」
「実際に見れば分かるよ。アコナイト・ツォーンの演技にはそれだけの価値がある」
「ふぅん……」
熱弁するベリルを、レリアは冷めた目線で見つめる。するとベリルは、不満気にぷくーっと頬を膨らませた。
「ちょっとちょっとー。あのアコナイト・ツォーンの演技を最前列で、目の前で鑑賞出来るんだよ! それも、ボクの伝手のおかげで。ちょっとくらい感謝してくれたって良いじゃん、もー!」
「そう言われてもな。それがどれだけありがたいのかが、劇に詳しくない私にはイマイチ……君達はどうだ?」
レリアが部下である2人に聞く。しかし2人も、レリアと同じようにどこか冷めた態度だった。
「そんなこと、たいちょーの付き合いで来た自分に言われても困るっスよー。そもそも観劇に使う金があったら美味しいゴハン食べるっス」
「申し訳ありません隊長。私も劇に関しては、あまり知識が……」
「……ふむ」
色好い返事のない2人を見て、レリアは考え込む。ベリルは少し、いやだいぶ嫌な予感がした。
(なーんか余計なこと言いだしそー……)
やはりと言うべきか、ベリルの嫌な予感は当たっていた。
「……そういう事ならここに来る必要は無かったな。流行りというからには2人も見たいのかと思っていたよ。せっかく遠出したんだ。何か食べて帰ろうか」
「ナイスアイディア、たいちょー! ちょうどここら辺にはうまーいシチューのお店があるっス! 寒いんだしあったかいの食うっスよ!」
「そうしましょうか。しかしフリージア、貴女のグルメ情報はどの地域も網羅してますね……」
あっさりと帰ろうとする3人。だが、それをベリルが慌てて止める。
「ちょっと待ったー! キ、キミ達ここまで並んでおいて帰る気!?」
「ああ。これ以上ここにいる理由がなくなったし」
「ひどいっ!」
躊躇なく帰ろうとするレリアに、ベリルはぎゅーっとしがみついた。振りほどこうにも、ベリルの圧倒的な身体能力を前にどうすることも出来ない。
公衆の面前での奇行に、レリアは恥ずかしそうに周囲を見る。やはり周囲は迷惑そうにレリア達を眺めていた。
「こ、こら。何をしているんだ君は。放してくれ」
「やだー、ボクはキミ達と劇を見るのっ! ぜったいぜったい離さないもん! 2人からもなんか言ってやってよっ!」
駄々をこねる子供のように振る舞うベリルを、オルレアとフリージアも冷めた目で見つめる。2人の目には、割と本気の軽蔑が込められていた。
「言うことがあるとしたら、団長の方にっスよ。新年早々劇を見よう劇を見ようって駄々をこねては、何回たいちょーに断られてました? ガキかなんかっスか?」
「いくらなんでも、こんな下らないことで団長の権限を振りかざすとは思いませんでした。隊長のご友人というからには、もっとまともな方なのかと……」
「うぅ、2人とも辛辣だぁ……ボクに味方はいないのかっ!」
そう。レリア達がわざわざ興味のない劇に来たのは、あまりにもベリルがしつこかったからである。レリアは何度も断ったのだがベリルは言うことを聞かず、しまいには団長命令だと言い出して居座る始末。
元々ベリルはわがままで自由人ではあったが、今回は特に酷い。レリアの中で急騰していたベリルの株は、あっという間に暴落した。
「『大人気の女優だから2人も劇を見たがるハズ!』って君の話も間違っていたじゃないか。本当にここに居る理由が見つからない……」
「いやいやいや、ホントに演技は凄いから! もーホントに凄いの! 心を揺さぶられるっていうか、真に迫る物があるっていうか……」
「ほお、それは凄い。では2人とも、帰ろうか」
「分かった、分かったから! じゃあ、貴重な経験をさせてあげるから!」
慌ててそう話すベリル。それでも訝しげな目を向ける3人に、ベリルはこう言った。
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