学校すら追放された魔法使いの少女は防御魔法しか使えない〜花吸い戦士と弱虫な魔法使いの成り上がり〜

りり

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1章

防御魔法しか使えない魔法使い

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「誰かいませんかー!」
「…………また来た」

 ドンドンッ! と扉を叩く大きな音で目覚めた黒髪の少女ニーナは、誰もいません。と呟いてベッドに潜る。

「分かりました! また明日来ますねー!」
「アホなのかなアイツ」

 今にでも崩れてしまいそうなボロボロの家に住むニーナは、しつこいなと文句を言いながら硬い枕に顔を埋める。

 魔法都市エルムルーー

 ここはこの世界で1位2位を争うほどの魔法の最先端を行く都市。
 数多の魔法学校に、魔導書の宝庫。 
 魔法使いを目指す者ならば一度は耳にしたことのある都市だ。
 そんな有名都市の端っこに暮らすニーナは、今日もダラダラと防具屋を開店させるーー

~~~~~~~~~~~~~~

「今日も客はゼロか、こんなに良い防具を売ってるのになんで売れないんだろ」

 家兼お店である、防具屋【ニーナの秘密防具屋】は、今日も無事に赤字を遂げていた。
 店の前には、
【あの有名な、何故か防御力が上がる鋼の指輪】
【超最新! 今話題のビキニアーマー】
【これがあれば冬も安心! 布兜!】 
 などなど、ニーナ自慢の商品が並べられている。

「まぁ、なんとかなるか……」

 はなっから人通りが少ない店の前を見ながら、ニーナは頬杖をつきながら深くため息を吐いた。

 ーー4時間後

 日も暮れ始め、辺りがオレンジ色に照らされる中、まずい、このままじゃ本当に貯金尽きる。とボソボソ呟きながら片付けをするニーナ。
 そんな小さくなった彼女の背後には、今朝も来ていた白髪の少女が満面の笑みを浮かべて立っていた。

「今日こそ話を聞いて! お願い!!」
「っ! なんだまたお前か……嫌です」
「ちょっと! 5分でいいから!」
「そう言って最初、10時間くらい店の前にいたじゃん」
「う……」

 バカでかい白髪少女の声に一瞬肩を震わせたニーナは、溜息をつきながら、
 【超最新! 今話題のビキニアーマー】を持ち上げ、はよ帰れと少女を置き去りに家へ戻る。

「いや! 今日こそは負けないっ!! ……って痛った!! 指折れた! 曲がった! 湾曲した!!」

 そう言ってねちっこい白髪の少女もまた、ニーナに続いて家に滑り込もうとするが、素早い扉の開け閉めに負けた挙句、指を挟むという自業自得極まりない罰を食らう。

「ねぇ~! 頼れる魔法使いあなたしかいないんだよぉ! お願い! 力を貸して~!」
「何度言ったらいいの、私は魔法使いじゃないし、使える魔法も防御魔法だけ。お前がやりたいダンジョン攻略なんて無理に決まってるでしょ」
「大丈夫! 私が全部やるし! なんでもあげるから! テスト合格するためには魔法使いの仲間が必要なんだってぇ!」

 扉越しにやり取りをするニーナは、なんでもあげるという言葉に耳を動かし、はぁと溜息つきながら扉を開けた。

「ねぇそれって、お金もらえるの?」
「もちろん! お金も上げるし、ダンジョンで見つけた宝は全部あげるから!」
「…………仕方ない。話くらいは聞くか」

 お金が貰えるならなりふり構ってられんと、渋々受け入れたニーナとは対称に、白髪の少女は飛び跳ねながらやったやった! と満面の笑みを浮かべる。

「まぁ入りなよ、話はちゃんと聞いてあげるから」
「ああああありがとう! 本当にありがとう! よっ! 最強の魔法使い様! 好き! 大好き! 結婚してぇぇえ!」
「やっぱ帰れ」
「ごめんなさい。調子乗りました」


~~~~~~~~~~~~~~~~~

「で、要するに、戦士学校を卒業するにはダンジョン攻略をする必要があって、ダンジョン攻略はソロではなく2人以上のパーティを組まなければならない、しかもダンジョンには魔法使い同伴が義務付けられているから私の力が必要ってことね……」
「そう! 全くその通り! 同級生はみんな友達と行くらしいんだけど、私友達いないからさ! クラスのみんなにあなたの事を紹介してもらったの!」
「……あっそ」

 ギシギシ変な音の鳴る椅子に座る2人は、かれこれ1時間ほど話し込んでいた。

「お前、いやシャルティはどれくらい強いの?」
「私はね、とにかく最強! この剣さえあれば無敵なんだよね!」

 そう言って白髪の少女ーーシャルティは腰に付けていた、持ち手の方がぐにゃりと曲がった変な形の剣を取り出す。

「なんなのその杖みたいな持ち手、すごい持ち辛そう」
「いやこれがいいんだよぉ! おばあちゃんから貰った昔からの愛剣なんだこれ!」
「ふーん」

 今日も美しく可愛い! と剣に頬擦りするシャルティをよそ目に、ニーナは淡々と話を進める。

「で、今度は私の話なんだけどさ、前にも言った通り私は魔法使いなんか大層な者じゃない。攻撃魔法は家庭で役立つくらいの火力しか出ないし、まともに使えるのは防御魔法だけ、しかも学校を出てからもう2年が経つ、足でまといにしかならないよ」
「うん! 大丈夫!!」
「…………」

 なんでだよとツッコミたい気持ちを抑えたニーナは、もう覚悟を決めるしかないかと立ち上がる。
 
「分かった。もう後はシャルティに任せるから、日程も全部決めていいよ。どうせ私は眺めてるだけで良さそうだし」

 最悪自分の事は自分で守ればいっかと、コップに水を注ぐニーナ。
 そんなニーナを他所に、おけおけ! とグッと親指を立てたシャルティは、じゃあ明日の朝、中央広場の女神像の前で集合! と高らかに宣言した。

「ん、分かった。じゃあ明日行くからお金だけ忘れないでね」
「んもー! 少しは楽しみにしてくれたっていいじゃん! 楽しいダンジョン攻略を2人で行けるんだから!」

 はいはいわかったわかったと、適当に返事をするニーナに頬を膨らませるシャルティは、ま、いっかと笑顔を取り戻した後、今日は話を聞いてくれてありがとう! 明日楽しみにしてる! と言って家を出ていった。

「…………アイツも私と一緒か」

 1人になったニーナは、曇った表情を浮かべながら残りの水を全て飲み干したーー
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