学校すら追放された魔法使いの少女は防御魔法しか使えない〜花吸い戦士と弱虫な魔法使いの成り上がり〜

りり

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1章

ダンジョンの階段は腰に来る

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「はぁぁぁっ!!!」
『ギギギィィッ!!』

 蜂型のモンスター《ニードルビー》を難なく倒したシャルティは、やっと階段だ! と笑みを零す、が。


「やっとどころじゃないでしょ…………」
「ご、ごめんなさい!!!」


 話は1時間前に遡るーー



「シャルティ、ダンジョンのマップの見方は分かるの?」
「もちろん! この赤いバツ印は踏むと扉がーー」
「ちょっと待ってそこ!」
「え……。きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 落とし穴であるーー

「……よし、帰ろ」
「帰らないでぇぇぇぇ!! 暗い! 怖い! お腹すいた!」
「最後は関係ないだろ……」

 わんわん泣き叫ぶシャルティに仕方ないなぁと、肩掛けカバンからロープを出すニーナ。

「ふふふ。ついにこの子が役立つ時が来たか」

 得意げにロープを垂らし始めたニーナは、奇妙な笑みを浮かべながら、掴まっていいよとシャルティに声をかける。

「ありがとうニーナさん! ん、なんでこんなに兜が付いてるんだ……? てか布だし」
「ふふふ、気付いたようだねシャルティくん。それはね、私が数年前に開発した布兜付きロープなのだよ」
「いや作るにしてもロープ付きの兜にしてよ……逆でしょ普通、なんでロープが主役なんですか……てかめっちゃブチブチいうんですけど!!」
「む、流石に数年前の過ぎて布兜の方が劣化してきちゃったか……」

 そう言って、ロープ、布兜、ロープ、布兜……と所々に布兜が仲介している奇妙なロープを、悲しそうな目で見つめるニーナ。
 布兜が余計なんですよ! 蛇足なんですよ!! と落とし穴の中でワーキャー騒ぐシャルティは、頼むから切れないでぇ! と冷や汗を流しながらゆっくり登る。


 そして脱出直前。


 やっと出られたぁぁと最後の布兜に捕まったその瞬間ーー

 それは綺麗にブチブチと真っ二つにちぎれ、シャルティを再び暗闇へと誘った。


「使えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「私の布兜付きロープがぁぁぁぁぁぁ!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そして現在ーー

 結局土壁を素手で上り詰めたシャルティが、何故か謝罪する羽目になっていた。

「でも、ニーナさんがあんな変なもの出さなければもっと早くーー」
「変な……もの? シャルティ。私は今からでもダンジョンを出て、家に帰ることだって出来るんだよ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい~!!」

 私の子供を変呼ばわりするのは許さん! と黒髪を逆撫でながら怒るニーナに、綺麗な土下座を敢行するシャルティ。
 そんなこんなでやっと辿り着いた階段を目の前に、2人はおふざけはここまでにしてもう行こっか……と足を運ぶ。

「……なんか階段急じゃない?」
「確かに……。幅も狭くて降りにくい……」

 カツカツと靴音を鳴らす2人は、階段の出来具合に文句を言いながら、ゆっくりと2階層へと足を進める。

 そして螺旋状になった階段をあともう少しで降り切れると言ったところで、
 ニーナは小さな声でシャルティの肩を叩いた。

「まってシャルティ」
「ん?」
「これ、なんの音……?」

 
 ほぼ目の前に見えた2階層を前に、ニーナはシャルティに静止を促す。
 ゴゴゴゴ……。とどこからか聞こえる不穏な音に気付いたニーナは、怪訝な顔を浮かべた後少しして目を見開いた。

「この音、もしかして……!」

 腰を低くして聴覚を研ぎ澄ましていたニーナは、シャルティの腕を掴み叫ぶーー


「走れシャルティ!!!!」
「ええええええー!!!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ!!!

 
 それは2人の足元から発された音だった。


『グオァァァァッっ!!!!』


地底の蛇シュランディーテ!!??」

 それは丁度ニーナたちの背後、地面から這い上がるように出てきたのは巨大な岩の鱗に包まれた、シュランディーテという蛇型のモンスターだった。
 
「階段がやられたか……。しかたない、シャルティ、地図はちゃんと読むんだよ? 聖なる盾セイクリッドシールド
「ニーナさん!?」

 シャルティを突き飛ばしたニーナは、虚空から白色の杖を召喚し、魔法を自分の背後一面に行使する。


聖なる盾セイクリッドシールドーー

・効果
 指定範囲一面に霧状の盾を召喚出来る。所有者の魔力により効果は大きくなる。


「ごめんシャルティ。私には足止めすることくらいしか出来ない。だからシャルティはボスを倒して帰還石で先に帰ってて」
「え……。それじゃニーナさんが……、ダメ! ニーナさんをこのまま1人には出来ない! それに……ニーナさんの魔法じゃ……」

 霧越しに叫ぶシャルティに、ま、そう思うよねと呟きながら、今も間合いを伺うシュランディーテを見つめるニーナ。
 
「大丈夫、時間稼ぎならちゃんと出来るから。だからなるべく早くボスを倒してきて、帰還したあと助けを呼んでくれればいいから」
「…………」

 淡々と伝えるニーナに、分かった……。と呟いたシャルティは、絶対助けるから! 絶対やられないでよ! と叫びながらボスの待つ3階層を目指して、全力で走り出す。

「……やられないよ。私一人なら」
『グァァァァッ!!!』

 残されたニーナに、いよいよ痺れを切らしたシュランディーテはニーナ目掛けて巨大な尻尾を振りかざす。

泡の盾シャームシールド
『グギャ!』

 ニーナの首を捉えたとばかりに全力で襲いかかる尻尾は、一瞬にして動きを止め、もがき苦しむようにシュランディーテは体を捻る。


泡の盾シャームシールドーー

・効果
 泡の盾で攻撃を受け、その攻撃を包み込む特性がある。


「シャルティ……。確かに私は防御魔法しか使えないけどーー」
『グギャ、グギャ!』

 尻尾の自由が効かないシュランディーテがダンジョンの壁を破壊しながら暴れる中、ニーナは降り掛かる石の塊を全て弾き飛ばし、杖を突きつける。

「ーー生き残る才能は、誰も私を越えられない」
『グギャ!?』
幻惑の盾トルークシールド

 紫色に輝く小さな盾がシュランディーテの頭を包み込む。

「都合のいい夢でも見てなよ、シュランディーテ」

幻惑の盾トルークシールドーー

・効果
 盾を通して見たものは全て幻になる。
 範囲や大きさを制御するためには、かなりの熟練度が必要。
  
 と、動きを完全に止めたシュランディーテから目線を逸らしたニーナは、誰もいない空間に話しかける。

「……ていうかさ、早く出てきなよ? こんなダンジョンにシュランディーテなんて上級モンスター現れるはずないし、階段を壊したのも故意でしょ?」
 

 面倒臭いから早く出てきてとぶっきらぼうに話すニーナ。
 そんなニーナの言葉に少し間を置いて、クスクスという笑みがダンジョンに響き渡った。

「ひっひ! よく俺の存在に気付いたな、弱虫魔法使い」
「誰あんた」

 首を傾げるニーナにゆっくり近づく背の高い男。
 ダンジョンの壁にある魔石晶に照らされるその顔は、黒髪で、イケメンでもブスでもないめちゃくちゃ普通の顔だった。

「うん、誰? あんたは私のこと知ってるらしいけど」
「ひっひ! 別にお前のことなんて興味無い、あの出来損ない、シャルティに用があったんだ」
「あっそ」

 どこかの制服と思える紺色の服を着た男は、手に持っている長い槍をブンブンと振り回しながら、まぁ女をいたぶるのに理由は必要ねぇかぁ! と舌舐りをする。

「結構気持ち悪いねお前」

 真顔で返事をするニーナは、まぁお前にこの盾は壊せれないよ。と霧の盾を優しくさする。

「本当に防御魔法しか使えねぇんだなぁ? ま、俺にはそれ関係無いんだけどな!」
「……!」


ーー刹那


 男は持っていた槍を地面に突き刺し、ニーナの足元から勢いよく飛び出した。


蛇槍シュランッッ!!!」
「くっ…………!」


 男の槍はニーナの脇腹を貫通し、槍は一瞬で赤色に染まったーー



~~~~~~~~~~~~~~

「はぁ、はぁニーナさん大丈夫かな……」

 一人ガムシャラに走るシャルティは、ニーナの無事を祈ることしか出来なかったーー
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