琥珀の指輪と運命の人

紫 凡愚

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運命を期待する青年

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 とある世界、人間と魔族が争っている世界の王都にラクヤという青年が住んでいた。

 彼は金髪碧眼で十八歳という少年と大人の中間期特有の色気を持っていて、非常に美青年だったが、その盗人という仕事の影響なのか、服や肌がところどころ黒ずみ、きれいな顔立ちが勿体ない恰好をしていた。

 「今日は俺の大事な日だ。この日のために俺は努力してきたんだ。」

 楽観的なラクヤだがこの日だけは緊張しているように見えた。ラクヤはこの日、王城に忍び込むというこの国の犯罪史に残ることを成し遂げようとしていた。もちろんバレる気はないので犯罪史にはのこらないのだが。

 彼が王城に忍び込む理由は彼の左手の人差し指についている琥珀の指輪が関係している。

 その指輪は、ラクヤが五歳の頃、彼の唯一の親であった母親が病気で亡くなる前にくれた形見だった。

「この琥珀の指輪は自分の運命の人に向かって黄色い光を放つの。この指輪があったおかげで私はあなたのお父さんと出会えたのよ。あなたもこの指輪を使いなさい。きっとあなたの人生を導いてくれるはずだわ。」

 そういってラクヤの母親は亡くなった。そしてラクヤがその指輪を付けるとまっすぐと王城へ向かって光が放たれたのだった。それ以来、ラクヤは物乞いやスリなどでお金を稼ぎ、王城へ忍び込む準備を整えていた。

 そうして、とうとう、作戦決行の夜が来た。王城は魔族に対しては聖障壁などの仕掛けを緻密に配置し守っているが、人間に対しては魔族に比べ守りが弱くなっていた。そのことからラクヤは人間が魔族のような動きをすることができたら王城に忍び込めると考えていた。

 最初にラクヤは王城の北側に仕掛け時計を改造したものを置き、三十分後に大きな音を鳴らすように設定した。彼は指輪の光が、南側の大きな窓がある部屋を指していることを知っていたので、その部屋の真下に到着すると、仕掛け時計が爆音を鳴り響かせたと同時に、壁に直接貼り付ける魔法手袋を使いイモリのように壁をペタペタと這い上がっていった。

 ラクヤが目指す部屋は城の頂上付近であり、体力が必要で訓練を積んでも人間に直接這い上がるなんて不可能だった。しかしラクヤは昔から身体能力だけは普通の人間を超えていると自負しており、魔族にも迫るのではないかと自信を持っていた。

 結果、途中で強風に煽られヒヤリとしたところはあったが無事にその窓へたどり着いた。緊張感が最大限に高まっており、落ちたら即死の状況で一瞬意識が乱れた。

 すると、下のほうから衛兵の話し声が聞こえた。普通だったら夜の城壁なんて見られないが、上の状況を見られたら気づかれてしまうとラクヤは焦ってそのまま部屋の中へ転がり込んでしまった。どうやら窓からの侵入者はいないと考えていたらしく、そもそも鍵がついていなかった。

 中に入ると今まで出会った事のないほどの美女がベッドの上で座っていた。彼女は黒髪黒目でラクヤと同い年くらいの女性で、まだ幼さが残っていた。普段から王都の裏路地で暮らしていたラクヤは娼婦の知り合いがいたが、その誰もが持っていなかった処女の香りというのをふんだんに漂わせていた。その女性はびっくりした目でラクヤの目を見つめていた。なんて話しかけたらいいかわからずラクヤは黙っていると、


「何か盗みに来たのですか、泥棒さん?」

 首をちょこんと傾げ、人懐っこそうに笑った。


 ラクヤはなんて純情な女性なんだと思った。

 ふと自分の指輪を見るとまっすぐにこの女性を示していた。本当にこんな美しい人が自分の運命の人なのかと思わず疑ってしまった。

「俺はラクヤと言います。貴女のお名前はなんというのですか」

「私はルナと言います。この国の第一王女になります」

 ラクヤはルナという名前を聞いたことがあった。人間の国では稀代の美女として知られていて、その噂は魔族にまで広がっていると言われていた。その噂の美女が自分の運命の人と知ると胸が高まった。

「私は泥棒ですが、今日は泥棒をしに来たのではありません。どうか私のお話を聞いていただけないでしょうか」



 そういうとラクヤは恥ずかしそうに自分の母と運命の指輪の話を始めた。

 ルナはその話を熱心に聞き、すべて聞き終わると、

「なんとまぁ!それではこれも運命に違いありません!どうかおかけになってお話ししましょう」

 と言い、二人は朝までお互いの身の上話を語り明かすのだった。

 やがて窓から見える街の景色がはっきりと見え始めたころには、二人はすっかり打ち解けていた。

「ぜひ今日の夜もいらっしゃってください。ラクヤには私の部屋へ繋がる隠し通路をお教えします。」

 ルナは部屋の壁にある暖炉へ近づき、そこにある隠し通路をラクヤへ教えた。


「分かった。今日の夜、月が一番高く上がるときにまた来るよ」

ラクヤはそうして隠し通路を抜け自分の家に着くと、不思議な高揚感に包まれながら眠ったのだった。

 それからというものラクヤとルナは毎日のように密会していた。そうしているうちに、ラクヤはルナが実はとんでもない箱入り娘だという事に気が付いた。どうやらこの国の王はたいそうルナのことを大切にしており、彼女が会ったことのある男性は人生で数えるほどしかいなかった。

 当然、彼女は男女の営みも知らなかった。どうりで無防備なはずだとラクヤは納得した。さらにルナは毎日王様の言いなりで暮らしている日々が気に入らないらしく、ラクヤが入ってきたときにいっそのこと攫ってくれないかと思っていたことを明かした。
 
 その話を聞いたラクヤは

「明日の月が一番高く上がった時に君を誘拐する。そうしたら二人で世界を旅しよう」

とルナを誘った。

「もちろん、喜んで。私の王子様」

 ルナは冗談めいた言い方で承諾した。

 二人はまさに幸せの絶頂だった。ちょうどその日はラクヤとルナが出会って一か月だった。ラクヤはその日は明日の準備をするからと早めに帰った。そして、明日の夜を夢見て準備を進めるのだった。

 誘拐当日、ラクヤはいつもどおり隠し通路を使ってルナの部屋へ訪れた。いつもと違うのは、普段よりも良い服を着て清潔な見た目をしていたことだ。今まで小汚くて分からなかったラクヤの魅力が引き出され、本当に王子と言ってもおかしくないくらいだった。

「君を誘拐しに来ました」

 ルナと出会ってすぐそういうと、ルナはいつもと違うラクヤを見て、頬を赤らめながら

「ぜひ私を連れて行ってください」

 そうしてラクヤの手を握ろうとした。

 その時北側から何かが爆発したような大きな音が聞こえた。ラクヤは嫌な予感がした。なぜなら自分もルナの部屋に忍び込んだ時、北側で物音をたてたからだ。

 そう思っていると突然、あたりから白い靄が立ち込めた。ルナの姿を見失ってしまい探しているとどういうわけか魔物がラクヤを襲ってきた。

「魔物や魔族は入れないはずなのに、なんでこんなにいるんだよ!」

 魔物たちの攻撃を躱しながら指輪の光を頼りに移動すると、そこには魔族がルナを抱えていた。青い肌をして、頭部にヤギのような角が生えていた。そしてなにより目立つのが闇を感じさせる黒髪と黒目だった。ルナの黒髪黒目は艶のあるものなのに、その魔族の黒さは全てを飲み込みそうな色だった。


「おい! ルナを返せ!」

 ラクヤは怒りを露わにした。

「悪いがお前には罪を被ってもらう」

 その何者かは気づいたら白い靄になって消えていた。その時にあたりの魔物も全て白い靄になっていて、そこにはいつもの変わらない部屋にルナだけがいない奇妙な光景が広がっていた。

「姫様! 大丈夫ですか!」

 突然扉が開き、近衛兵がラクヤを見つけた。

「おい! 貴様! 姫様をどこにやった!」

 近衛兵は今にもラクヤを殺しそうな気迫だった。

「分かりません! 今、魔族と魔物が攫って行ったんです!」

「魔族や魔物なんて一切いないじゃないか! 皆の者こやつを捕らえろ!」

 そういうとぞろぞろと兵士がなだれ込んできた。ラクヤはとにかく逃げるしかないと考え魔法手袋を装備し、急いで窓から脱出した。

 逃げ帰りながら、二人の記念日になるはずだった日になんてことが起きてしまったのだと、混乱していろんなことを思案しながら家に帰るのだった。
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