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事故

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そのニュースはつけっぱなしのテレビから流れてきた。


篤実は午前中の作業を終え、昼食のいなり寿司を食べながら今夜の献立を考えていた。

『今日午前十時頃、中ノ町の河川敷公園で造園業社の従業員がクレーン車の下敷きになり3名が重軽傷を負いました』

中ノ町、河川敷公園、造園業社……

死者は今のところ出ていないようだ。
篤実はとても嫌な予感がした。

造園業社の事故……

急いでネットで検索し何処の業社なのかを確認する。

地元のニュースだったので篤実のホーム画面のトップに表示されている。

藤原造園の名前が目に入る。怪我をしたのは藤原造園の職員。

急いで藤原さんの携帯に連絡を入れる。
何度もコールするが繋がらない。直接会社に電話をするが、詳しい事はこちらも分かっていないと言われた。
その後は本社に何度電話しても留守番電話が対応した。

警察に直接電話し、事故の状況を訊いたけど教えてもらえなかった。ニュースを流したテレビ局にも問い合わせた。詳しい事は分からなかった。

突然の事に動揺し、ただ体が震える。


今朝家を出る時に「行ってきます」と笑顔で出勤した藤原さんを思い浮かべる。
彼は行政からの委託で、今は公園を造っていると言っていた。中ノ町の河川敷公園じゃない可能性もある。たくさんいろんな仕事を請け負っているだろう。だって藤原造園は大きい会社だ。
きっと藤原さんがしている仕事はまた別の……ほかの公園に……違い……ない。
事故の情報はどこに聞けばいいのか、僕は何をしたらいいのか分からない。

どうか藤原さんが無事であるようにと祈る。

とにかく現場に行ってみようと篤実は車のキーを手に持った。



ーーーーーーーーーーーーーーー



現場は混乱し黄色いテープで警察が規制している。
横倒しになったクレーン車が事故の凄惨さを物語っていた。

マスコミの関係者らしい人を見つけて「知り合いが事故にあったかも知れない。怪我をした従業員はどなたでしょうか」と半ば強引に訊ねる。

ちゃんと確認は取れていないけどと言いながら知っていることを教えてくれた。

怪我をした従業員の中にという人物が入っているのが分かった。

その場に倒れ込みそうになるのを必死に堪えて、篤実は運ばれたという救急病院に向かった。




関係者以外は立ち入り禁止だという事は分かっていたが入院患者に紛れ、手術が行われているだろう階へ走った。
看護師の人に関係者だと偽り、事故で運ばれた人がいるのは何処かと訊ねる。
藤原造園の作業着を着た人達を見つけ、皆が集まっている場所までたどり着く。


警察やいろんな人達が集まっていたが、篤実の顔見知りはいない。
近くにいた人に自分は仕事の関係者だと言って藤原さんの状態を聞いた。

「詳しい事は分からないんですが、まだ手術中です。大樹さん以外は軽傷で済んだんですが……」
「あの……取引先の方々にはご心配をおかけしますが、詳しいことが分かり次第連絡させて頂きますので」

仕事の関係者というよく分からない自己紹介で、篤実は彼らに客先だと判断されたようだった。
知っている限りの事を話してくれた。
動悸が激しくなる。息が上手く吸えなくて、言葉に詰まる。

事故が起こってからずいぶん時間が経っているはずだ。まだ手術中だなんてよほど酷い状態なんだろうか。
ただ恐怖が押し寄せる。

「……命に別状はないんですよね?意識はあったんですよね、彼は、、、」

興奮し鬼気迫った様子の篤実に、彼らは『まだ分からないんです』と困っように首を振った。


「”あなたこんなところで何しているの!”」

メアリさんが篤実の姿を見て走り寄ってきた。

「メアリさん!藤原さんは!藤原さんは大丈夫なんですか」

篤実は声を荒げてメアリさんの腕を掴んだ。やっと知り合いに会えたと何振りかまわず彼女に矢継ぎ早に質問する。

「ちょっと、落ち着いて!」

彼女は僕を引きずるようにして廊下の端まで連れていく。

「嫌だ、ここで待ってます。手術が終わるまで」

角を曲がり、人から見えない位置まで来ると彼女は僕の顔を無理やり掴んで視線を合わせる。

「”あなた何でここにいるの?まだ何もわかってないんだから……とりあえず一緒に来なさい”」

そう言って彼女は僕を強引にエレベーターに押し込んで一階のボタンを押した。
無理矢理病院の外へ連れ出されるけど今はメアリさんしか状況を聞ける人はいない。
僕は仕方なく彼女に従った。



「メアリさん藤原さんはどんな状態で運ばれたんですか?クレーン車の下敷きになったんですか?怪我は大丈夫なんですか!」

「”いい加減にしなさい!”」

彼女は僕の頬を叩いた。

「”なにするんだ!ちゃんと”」

「”家族がいるのよ!”」

「”か、……家族……”」

「”ここにはご家族もいるのよ。いったい何を考えてるの?あなたは部外者なんだからここにいる必要はないし、混乱している状況なの、あなたが来たら迷惑なだけ”」

それでも彼の状態が知りたい。人の事なんて気にしていられないんだ。

「”彼は今朝は元気に家を出たんです。事故にあったって聞いて、いてもたってもいられなくて、どういう状況なのか知る権利はあります”」

必死に食い下がった。

「”は?知る権利なんてないわよ。あなた、ご家族になって言うの?大樹との関係をちゃんと伝えられるの?ただでさえ不安な状態の親族に余計な心配かけて混乱させるつもり?いい加減にしなさい。自分の立場をわきまえて”」

「”一緒に住んでます。大切な友人です”」

「”友人でしょ?たかが友人でしょう。大樹が自分の家族に紹介できないでしょう!”」


彼女の言葉が容赦なく胸に突き刺さった。僕は頭を抱え、そのまま膝から崩れ落ちた。
どうしょうもない自分の存在が彼の家族を苦しめる。


家族に紹介できない……友人……


涙が溢れ出す。

それでも……それでも……僕は藤原さんを愛している。



「”あなたは泣く価値のある男じゃないわ”」



現場の状況を顧みずに自分の気持ちだけを優先した報いを……僕はこれから受けなければならなかった。




痛む胸を押さえて俯く。

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