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17 執事の名は
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この言葉にぎょっとしたのはアーサーとウィルフレッドだった。
「メリル。……そ、それは」苦しすぎる言い訳だ――そう続けようとする二人だったが、メリルの気迫のほうが勝ったのでそれ以上は何も言わずに黙り込んだ。
(ああ、そういう方向でいくのね)
アーサーとウィルフレッドは顔を見合わせた。
メリルは滅多に怒らないし、黙って拗ねちゃうタイプだけれど、一度こうと決めたら誰にも止められないことを、二人ともよく知っていたからだ。
「じゃあ訊きますけど、事件のあとこの子はどこにも逃げてません! 名乗りもせず、じっと殴られたままだったんですよ?」
メリルは憲兵、王子、家族を交互に見据えながら、断固とした口調で言う。
「それが、こうして逃げ出すわけでもないし……そんな不自然な犯人なんていますか?」
すごい理屈だ……だが子供ならではの説得力がある──
アンドリュー第三王子は、メリルが両手を広げて庇う姿を見て、ほんのわずか目を細めた。
(こんな女の子は初めて見る)
子どもの理屈にしてはあまりにも無鉄砲で、あまりにも真っすぐで、そして理屈には適っている。
今後の関係のためにも、貸しを作っておく価値がある。
辺境伯嫡男であるアーサーが親しそうにしている女の子が辺境伯令嬢だということに、憲兵たちは初めて気が付いて、ざざっと敬礼する。
「レ、レディ……ですが…。襲撃情報が事前にあり、こちらとしても警戒していましたところ、目撃者もおりまして……」
職務と辺境伯一族の板挟みに陥った憲兵隊長が言い淀む。
「わたしの執事がそんなことするわけないもん!」
「……レディ。それでは、執事の名前は何とおっしゃるので?」
メリルはぎょっとする。
な、名前!? いきなり訊かれても咄嗟には出てこない。当たり前だ。本当は初対面なんだから。助けたくて身内扱いの執事にしたかっただけ。
偽名を出すことも考えつかなかった。
ダメっ! レディは表情変えたらダメ! ゼッタイ!
何だか教育が変な方向に使われている気もするが、だんまりを決め込んだメリルに憲兵の皆が怪しそうに視線を彷徨わせた。
──と、ここでメリルの意図に気が付いた精霊たちが盛り上がった。
"名前を探し出すくらい私たちにはなんてことないわ"
"その子の名前は ソル よ"
"ソル!"
"ソルってのは、太陽って意味だな"
一瞬カンニングしたような気になってしまったメリルだったが、周囲のみんなに精霊の声は聞こえていないようだし、この際そんなことは言ってられない。
「ソル! この子は執事見習いのソルよ」
一瞬、驚いたように目を見開いた男の子は、すぐにふわりと微笑んだ。
まるで、その名を呼んでくれることを待っていたかのように。
光の精霊は顔から治療を施していたのか、殴られた痕跡は既になかった。
"だってすごい綺麗な子だったしぃ"
精霊は美しいものに目がない。
光の精霊の面食い度は、精霊たちの中でもピカ一だった。
(あれ……この子すごくキレイ……)
メリルがそう思った瞬間、ソルと呼ばれた男の子がメリルの前に跪いた。
驚く間も無く、メリルの片手がソルに恭しく持ち上げられ手の甲に口づけが落とされる。
「お嬢様……。これからも永遠の忠誠をお誓い申し上げます」
ボッと顔から火が出るとはこのことか。メリルの顔が耳まで瞬間湯沸かし器のように沸騰し真っ赤になった。
えっ? ま、待って! ああ! 口裏合わせに乗ってくれた?
「ソル。忠誠を受け取ります。館に戻ったらなぜ殴られていたのか話を聞かせて?」
メリルがやっとそれだけ言うと、ソルと呼ばれた男の子は立ち上がり、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「はい。喜んで」
手を打つ音が場に響いた。
アンドリュー第三王子が手を打って注目を集める。
「……この件、私が暫定的に預かろう。少年の身柄は、私の責任において確保する」
誰もがほっとしたように息を吐いた。
「かしこまりました」
「彼は大丈夫だ。私が保証する」
王子は自身の【スキルツリー】を使ってそう答えた。
「メリル。……そ、それは」苦しすぎる言い訳だ――そう続けようとする二人だったが、メリルの気迫のほうが勝ったのでそれ以上は何も言わずに黙り込んだ。
(ああ、そういう方向でいくのね)
アーサーとウィルフレッドは顔を見合わせた。
メリルは滅多に怒らないし、黙って拗ねちゃうタイプだけれど、一度こうと決めたら誰にも止められないことを、二人ともよく知っていたからだ。
「じゃあ訊きますけど、事件のあとこの子はどこにも逃げてません! 名乗りもせず、じっと殴られたままだったんですよ?」
メリルは憲兵、王子、家族を交互に見据えながら、断固とした口調で言う。
「それが、こうして逃げ出すわけでもないし……そんな不自然な犯人なんていますか?」
すごい理屈だ……だが子供ならではの説得力がある──
アンドリュー第三王子は、メリルが両手を広げて庇う姿を見て、ほんのわずか目を細めた。
(こんな女の子は初めて見る)
子どもの理屈にしてはあまりにも無鉄砲で、あまりにも真っすぐで、そして理屈には適っている。
今後の関係のためにも、貸しを作っておく価値がある。
辺境伯嫡男であるアーサーが親しそうにしている女の子が辺境伯令嬢だということに、憲兵たちは初めて気が付いて、ざざっと敬礼する。
「レ、レディ……ですが…。襲撃情報が事前にあり、こちらとしても警戒していましたところ、目撃者もおりまして……」
職務と辺境伯一族の板挟みに陥った憲兵隊長が言い淀む。
「わたしの執事がそんなことするわけないもん!」
「……レディ。それでは、執事の名前は何とおっしゃるので?」
メリルはぎょっとする。
な、名前!? いきなり訊かれても咄嗟には出てこない。当たり前だ。本当は初対面なんだから。助けたくて身内扱いの執事にしたかっただけ。
偽名を出すことも考えつかなかった。
ダメっ! レディは表情変えたらダメ! ゼッタイ!
何だか教育が変な方向に使われている気もするが、だんまりを決め込んだメリルに憲兵の皆が怪しそうに視線を彷徨わせた。
──と、ここでメリルの意図に気が付いた精霊たちが盛り上がった。
"名前を探し出すくらい私たちにはなんてことないわ"
"その子の名前は ソル よ"
"ソル!"
"ソルってのは、太陽って意味だな"
一瞬カンニングしたような気になってしまったメリルだったが、周囲のみんなに精霊の声は聞こえていないようだし、この際そんなことは言ってられない。
「ソル! この子は執事見習いのソルよ」
一瞬、驚いたように目を見開いた男の子は、すぐにふわりと微笑んだ。
まるで、その名を呼んでくれることを待っていたかのように。
光の精霊は顔から治療を施していたのか、殴られた痕跡は既になかった。
"だってすごい綺麗な子だったしぃ"
精霊は美しいものに目がない。
光の精霊の面食い度は、精霊たちの中でもピカ一だった。
(あれ……この子すごくキレイ……)
メリルがそう思った瞬間、ソルと呼ばれた男の子がメリルの前に跪いた。
驚く間も無く、メリルの片手がソルに恭しく持ち上げられ手の甲に口づけが落とされる。
「お嬢様……。これからも永遠の忠誠をお誓い申し上げます」
ボッと顔から火が出るとはこのことか。メリルの顔が耳まで瞬間湯沸かし器のように沸騰し真っ赤になった。
えっ? ま、待って! ああ! 口裏合わせに乗ってくれた?
「ソル。忠誠を受け取ります。館に戻ったらなぜ殴られていたのか話を聞かせて?」
メリルがやっとそれだけ言うと、ソルと呼ばれた男の子は立ち上がり、にっこりと満面の笑みを浮かべた。
「はい。喜んで」
手を打つ音が場に響いた。
アンドリュー第三王子が手を打って注目を集める。
「……この件、私が暫定的に預かろう。少年の身柄は、私の責任において確保する」
誰もがほっとしたように息を吐いた。
「かしこまりました」
「彼は大丈夫だ。私が保証する」
王子は自身の【スキルツリー】を使ってそう答えた。
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