『ファランドール公爵家の事件録』~公爵の最愛は彼の溺愛に気付かない~File00.二人の出会い

鈴白理人

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「それではわたくしたちが退場するときには、また姿を見せて頂戴」

「かしこまりました」 

 アレクサンドルが王太子夫妻にいったん中座の挨拶を終え中央扉に向かうと、待機していた護衛騎士たちが付き従う。
 従者であるセオも一緒だった。ここにいる皆が戦場で生死を共にした、公爵にとって唯一ともいえる気の置けない者たちでもある。


「王族でなくなってから初めての夜会で、すっかり作法が抜け落ちていたな」

「王太子殿下に助けられましたか」

「そうだな。王太子妃殿下にも」

「ご兄弟仲がよろしいことこそ、王室安泰に繋がるとご存知でいらっしゃいます。仲を違えさせようと躍起になる『やんごとなきお方』の存在もご承知の上で」

「この場では控えよ。どこに『耳』があるか分からぬ故」

「申し訳ございません」

 そうそう、そういえば、とセオがぱっと表情が明るくなる。
 周りの者たちは、人生は退屈なことだらけと冷めているこの従者が『愉快な事柄』に飢えていることを思い出した。

「先ほど控え室に先触れを出したのですが、その時に大変面白いものを見ましたよ。侍女を連れたご令嬢が、わっさわっさと雑草をドレスのポケットから大量に引っ張り出して、たまたま通りかかった給仕のトレイに載せていたのです。『あとで回収するからこのまま待っていてちょうだい』と言いながら」

 そのまま待て、とかどんな罰ゲームでしょうかねえ。
 思い出した状況がよほど面白かったのか、セオは俯いてククッと笑った。

(確かに、いちいち行動の予測が出来ない破天荒な令嬢だったな)
 バルコニーから覗き見していた令嬢の行動を思い浮かべて、公爵の心臓がトクン、と跳ね上がった。
 
 楽し気なセオになぜかモヤモヤしながら、負けじと語りたくなってくる。
「雑草ではなく薬草らしいぞ。シャルム草と言うのだったか」

「ええっ!?」
 護衛を含めた皆が一斉に驚いた。

「アレクサンドル様はいつどこでそれをっ!? ああっ! バルコニーに移動なさった時ですか!? くうッ! 先触れを出しに行った時にでしょうか! 見逃したぁッ!!」

 特にセオの興奮が酷い。
 どうしてそんなことを知った場所に私はいなかったのか! と感情丸出しである。

 一行が向かっているのは個室を与えられている控え室で、あらかじめ先触れを出しているため、側仕えたちが今頃は休憩の準備をしているだろう。周辺には王族が使用する部屋もあることから、警備は厳重で廊下には警備兵が一定間隔で配置されている。


 と、そこに、まさに今話題となっている、雑草にしか見えない草をこんもりとトレイに載せた給仕係が、周りをキョロキョロと窺いながらやってくるのが目に入った。


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