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6 家に商人がやってきた! アスパラ無限地獄?
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ある日、領主館に商隊がわざわざやってきた。
噂を聞きつけて、領主館で栽培されているアスパラガスの買い付けに来たのだ。やったね!
自分たちで売りに行きたくても馬車は持っていなかったし、馬はいるけれど、全部軍馬だった。
軍馬で市場に野菜を売りに行ったら、さすがにいろいろと誤解を招くだろう。
背に腹がかえられない所までお金がなかったら、軍馬に乗って野菜を売りにいってたかもだけれど、一応まだ生きていられる。まだ慌てる時間じゃない。
そうやって一家は、今日ものんびり暮らしていた。
それはともかく、商隊は六台の馬車・十人の護衛・六人の御者兼下働き・三人の商人で構成されていた。
三人のうちの一番年かさである商人代表が申し訳なさそうに皆の意見を伝えてくる。
「一人当たりが少なくなってもいいですから、噂のアスパラガスを是非とも買い取らせて頂けないでしょうか! もう時期も終わりですから贅沢は言いません! 少量でも是非!」
辺境伯とその妻は目をパチクリさせた。確かに世間ではもうそろそろアスパラガスの季節は終わろうとしていたから、商人の言葉と態度は至極真っ当である。
「あらあら。そんなに力むと出なくてもいいものまでプッと出ちゃいますわよ。もう少し冷静におなりになって。"焦らなくてもアスパラガスは沢山ありますから"」
なんだか貴族らしくない物言いの奥方がとんでもないことをニコニコしながら言った。力んじゃだめ、と言われた商人は目を見開いた。力んだらオナラがプッと出ちゃう、の下りじゃなく、"アスパラガスは沢山ある"の箇所に目を見開いたのだ。そんなバカな。アスパラガスはもうどこにも出回っていないというのに。商人は顔を見合わせた。
辺境伯夫妻は商人たちを裏の庭に案内する。最早庭とはいえない光景がそこにはあった。
商人たちは、あんぐりと口を開けたまま呆然とする。
「えっ、これ全部アスパラガス……?」
二メートルくらいまでアスパラガスがフサフサと生え、ジャングルのようになっていたのだ。
そしてアクアオッジ領主館のアスパラガスはある意味真っ当ではなかった。
農具を借りた商人たちが根元から刈り取ってみると、直ぐに萌芽してニョキニョキ生えてくる。
たちまち三人の商人たちの馬車はアスパラガスでいっぱいになった。数分で食べごろの長さまで育ってしまうので、最後はみんな黙々と刈り取り続ける。だって油断するとすぐ人の身長を軽く超えるまで伸びちゃうんだもの。
「お、おかしい……さっき刈ったはずのところに、もうニョキニョキ生えてきてるぞ!?」
「気付くと背後がまたフサフサ……なんだが……」
「誰か止めてくれ! これはもう農作業じゃなくて、無限地獄だ!」
そう叫んだはずの商人も、次の瞬間には黙々とアスパラを刈っていた。
叫んだところで、ニョキニョキが止まることは無かったからである。
目の前の光景に言葉を失い、誰もがすでに“交渉”のことを忘れていた。もはや黙々と刈り続けるだけの労働機械と化している。
どうやら母の【育成スキル】が、ここでも密かに発動していたらしい。
白アスパラガスは傷みやすい。だから馬車に載せるより、【収納スキル】を持つ下働きが担当した。容量いっぱい、ぎっしり詰めてくれた。
大きく育ってもやわらかーくて繊維も主張することなく緑の味も濃いアスパラガスは、買い叩かれることもなく相場よりも高値で買い取ってもらえた。最近盛り土をして栽培を始めた白アスパラガスはもっと高く売れた。軟白栽培っていうらしいよ。痛みやすいのを知ってたから、アクアオッジ家では長年緑のほうだけ育てていた。だけど試しに作ってみたらトン(とんでもなく)美味い。だから、トンウマ。我が家では褒め言葉の最上級だ。
「辺境と聞いて何もないのではと、警戒していましたが……辺境伯様ご一家のあたたかさと、野菜の味は、都のそれを凌ぎます。ぜひ今後も……アスパラガスは買いますが、それ以外の野菜もぜひ」
商人代表の目が“もうアスパラだけでヘトヘトなんです”と訴えていた。
商人代表曰く、辺境伯の人柄に感銘を受けたから、ちゃんとした金額の取引を心がけてくれたんだって。またごひいきに。って意味でもある。
噂を聞きつけて、領主館で栽培されているアスパラガスの買い付けに来たのだ。やったね!
自分たちで売りに行きたくても馬車は持っていなかったし、馬はいるけれど、全部軍馬だった。
軍馬で市場に野菜を売りに行ったら、さすがにいろいろと誤解を招くだろう。
背に腹がかえられない所までお金がなかったら、軍馬に乗って野菜を売りにいってたかもだけれど、一応まだ生きていられる。まだ慌てる時間じゃない。
そうやって一家は、今日ものんびり暮らしていた。
それはともかく、商隊は六台の馬車・十人の護衛・六人の御者兼下働き・三人の商人で構成されていた。
三人のうちの一番年かさである商人代表が申し訳なさそうに皆の意見を伝えてくる。
「一人当たりが少なくなってもいいですから、噂のアスパラガスを是非とも買い取らせて頂けないでしょうか! もう時期も終わりですから贅沢は言いません! 少量でも是非!」
辺境伯とその妻は目をパチクリさせた。確かに世間ではもうそろそろアスパラガスの季節は終わろうとしていたから、商人の言葉と態度は至極真っ当である。
「あらあら。そんなに力むと出なくてもいいものまでプッと出ちゃいますわよ。もう少し冷静におなりになって。"焦らなくてもアスパラガスは沢山ありますから"」
なんだか貴族らしくない物言いの奥方がとんでもないことをニコニコしながら言った。力んじゃだめ、と言われた商人は目を見開いた。力んだらオナラがプッと出ちゃう、の下りじゃなく、"アスパラガスは沢山ある"の箇所に目を見開いたのだ。そんなバカな。アスパラガスはもうどこにも出回っていないというのに。商人は顔を見合わせた。
辺境伯夫妻は商人たちを裏の庭に案内する。最早庭とはいえない光景がそこにはあった。
商人たちは、あんぐりと口を開けたまま呆然とする。
「えっ、これ全部アスパラガス……?」
二メートルくらいまでアスパラガスがフサフサと生え、ジャングルのようになっていたのだ。
そしてアクアオッジ領主館のアスパラガスはある意味真っ当ではなかった。
農具を借りた商人たちが根元から刈り取ってみると、直ぐに萌芽してニョキニョキ生えてくる。
たちまち三人の商人たちの馬車はアスパラガスでいっぱいになった。数分で食べごろの長さまで育ってしまうので、最後はみんな黙々と刈り取り続ける。だって油断するとすぐ人の身長を軽く超えるまで伸びちゃうんだもの。
「お、おかしい……さっき刈ったはずのところに、もうニョキニョキ生えてきてるぞ!?」
「気付くと背後がまたフサフサ……なんだが……」
「誰か止めてくれ! これはもう農作業じゃなくて、無限地獄だ!」
そう叫んだはずの商人も、次の瞬間には黙々とアスパラを刈っていた。
叫んだところで、ニョキニョキが止まることは無かったからである。
目の前の光景に言葉を失い、誰もがすでに“交渉”のことを忘れていた。もはや黙々と刈り続けるだけの労働機械と化している。
どうやら母の【育成スキル】が、ここでも密かに発動していたらしい。
白アスパラガスは傷みやすい。だから馬車に載せるより、【収納スキル】を持つ下働きが担当した。容量いっぱい、ぎっしり詰めてくれた。
大きく育ってもやわらかーくて繊維も主張することなく緑の味も濃いアスパラガスは、買い叩かれることもなく相場よりも高値で買い取ってもらえた。最近盛り土をして栽培を始めた白アスパラガスはもっと高く売れた。軟白栽培っていうらしいよ。痛みやすいのを知ってたから、アクアオッジ家では長年緑のほうだけ育てていた。だけど試しに作ってみたらトン(とんでもなく)美味い。だから、トンウマ。我が家では褒め言葉の最上級だ。
「辺境と聞いて何もないのではと、警戒していましたが……辺境伯様ご一家のあたたかさと、野菜の味は、都のそれを凌ぎます。ぜひ今後も……アスパラガスは買いますが、それ以外の野菜もぜひ」
商人代表の目が“もうアスパラだけでヘトヘトなんです”と訴えていた。
商人代表曰く、辺境伯の人柄に感銘を受けたから、ちゃんとした金額の取引を心がけてくれたんだって。またごひいきに。って意味でもある。
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