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194. 家族で魔牛ステーキを食べる

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 この頃マークたちがソワソワしている。
 もうシーナの赤ちゃんがいつ生まれてきてもおかしくないところまできたからだ……

 わたしも、宿屋にいることが増えている。
 赤ちゃんの部屋もできたし、ベビーベッドも用意した。

 このベビーベッドは、わたしが思っていた以上に シーナがすごくよろこんでくれている。
 なぜだかシーナも親方を知っていたみたい。

「カリンパニさんの特注ベビーベッドだなんて……  なんて贅沢なお腹の子なの! パール、ホントにありがとう!!」

「シーナ、親方を知っているの?」

「ピアンタではカリンパニさんというか、カリンパニ工芸が有名なのよ。 だからあの親方がカリンパニさんとは知らなかったわ。 工芸品だけがいろいろ有名になっているのよ」

「そうだぞ、あの人の特注品を持てるのは、お貴族様でも難しいんだぞ!」

 トムさんもベビーベッドに少し興奮ぎみだよ。

「そうなんだ……」

 わたしはいっぱい持っているけど……
 これは、黙っておこう。
 
 マークは気づいているようで、じっと目をつぶっていた……

 モナルダからも、シーナが今から出産すると決まったときに飲ませる特別なポーションを預かっている。
 痛みを和らげてくれるそうだ。

 ライのところからも侍女が 二人泊まり込みでシーナのサポートに交代できているし……
 宿屋はいま、開店前でも人の出入りが多い。
 大工さんも入っているからね!

 なんだか、宿屋の従業員を何人か雇うみたいだ。
 
「何人雇うの?」

「最低でも、男性が 二人と女性が 二人かな? 宿屋がシーナ 一人では大変だからな……」

「四人…… 」

 ああ、そういう従業員用の建物をひとつ建てることに決まったからちょっとバタバタだけどな」

「へーっ いつのまに……」

 ひとつのことを新しくはじめるのには、すごくいろんなモノが必要で、いっぱい考えなきゃだめなんだな……


 今日は、家族みんなで魔牛のステーキを食べる!
 それも 一番いいところのお肉だから、ウキウキだよ!

「みんな! 心して食べるんだぞ! こんな良いところの部位は、なかなか口にはできないぞ!」

「「「はいっ!!」」」

 元気に返事して、一口食べる……っ!!

「「「おいしーーいっ!!」」」

「もう 塩とペッパー だけでいいねっ!」

「パール? ペッパーは、貴重な食材なんですよ?」

「えっ! うそっ!? だって ここにも、ライのところにも、モナルダのところにもあったよ?」

「「「ハァーっ!!!」」」

 トーマスに言われて、おどろいていたらみんなが呆れていた。

 トムさんが言うには、ピアンタのリエール領にいたときでも、ペッパーは貴重で、従業員用の料理には年に数回しか使ってなかったそうだ。

 知らなかった……

「パール、ここで知り合った人たちはみんなお金持ちでひとりは、王太子ですよ!」

「そうだった……」

「これは、ダンジョンの奥でピアンタでもラメールでも取れるけど、奥まで行ってこんな細かいモノを取って持って帰るのが面倒だから少ないだけで、数はあるんだ」

「そうなのか?! マーク」

 トムさんがおどろいていた。

「ああ、昔から家族のお土産用に少し持って帰る者がいたな…… 小さいから、ギルドに売るまで集めるのはめんどくさいけど、家族に持って帰るとよろこぶし、自分が食べる食事がうまくなるからな…… それぐらいの量と冒険中に食べるモノにふるぐらいは集める者は案外いるんだよ。おれも冒険中のあいだは ガンガン砕いて食べていたぞ」

「もったいないですねーっ」

 トーマスが、嘆いている。

「おれは乾燥させてないモノを、めんどくさいから使っていたけどなっ!  あとは、年に何回かこれを取るだけの注文がギルドに入ってくるかな」

 へぇーっ。

 おいしいお肉をいただきながら、ペッパーについていろいろ教えてもらった。

 ペッパーには、黒、白、緑、ピンクがあるそうだ。

 全部同じ木から取れるそうで、取る時期や加工方法などで、呼び名や辛さが変わるとマークが教えてくれた。

「今度、取ってくるよ!」

「パール! 多めにお願いします!」

「わかった」

 おいしいお肉を食べたらトムさんが、リンゴの果汁をアイスボックスからだしてくれた。

 みんなで 一口飲んで。

「「「おいしいーっ!!」」」

 はっははは!

「冷たいし、うまいだろ? おまえたちが好きな味にブレンドしたんだ」

「お父さん、すごくおいしいわ」

「ホント、あっさりしているのに、甘酢ぱくて最高だよね!」

「料理長! がんばってブレンドした甲斐がありましたね!」

「ああ、これは、我が家秘伝のリンゴ果汁になるからな! トーマス、この味とレシピをしっかり覚えておくんだぞ!」

「はいっ!」

「宿屋オリジナルのリンゴ果汁になるんだ?」

「それはどうかな? リンゴ果汁に酒と同じ代金を出すヤツがいるか?」

「そんなにするの?」

「そら、売るとなったら儲けないと意味がないだろ?」

「そうか……」

「パール。お父さんたちが家族の者に作って出してくれた分は、なにも気にしないでいいわよ! おいしく食べればいいだけよ。 仕事とは違う家族の分なんだから、なに作ったってお金は受け取らないわよ。 そんなことよりも、おいしいかおいしくないか? 好きか苦手なのか?  教えてあげる方が、きっとよろこぶはずよ」

「そうですよ、パール! このリンゴ果汁だって、ボクたち家族みんなの好きな味に仕上げるのにホント苦労したんです!」

「そうなんだ。 これすごくおいしいから、いつでも飲めように持っていたいかな? ストックってある?」

「は、は、は! そうパールが言うと思って別にいっぱい作っておいたぞ! 全部持っていけ!」

「やったー! これで、リンゴの果汁とオレンジの果汁は最高のモノが手に入ったよ!」

「パール? オレンジ果汁は、ライ料理長のモノですか?」

「そうだよ。 これもあるときから、すごくわたし好みになっておどろいたんだ」

「パール、それはいま持っているのか? あるなら飲ませてくれ!」

 トムさんが食いついてきた。

 ライの料理長クラスの料理は、なかなか口にはできないそうだ。
 いい勉強になるんだというから、いっぱい出してみんなでオレンジ果汁を飲む。

「おいしいっ!」

 思いのほかシーナが、気に入ったようだった。

「お父さん、これおいしいわ! わたしの口にもすごく合う」

「ああ、そうだな。 おまえたちの好みだが……」

「料理長、これはどこのオレンジが使われているんでしょう? 素材の良さにおどろきますよね!?」

「ああ、そうなんだよ…… これは、思ってた以上に勉強になるな……」

 聞いてみると、トムさんたちもオレンジ果汁で試してみたそうだ。
 でもリンゴ果汁の方が、おいしいモノができそうなので、リンゴ果汁を極めたと話してくれた。


 果汁ひとつ作るのにもいろんな苦労があるんだな……

 わたしは果汁が、何種類あってもうれしいけどね!
 






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