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三章・チョウシュウ王子との婚約破棄編
43話・バクーフ王が襲われました!
しおりを挟むバクーフ王が襲撃された事を私はスララから知らされたの――。
バクーフ王宮からの帰り道でスララに出会って知る私は、スララライダーでまた王宮に引き返したわ。こんな時も、私以外のクエストクラスは動いていないからね。でも、この働きでバクーフ王にもある程度意見出来るようになれれば儲けもんよ!
(あの肌が衰えてる回復系のアラサー女も、口悪ロリババアの魔法使いも、体力が落ちてる戦士系のアラフォー男も、弓兵の帽子おじさんも全て出し抜いてやるわ)
このチャンスを生かして国の危機にしか動かない他のクエストクラスを出し抜こうと考えてもいたの。でも、王国全体も騎士団や住民がごちゃごちゃしてて進むに進めない状況でもあるわ。
「スララ試しに飛行モードになってみて! 少しの間でいいから空からショートカットしたいの!」
「ハヒ! おそらく三十秒も持たないでしょうがドラゴンの能力を活かしてやってみますです! ……スララン、スララン、スラランラ!」
ピカッ! と光るスララからドラゴンの羽が生えてスララライダーは、スカイスラライダーへ変化したの。夜の空を飛ぶ私達はバクーフ王宮に辿り着いたわ。流石にスララは疲れているから王宮の入口で休んでいてもらうの。
「ありがとうスララ。そこで少し休んでいて。バタードングリを渡しておくわ。食べて回復して」
「ハヒ! 後は頼みますアヤカ殿!」
スララにバタードングリの入った袋を渡して私は人がごった返している王宮内を駆ける。顔パスで通路の警備兵の横を抜けて行き、王の間に着いたわ。
「クエストクラス・悪役令嬢のアヤカです。入りますわバクーフ王」
すると、バクーフ王は長いヒゲを上下に動かしながらこの世が終わったような顔をしていたわ。王のベッドの横にはバクーフドクター達がいて診察をしている。家臣達もあたふたしてるわね。でも、そこまでのケガでも無かったようね。私に気付くバクーフ王は喜んでいたわ。
「おぉ、アヤカよ。よくぞ来てくれた! このバクーフ王を狙う不届き者が王国内にまだいるはずじゃ! チョウシュウ王国の人間か、動き出している魔王軍の人間かはわからんがひっ捕らえてくれ。婚約イベント最中にどえらい事をしてくれたもんじゃて」
「かしこまりました。早急にチョウシュウ王国の人間や魔王軍などの侵入者を捜索します。……スズカ姫は来ていないのですか?」
「スズカは来てないな。おそらく部屋にこもっているのだろう。こんな事件が起きては仕方ない。婚約イベントも台無しになってしまって可哀想じゃて」
「そうですね。では失礼します」
どうやら、バクーフ王は肩をレーザー魔法で撃ち抜かれただけのようね。今は回復魔法で治療してるので傷は完治してるけど、心はそうもいかないから青ざめた顔でいるわ。
その後、バクーフ騎士団の人間から現在の状況を聞いたの。今はバクーフ王国全体も緊張感が走り、騎士団は犯人探しに躍起になっていて大半は王国内を封鎖して警戒してる。残りはチョウシュウ王国への疑いから尋問をしに行っているの。
完全に封鎖されたバクーフ王国から犯人が逃げ出すのは難しいはずよ。まだ犯人が内部にいる限りはね。でも襲撃されてすぐ、バクーフ王が王国の空に緊急内壁封鎖の信号弾を上げたから外には逃げられていないはず。
「探せ! 探さねば怖くてこの夜を越えられぬぞ!」
と、バクーフ王は吠えてるようね。
(婚約破棄も大事だけど、チョウシュウ王国の兵に魔族がいる可能性もあるわね。騎士団の連中に尋問を任せていていいのかしら? 私はまずチョウシュウ王子に会おう。全てはそれからよ)
チョウシュウ王子は王宮内の部屋を出て、家臣達が宿泊する街にいるわ。現在はチョウシュウ王国の百を超える人間達に紛れて、魔族も入り込んでいるんじゃないか? という噂が立っているの。チョウシュウ王国の人間に対して外出禁止令が出ているわ。その説明を宿屋の二階でバクーフ騎士団の連中にチョウシュウ王子はしていたの。
「我がチョウシュウ王国は全130名全て揃っている。全て小生がデータ管理しているから間違い無い。このオンリースキルのマッスルブレインは正常に働いているよ。自信過剰なまでにね!」
「チョウシュウ王子。私も聞かせてもらうわよ」
「おぉ、アヤカ君。良い所に来てくれた。この騎士団の連中は我々を信じてくれなくてね。何度も言うが、この件においてチョウシュウは何も知らないし、何もしない。下手に動いて疑われても困るからね。しっかりコチラにも監視はつけてくれ。そして、チョウシュウの人間が犯人で無い事を証明してくれ」
「それはしてみせるけど、魔族と取り引きしていた事実がある以上疑われるのも仕方ないわよ。あの魔族の血で精製したマジックサプリは、バクーフ王国からすれば麻薬と同じ扱いになるからね。だからこそ、魔王軍との繋がりが疑われているの」
「なるほど。魔族との付き合いはあるから仕方ないね。けど、チョウシュウ王国が婚約と外交目的で来た事は証明されるはずだ。小生はそれを信じている」
「私もそう信じたいわチョウシュウ王子。……ここにいる騎士団はチョウシュウ王国の人間を監視して。守るつもりでね」
すると、バクーフ騎士団の一人が質問して来る。
「悪役令嬢様。それはどういう意味で?」
「そこの窓の外に敵がいるからよ。後は頼んだわよ!」
バクーフ王を狙ったらしき怪しげなスナイパーを発見したわ。窓の外の屋根から私かチョウシュウ王子をスコープしていたわ。私は二階の窓を突き破って衝撃魔法で空中を疾走したの!
(軍事演習を見ていて良かったわね。敵に長距離レーザー魔法があるなら、狙撃ポイントは絞られるからね。イーグルアイの魔法で外を監視しててビンゴよ!)
私はスナイパーを警戒して監視魔法・イーグルアイで宿屋の外を監視しつつ、チョウシュウ王子と話していたの。この部屋を狙うポイントは、向かい側の二階建て倉庫の屋根しかないからわかりやすかったけどね。
「もう逃げられないわよスナイパージョブの犯人! 悪役令嬢のアヤカが貴方を捕まえるわ!」
「……チッ! クエストクラスの悪役令嬢か!? これも定めというのか……」
敵の黒いフードマントを着ているスナイパージョブの男は顔を隠したまま、屋根の上を何軒もジャンプして渡っているわ。身体能力は高いわね。でも、私に背中を見せているのは致命的だわ。
「重力の牢獄よ……五体満足な罪人を罰せよ! グラビティウォール!」
グオオオオン……と重力魔法・グラビティウォールで、フードマントの男を重力で上から押さえつけて捕獲したわ。いきなりの高重力を受けて屋根の上に倒れている何も出来ない男に近寄る。まだフードで顔は見えないわ。
「重力を足だけにしていいのか? 両手が動けば魔法を使えるぜ?」
「それより、そのフードを外してくれる? 犯人の顔を拝む必要があるから」
「俺の顔を拝みたきゃ、自分で外す事だな。それとも、俺に近寄るのが怖いか?」
「余計な事は喋らない」
レーザー魔法で両腕を撃ち抜いたわ。奇声を上げて苦しんでるけど、今はあまり興奮しないわ。まだ拷問には早いしね。すると、男はフードで隠れる口元が笑っていたの。
「足が動けないなら、足などいらんよ」
「なっ――」
いきなり男は自分の足を手刀で切り落とそうとしていたわ。瞬時にその腕が動かないように重力をコントロールして腕を動かないようにするの!
「自分の足を切り落とそうなんていい度胸じゃない。危うく惚れそうになったわよ」
「それは光栄だな悪役令嬢。だーがダメだ。腕に重力魔法を動かす時間を利用させてもらったぜ。新たな我が身よ生まれ出せ! リバース……エンドォ!」
突如、口から青い液体を大量に吐き出した魔族の男は死に絶えたわ。血では無いようだけど、腐敗臭がして気持ち悪い。確かこの魔法は魔族特有の魔法ね……。
「何なの? 何かが生まれているわ……」
ズズズ……とおびただしい青い液体から、何かが生まれて行く。それは青い肌をした人の形になり、天の月を仰いでいるように手を上げて、新たなる誕生を喜んでいたの。死んだはずの魔族はまた蘇ったわ。私の重力魔法から解き放たれる為だけに--。
「重力魔法から逃れる為の魔法か。その裸じゃ逃げるのに目立つわよ。それに、次は全身を動けなくするわ。魔族の男」
「魔族と会った事があるのか? もう貴様には俺を捕まえるのは無理だ。それがこの世の定めだ悪役令嬢」
「青い肌の人間……それは魔族よ。その青い肌は魔族の証しよ。教科書にも載っているわ」
「そうか……なら俺の新たな誕生を祝え。今はただ祝ってくれればいいさ」
魔族の男は口から新しい自分を生み出していたの。この魔法は魔族特有の「身体錬成魔法・リバースエンド」ね。かなりの寿命を犠牲にして新しい身体を生み出す魔法。寿命が長くタフな魔族だからこそできる魔法ね。つまり、この男は魔族の中でもかなり強い部類に入るという事ね……。
「それだけの力を持ってるならただのスナイパージョブじゃないわね!? 貴方は魔王軍の誰なの?」
「俺は魔王軍のマグン……いや、何でもない」
「マグン? 待て! カマかけて正解だったけどもう少しヒントが欲しいわ……」
そのままマグンとか呟いたフードを被った男を追跡したわ。魔王軍というカマをかけたのも正解ね。この魔王軍の男がバクーフ王襲撃犯なのは間違い無いから!
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