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三章・チョウシュウ王子との婚約破棄編

42話・スズカのお見舞いに行きます

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 地面に転がっている愛用のぐるぐるメガネを気にする事も無く、チョウシュウ王子は飛来した石ころに当たったかも知れないスズカを心配しています。

「大丈夫かスズカ姫?  大きなケガは無さそうだ。おそらくスーパーレーザー魔法で弾かれた石がここまで飛んで来たんだろう。自信過剰な石ころだよ全く」

「王子様が守ってくれたので大丈夫ですわ。ありがとうございます王子様」

 おいーっ!
 ここでスズカはキスをしていたわ。
 この不意打ちのキスでチョウシュウ王子は骨抜きにされた顔をしている。ぐるぐるメガネを外したチョウシュウ王子がここまでイケメンなんて反則、超速のレッドカードでしょうに!  

 これは、ぐるぐるメガネに引いてた貴族令嬢達も黙っていないわよ。まさか、ぐるぐるメガネの下にこんなイケメンがいたなんて……。この件も問題だけど、飛んで来た石ころの件も問題よ!

(本当にスーパーレーザー魔法で貫かれた石が弾かれてここまで飛んで来たの?  いくらなんでもこれはあり得ないわ。人為的な何かを感じる……)

 そんな事を考えていると、スズカはチョウシュウ王子におんぶされていたの。

「ぽえ?」

 ふと、そんな声が出てしまう。何故、今おんぶされてるの?  という疑問しかないから。

「すみません王子様。私は足をねんざしたようです。本当に申し訳ないです」

「これは小生の責任でもある。軍事演習の見学者にケガをさせてしまったのは罪だ。おんぶして医者まで連れて行くよ。しっかりつかまるんだスズカ姫」

「はい。チョウシュウ王子」

 スズカは運悪く飛んで来た石ころによりケガをしてしまう。これによりスズカがかなり優位に立ってしまったわ。落ちた場所は土の上だし、あの女の身体能力なら大したダメージでも無い。計ったわね。

 でも、チョウシュウ王子もイケメンだったのね。あのぐるぐるメガネをしないと、かなりのイケメンという事が判明したわ。これはゲスでカスでヘドロな貴族令嬢達も黙ってられないでしょうね。

 そんな困惑してる所を落としにかかるしかないかな。スズカがケガをする作戦に出た以上、誰かを何かを利用して、私に惚れさせて婚約破棄まで持っていかないとね!





 チョウシュウ王国の軍事演習中に飛んで来た石ころのせいで足をねんざしたスズカは、バクーフ王国の医者に診てもらった後に私室で休んでいたわ。私はスズカの部屋の外で待機していて、チョウシュウ王子は室内のスズカのお見舞いに来ているの。

「今日は本当にすまなかったねスズカ姫。自信過剰に謝らせてもらうよ」

「自信過剰に謝られても困りますわチョウシュウ王子。私のケガはねんざ程度ですし、私が王子の側にいたいと言ったので責任は私にあります」

「なるほど。それでは今日はスズカ姫の好きなバタードングリアップルパイを持って来たよ。アヤカ君から聞いて、スズカ姫はこのデザートが好きだと言っていたからね」

 そう言って、チョウシュウ王子は袋から私の作ったバタードングリアップルパイを取り出してお皿にわけたわ。嬉しそうな顔をするスズカは、当然のように「あーん」を要求する。うーんウザいと思うのは、王子が照れながらあーんを実行する場面じゃなくて、このセリフ。

「看護婦さんに王子様の話をしてノロケていると言われます」

「なるほど!  でもスズカ姫。あまり言われると小生も照れてしまうよ。何せ恋をするのは初なものでね。情報というデータにしか興味が無かったから。友達もデータだけだったしね」

「友達思いなのですね。素敵です」

 データが友達で素敵?  意味がわからないわよ。またスズカはあーんを要求している。あーん、バカっぷりじゃなくバカップル!

 そして、ぐるぐるメガネを外しているチョウシュウ王子の顔を見てスズカはニッコリとヒロインスマイルをする。

「王子は大人でイケメンで頼りになります」

「自信過剰なセリフだねスズカ姫。小生はぐるぐるメガネをかけた方がカッコいいとも思うんだがね。他人の評価は難しいものだよ」

 そうして、二人は楽しそうに話をしていたわ。恋人同士のたわいもない会話のような話をね。少しすると、何故か会話が途切れて部屋が静かになったの。

(二人の間で沈黙が流れているわ……誰かが部屋に襲撃した気配は無い。二人はいきなり静かになって何をしてるのかしら……?)

 イマイチ何をしてるのかわからないまま時間は過ぎたわ。そうして二人の話は三十分ほど盛り上がり、チョウシュウ王子はスズカの部屋から出て来たわ。出てきた王子は私に気付くと一瞬、私から目をそらした。

(なるほど……って私は心の中で言う)

 おそらく、さっきの沈黙はキスをしてたんでしょう。だから私と顔を合わせられなかった。チョウシュウ王子は私の事も気に入っているからね。でも、その事はあえて口にしないわ。スズカにはスズカの、私には私の作戦があるからね。

「あらチョウシュウ王子。もうよろしくて?」

「あぁ、もうスズカも元気そうだよ。アヤカ君のバタードングリアップルパイも喜んでくれて良かった。ありがとう」

「いいのよ。私とスズカ姫は友達だからね。友達だからこそ、敵に塩を送るような行為もするわよ」

「なるほど。アヤカ君も自信過剰なほどスズカ姫を思っているんだね。心音を感じなくてもわかるよ。スズカ姫もアヤカ君も魅力的だ。せめて、スズカ姫の本当の心さえわかるなら……」

 そう言って、チョウシュウ王子は去って行ったわ。
 どうやら、チョウシュウ王子は本気でスズカの本心を知りたいようね。恋をしている王子は相手の心を知りたい。知れば、外交狙いという名目だけじゃない真の婚約者として認められて幸せになれるから。

(でも、婚約達成を目的とするヒロインモードである以上、スズカの本心なんて知る事は無い。それにスズカの本心を知っても王子は幸せにはなれない。だから私は婚約破棄させないとならないのよ……)

 そうして、今度は私がスズカの部屋に入る。ニコニコとヒロインスマイルをするスズカを一瞥し、ドス!  とイスに座ったわ。そうして悪役令嬢らしく冷たく言い放つの。

「スズカ姫。チョウシュウ王子の事が好きじゃないなら私に譲ってくれるかしら?」

「唐突ですねアヤカさん。チョウシュウ王子の事は好きですよ?  今は婚約予定者としてですが」

「そんな中途半端だから王子も迷ってるのよ。汚い女ね」

「誰もが自分を大事なのは当たり前じゃない」

 人の心や、意見を受け入れない強烈な意思の赤い瞳だわ。赤いのに真っ暗な空洞を感じる奈落の瞳。ヒロインモードの呪いの闇を感じる。けど、闇とは悪役令嬢の専売特許なのよ。

「そんな自分が安全地帯で傷付かない生き方が姫としての生き方なら、婚約しても幸せになんてなれないでしょうね。アナタは人に恋をする事も、愛する事も無いのだから」

「私だって、チョウシュウ王子の事を考えればドキドキもしますわよ」

 どうやってもスズカとは平行線だわ。
 ヒロインモードのスズカと噛み合う気がしない。絶対にね。だからこそ、悪役令嬢として潰してやるのよ。

「私が最後には王子の隣にいてみせるわよ。ヒロインは何もせず、ただ空気でも吸ってニキビのように不愉快な笑みを浮かべたまま、死人のように黙ってなさい」

 おもむろにイスから立ち上がり、私はスズカの私室を出た。今回の婚約破棄でスズカのヒロインモードをどうにかするのは難しいかもだけど、さっきのようにヒロインモードとしての言葉を吐かせればいい。

(このままヒロインモードとしての言葉を吐かせ続ければ、仮面がはがれてヒロインモードの呪いと対峙できるはず。その時が勝負よスズカ)

 そうして、私はアヤカハウスに帰宅したわ。その夜、バクーフ王国を騒がせる一大事が起きたの。
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