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お披露目での出来事
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ティモシオが生まれて数週間が過ぎたころ、セレスタ家の義母と親戚たちが、正式なお披露目のために屋敷を訪れることになった。
「奥様、支度は整っております。……緊張なさらずに」
侍女の言葉に、カタリーナは頷きながらも、胸の奥がざわつくのを感じていた。
緊張なさらずに……無理。。でも、やらなければ。。。
義母は貴婦人らしい気品と威厳を持つ女性であり、彼女にとっては“未だに緊張の対象”だった。
加えて今回は、レオナルドの親戚たちも数名同席すると聞いている。
まだ産後の体調も万全とは言えない中で、上品に、優雅に、間違いなく――
そう自分に言い聞かせて鏡の前に立った。
出迎えの場では、丁寧に挨拶を交わし、赤子を紹介した。
義母は、淡く微笑んで赤ん坊の顔を覗き込む。
「……穏やかな顔立ちですわね。セレスタ家の血の流れ、感じます」
「ありがとうございます。……まだ小さいですが、よく笑ってくれるんです」
そう答えながらも、カタリーナの喉はわずかに乾いていた。
昼食の席では、テーブルに並べられた料理を一通り説明し、客人たちの好みに気を配る。
カトラリーの位置、ナプキンの折り方、紅茶の濃さ──
一つ一つに注意を払った。
だが、親戚の一人がふと口にした。
昼食の席で、一人の親戚夫人がナプキンを膝に広げながら、微笑を浮かべて口を開いた。
「それにしても、奥様は華やかな方ですこと。……セレスタの屋敷に来られてから、少しお静かになられた?」
柔らかな声音。笑顔を伴ってはいたが、その言葉の奥には何層にも織り込まれた意図が潜んでいた。
微笑と共に投げかけられたその言葉に、カタリーナは一瞬だけ、呼吸が止まる気がした。
“以前は、もっと目立ちたがりだったのでは?”
“いまはようやく、おとなしくなってきたようね”
そんな婉曲な探りが含まれているのを、カタリーナは敏感に察した。
目をそっと横に向けると、レオナルドがいた。
ほんの数歩離れたところで、兄弟や従妹たちと談笑していた。
彼はその言葉を聞いていた。
それは明らかだった。グラスに注がれるワインの手が、ほんの一瞬、止まったからだ。
けれど彼は何も言わなかった。
そのまま笑顔を崩さずに、兄の言葉に頷き、話の輪へと戻っていった。
カタリーナの胸の奥に、何かがそっと沈んだ。
(……やっぱり、こんな時でも見なかったことにするのね)
それは、怒りではなかった。
ただ、ただ、静かに――どこかで期待していた自分が、少し哀れに思えた。
その瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。
けれど彼女は、表情一つ変えず、やわらかな笑みをたたえて返した。
「お屋敷に合わせて、落ち着いた装いを心がけているのです。……ありがたいことに、赤子の世話も日々忙しくて」
今日は、控えめなアイボリーのドレスに、母から贈られた繊細な金糸刺繍のショールを羽織っていた。
髪は清楚にまとめ上げ、飾りは小さな髪留めひとつだけ。
華やかすぎないように
――けれど、どこかに自分らしさを宿せるようにと心を込めて選んだ装いだった。
(また、そう思われたのね……わたしが、派手だって)
一瞬、心が揺れた。
それでもこの家に嫁いだ日のことを思い出し、ぎゅっと背筋を伸ばす。
騒がしくなくていい。けれど、誰にも負けない気品を
それが、カタリーナがこの家で選んだ自分の立ち方だった。
(わたしは変わった。そう簡単に、外見だけで決めつけられたくはない)
彼女の顔立ちは、目鼻立ちがくっきりと整っていて、何もしなくても“華やか”“派手”と評されることが多かった。 けれどその印象は、カタリーナの心の内とはあまりにかけ離れていた。
本当は人の目を引くのが得意ではない。
穏やかに、控えめに、誰かの隣にそっと寄り添うことが好きだった。
それでも、社交の場では見られる役割を求められ、いつしかそれが自分の印象として定着してしまった。
そんな中、ティモシオを抱くと、場の空気は少しやわらいだ。
小さな手を動かしながらあくびをしたその仕草に、義母も思わず微笑む。
「……赤ん坊は、家の空気を変えますわね」
そう呟いた義母は、ティモシオの小さな顔をじっと見つめたまま、ふと目元を細めた。
それは、どこか懐かしさと、遠い過去を思い返しているようなまなざしだった。
「この屋敷も昔は、もう少し騒がしかったんですよ。
子どもたちが走り回って、庭の噴水に飛び込んだことも……」
ふっと笑ったその横顔は、いつもの厳しさよりも少しだけ、やわらかい。
「けれど時が経てば、静けさが戻ってきます。良くも悪くも、ですわね。
だからこそ、こうしてまた、小さな命がこの家に笑い声をもたらしてくれること……とても、ありがたいことです」 カタリーナは、思わず息をのんだ。
この義母から、こんな風に感情を語られるとは、思っていなかった。
威厳の中にわずかに滲んだ、母としてのぬくもり。
それは決して多くを語らない義母だからこそ、重みを持って感じられた。
カタリーナは思う。
──この人も、レオナルドを育ててきた母なのだと。
これまで近寄りがたく思っていた距離が、ふとした瞬間に、ほんの少し縮んだ気がした。
親戚たちの賑やかな会話が後ろで続く中、
義母はしばらくのあいだ、黙って赤子の寝顔を見つめていた。
やがて、静かに席を立ち、カタリーナに軽く会釈をした。
その場を立ち去る前に、カ義母はしばらく赤子の寝顔を見つめたあと、静かに席を立ち、
その場を立ち去る前に、カタリーナの方を向いて言った。
「……この子を、こんなにも穏やかに育ててくださって。……ありがとう」
目は細められていて、言葉は控えめながらも、
そこには、確かに“あなたを家族として認めつつある”想いが込められていた様に感じた。
たったそれだけの言葉。
けれど、それは確かな想いのこもったものだった。
カタリーナは深く礼を返し、そしてようやく、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
まだ、完璧じゃなくてもいい。
でも、今日を丁寧に越えられたこと。それが今の私の誇り。
そんな想いが、胸の奥に小さく灯っていた。
ティモシオがくしゅんとくしゃみをすると、場の空気がやわらぎ、親戚たちの笑い声がふわりと広がる。
ああ、たしかに。
赤ん坊は、家の空気を変えてくれる。。
そう思いながら、カタリーナはもう一度、寝息をたてるわが子を見つめた。
「奥様、支度は整っております。……緊張なさらずに」
侍女の言葉に、カタリーナは頷きながらも、胸の奥がざわつくのを感じていた。
緊張なさらずに……無理。。でも、やらなければ。。。
義母は貴婦人らしい気品と威厳を持つ女性であり、彼女にとっては“未だに緊張の対象”だった。
加えて今回は、レオナルドの親戚たちも数名同席すると聞いている。
まだ産後の体調も万全とは言えない中で、上品に、優雅に、間違いなく――
そう自分に言い聞かせて鏡の前に立った。
出迎えの場では、丁寧に挨拶を交わし、赤子を紹介した。
義母は、淡く微笑んで赤ん坊の顔を覗き込む。
「……穏やかな顔立ちですわね。セレスタ家の血の流れ、感じます」
「ありがとうございます。……まだ小さいですが、よく笑ってくれるんです」
そう答えながらも、カタリーナの喉はわずかに乾いていた。
昼食の席では、テーブルに並べられた料理を一通り説明し、客人たちの好みに気を配る。
カトラリーの位置、ナプキンの折り方、紅茶の濃さ──
一つ一つに注意を払った。
だが、親戚の一人がふと口にした。
昼食の席で、一人の親戚夫人がナプキンを膝に広げながら、微笑を浮かべて口を開いた。
「それにしても、奥様は華やかな方ですこと。……セレスタの屋敷に来られてから、少しお静かになられた?」
柔らかな声音。笑顔を伴ってはいたが、その言葉の奥には何層にも織り込まれた意図が潜んでいた。
微笑と共に投げかけられたその言葉に、カタリーナは一瞬だけ、呼吸が止まる気がした。
“以前は、もっと目立ちたがりだったのでは?”
“いまはようやく、おとなしくなってきたようね”
そんな婉曲な探りが含まれているのを、カタリーナは敏感に察した。
目をそっと横に向けると、レオナルドがいた。
ほんの数歩離れたところで、兄弟や従妹たちと談笑していた。
彼はその言葉を聞いていた。
それは明らかだった。グラスに注がれるワインの手が、ほんの一瞬、止まったからだ。
けれど彼は何も言わなかった。
そのまま笑顔を崩さずに、兄の言葉に頷き、話の輪へと戻っていった。
カタリーナの胸の奥に、何かがそっと沈んだ。
(……やっぱり、こんな時でも見なかったことにするのね)
それは、怒りではなかった。
ただ、ただ、静かに――どこかで期待していた自分が、少し哀れに思えた。
その瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。
けれど彼女は、表情一つ変えず、やわらかな笑みをたたえて返した。
「お屋敷に合わせて、落ち着いた装いを心がけているのです。……ありがたいことに、赤子の世話も日々忙しくて」
今日は、控えめなアイボリーのドレスに、母から贈られた繊細な金糸刺繍のショールを羽織っていた。
髪は清楚にまとめ上げ、飾りは小さな髪留めひとつだけ。
華やかすぎないように
――けれど、どこかに自分らしさを宿せるようにと心を込めて選んだ装いだった。
(また、そう思われたのね……わたしが、派手だって)
一瞬、心が揺れた。
それでもこの家に嫁いだ日のことを思い出し、ぎゅっと背筋を伸ばす。
騒がしくなくていい。けれど、誰にも負けない気品を
それが、カタリーナがこの家で選んだ自分の立ち方だった。
(わたしは変わった。そう簡単に、外見だけで決めつけられたくはない)
彼女の顔立ちは、目鼻立ちがくっきりと整っていて、何もしなくても“華やか”“派手”と評されることが多かった。 けれどその印象は、カタリーナの心の内とはあまりにかけ離れていた。
本当は人の目を引くのが得意ではない。
穏やかに、控えめに、誰かの隣にそっと寄り添うことが好きだった。
それでも、社交の場では見られる役割を求められ、いつしかそれが自分の印象として定着してしまった。
そんな中、ティモシオを抱くと、場の空気は少しやわらいだ。
小さな手を動かしながらあくびをしたその仕草に、義母も思わず微笑む。
「……赤ん坊は、家の空気を変えますわね」
そう呟いた義母は、ティモシオの小さな顔をじっと見つめたまま、ふと目元を細めた。
それは、どこか懐かしさと、遠い過去を思い返しているようなまなざしだった。
「この屋敷も昔は、もう少し騒がしかったんですよ。
子どもたちが走り回って、庭の噴水に飛び込んだことも……」
ふっと笑ったその横顔は、いつもの厳しさよりも少しだけ、やわらかい。
「けれど時が経てば、静けさが戻ってきます。良くも悪くも、ですわね。
だからこそ、こうしてまた、小さな命がこの家に笑い声をもたらしてくれること……とても、ありがたいことです」 カタリーナは、思わず息をのんだ。
この義母から、こんな風に感情を語られるとは、思っていなかった。
威厳の中にわずかに滲んだ、母としてのぬくもり。
それは決して多くを語らない義母だからこそ、重みを持って感じられた。
カタリーナは思う。
──この人も、レオナルドを育ててきた母なのだと。
これまで近寄りがたく思っていた距離が、ふとした瞬間に、ほんの少し縮んだ気がした。
親戚たちの賑やかな会話が後ろで続く中、
義母はしばらくのあいだ、黙って赤子の寝顔を見つめていた。
やがて、静かに席を立ち、カタリーナに軽く会釈をした。
その場を立ち去る前に、カ義母はしばらく赤子の寝顔を見つめたあと、静かに席を立ち、
その場を立ち去る前に、カタリーナの方を向いて言った。
「……この子を、こんなにも穏やかに育ててくださって。……ありがとう」
目は細められていて、言葉は控えめながらも、
そこには、確かに“あなたを家族として認めつつある”想いが込められていた様に感じた。
たったそれだけの言葉。
けれど、それは確かな想いのこもったものだった。
カタリーナは深く礼を返し、そしてようやく、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
まだ、完璧じゃなくてもいい。
でも、今日を丁寧に越えられたこと。それが今の私の誇り。
そんな想いが、胸の奥に小さく灯っていた。
ティモシオがくしゅんとくしゃみをすると、場の空気がやわらぎ、親戚たちの笑い声がふわりと広がる。
ああ、たしかに。
赤ん坊は、家の空気を変えてくれる。。
そう思いながら、カタリーナはもう一度、寝息をたてるわが子を見つめた。
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