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新しい命
穏やかな陽射しが、窓辺のカーテンを透かして揺らしていた。
開け放たれた窓からは、ふわりと草花の香りが漂い、
子どもの笑い声が、微かに風に乗って届く。
カタリーナは、軽やかに揺れるカーテンの影に腰を下ろし、胸元にそっと手を当てていた。
(……また、この感覚)
ここ数日、ふいに襲ってくる微かな吐き気と眩暈。
朝の空腹が続く一方で、好きだった香草の匂いを嫌うようになっていた。
そしていまも、胸の奥で小さく脈打つような温もり。
思い返せば、ティモシオを身ごもったときと、どこか似ていた。
怖さと、戸惑いと、かすかな喜びが胸に湧き上がる。
けれど、前とは違う。前回は、孤独だった。
不安も、希望も、ただ胸の中で押し込めていた。
今は─隣にいる。まだ不器用だけれど、確かに変わろうとしている夫が。
妊娠に気づく前から、レオナルドは少しずつ変わり始めていた。
家族での朝食や中庭の散歩、時折の外出にも顔を出すようになり、
カタリーナやティモシオと過ごす時間が確かに増えていた。
それはまるでようやく本当の意味で“家族”になっていけるかもしれない、そう思わせてくれるほどだった。
「……また、家族が増えるのかもしれない」
思わず口をついたその言葉が、やわらかく風に溶けていった。
その夜、カタリーナはレオナルドに話すことを決めた。
眠るティモシオの頬にキスを落とし、そっと寝室の扉を閉める。
「……少し、話があるの」
執務を終えたばかりのレオナルドが顔を上げる。
その表情には驚きと、どこかかすかな不安があった。
「……どうした?」
カタリーナは静かに椅子に腰を下ろし、深呼吸を一度。
その仕草を、レオナルドは黙って見守っていた。
「たぶん……赤ちゃんができたの。まだ確かじゃないけれど、きっと」
一瞬、部屋の空気が止まったように思えた。
そしてレオナルドの顔に、ゆっくりと影が落ちていく。
「そうか……」
ただ、その一言。
けれど、その低い声には言葉にできないほど多くの感情が詰まっていた。
「大丈夫か? 身体は……無理はしていないか?」
カタリーナの胸がかすかに震えた。
ティモシオのときには聞けなかった言葉だ。
あの時、ひとりで耐えていた問いかけを今、初めて口にしてくれた。
「大丈夫。……でも、驚いた?」
「……そうだな。けれど、うれしい。……今度は、最初からそばにいる」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
(この想いを……ようやく信じてもいいのかもしれない)
カタリーナは微笑もうとしたが、その目には静かな涙が滲んでいた。
そっと手を重ねたとき、指先が震えていた。
レオナルドはそれに気づいて、黙って彼女の手を握りしめた。
「ありがとう、カタリーナ。……家族を、また迎えられることが、本当にうれしい」
その声はまだ不器用で、どこか照れくさそうだった。
けれど、そこには確かに、父と夫の想いが宿っていた。
新たな命が、ふたりの距離をまた少しだけ、近づけてくれる気がした。
****
翌日、カタリーナは医師を屋敷に招き、静かに診察を受けた。
少し緊張した面持ちで寝台に腰をかけた彼女に、医師は丁寧に脈を取り、優しく問診を重ねる。
「おそらく間違いありません。お体の状態も安定していますし…ご懐妊ですね、おめでとうございます奥様」
その言葉に、カタリーナの胸が熱くなった。
やはりこの子は、私の中で生き始めている。
医師は続けて、今後の過ごし方や食事、安静にすべき時期などを丁寧に説明してくれた。
医師の来訪を知っていたレオナルドは、その時間帯に合わせて外出を控え、執務室で書類に目を通していた。
気にはなっていたが、余計な口出しは控えた方が良いと判断し、静かに報せを待っていた。
やがて、執事が静かに扉を叩き、知らせを持ってくる。
「奥様の診察が終わりました。……すぐに、お顔をお見せいただけますかと」
その言葉に、レオナルドはすぐさま立ち上がり、書類を閉じると、ためらいなく部屋を後にした。
「どうだった?」
その声はかすかに緊張していたが、カタリーナが微笑んでうなずくと、ようやく安堵の色が浮かんだ。
「やっぱり……赤ちゃん、できてたって」
「……そうか」
言葉を口にしながらも、レオナルドはしばし目を伏せた。
じわりと胸の奥に広がるものがあった。
二人目ができたのか。
家族が、またひとり増える。
信じがたいような喜びが、静かに、しかし確かに彼の胸に満ちていく。
あの夜、カタリーナとティモシオと手を繋いで眠った日々が、
少しずつかけがえのないものになっていたことを、あらためて思い出す。
(ティモシオに……どう伝えようか)
その無垢な笑顔を想像しただけで、胸が熱くなる。
家族の時間が、未来へと続いていく。その実感が、ようやく心に根づき始めていた。
言葉は少なかったが、レオナルドの手がそっと彼女の肩に添えられた。
その手のぬくもりに、カタリーナは静かに目を閉じた。
小さな命が宿ったことは、確かにふたりにとって、新しい朝の始まりだった。
開け放たれた窓からは、ふわりと草花の香りが漂い、
子どもの笑い声が、微かに風に乗って届く。
カタリーナは、軽やかに揺れるカーテンの影に腰を下ろし、胸元にそっと手を当てていた。
(……また、この感覚)
ここ数日、ふいに襲ってくる微かな吐き気と眩暈。
朝の空腹が続く一方で、好きだった香草の匂いを嫌うようになっていた。
そしていまも、胸の奥で小さく脈打つような温もり。
思い返せば、ティモシオを身ごもったときと、どこか似ていた。
怖さと、戸惑いと、かすかな喜びが胸に湧き上がる。
けれど、前とは違う。前回は、孤独だった。
不安も、希望も、ただ胸の中で押し込めていた。
今は─隣にいる。まだ不器用だけれど、確かに変わろうとしている夫が。
妊娠に気づく前から、レオナルドは少しずつ変わり始めていた。
家族での朝食や中庭の散歩、時折の外出にも顔を出すようになり、
カタリーナやティモシオと過ごす時間が確かに増えていた。
それはまるでようやく本当の意味で“家族”になっていけるかもしれない、そう思わせてくれるほどだった。
「……また、家族が増えるのかもしれない」
思わず口をついたその言葉が、やわらかく風に溶けていった。
その夜、カタリーナはレオナルドに話すことを決めた。
眠るティモシオの頬にキスを落とし、そっと寝室の扉を閉める。
「……少し、話があるの」
執務を終えたばかりのレオナルドが顔を上げる。
その表情には驚きと、どこかかすかな不安があった。
「……どうした?」
カタリーナは静かに椅子に腰を下ろし、深呼吸を一度。
その仕草を、レオナルドは黙って見守っていた。
「たぶん……赤ちゃんができたの。まだ確かじゃないけれど、きっと」
一瞬、部屋の空気が止まったように思えた。
そしてレオナルドの顔に、ゆっくりと影が落ちていく。
「そうか……」
ただ、その一言。
けれど、その低い声には言葉にできないほど多くの感情が詰まっていた。
「大丈夫か? 身体は……無理はしていないか?」
カタリーナの胸がかすかに震えた。
ティモシオのときには聞けなかった言葉だ。
あの時、ひとりで耐えていた問いかけを今、初めて口にしてくれた。
「大丈夫。……でも、驚いた?」
「……そうだな。けれど、うれしい。……今度は、最初からそばにいる」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
(この想いを……ようやく信じてもいいのかもしれない)
カタリーナは微笑もうとしたが、その目には静かな涙が滲んでいた。
そっと手を重ねたとき、指先が震えていた。
レオナルドはそれに気づいて、黙って彼女の手を握りしめた。
「ありがとう、カタリーナ。……家族を、また迎えられることが、本当にうれしい」
その声はまだ不器用で、どこか照れくさそうだった。
けれど、そこには確かに、父と夫の想いが宿っていた。
新たな命が、ふたりの距離をまた少しだけ、近づけてくれる気がした。
****
翌日、カタリーナは医師を屋敷に招き、静かに診察を受けた。
少し緊張した面持ちで寝台に腰をかけた彼女に、医師は丁寧に脈を取り、優しく問診を重ねる。
「おそらく間違いありません。お体の状態も安定していますし…ご懐妊ですね、おめでとうございます奥様」
その言葉に、カタリーナの胸が熱くなった。
やはりこの子は、私の中で生き始めている。
医師は続けて、今後の過ごし方や食事、安静にすべき時期などを丁寧に説明してくれた。
医師の来訪を知っていたレオナルドは、その時間帯に合わせて外出を控え、執務室で書類に目を通していた。
気にはなっていたが、余計な口出しは控えた方が良いと判断し、静かに報せを待っていた。
やがて、執事が静かに扉を叩き、知らせを持ってくる。
「奥様の診察が終わりました。……すぐに、お顔をお見せいただけますかと」
その言葉に、レオナルドはすぐさま立ち上がり、書類を閉じると、ためらいなく部屋を後にした。
「どうだった?」
その声はかすかに緊張していたが、カタリーナが微笑んでうなずくと、ようやく安堵の色が浮かんだ。
「やっぱり……赤ちゃん、できてたって」
「……そうか」
言葉を口にしながらも、レオナルドはしばし目を伏せた。
じわりと胸の奥に広がるものがあった。
二人目ができたのか。
家族が、またひとり増える。
信じがたいような喜びが、静かに、しかし確かに彼の胸に満ちていく。
あの夜、カタリーナとティモシオと手を繋いで眠った日々が、
少しずつかけがえのないものになっていたことを、あらためて思い出す。
(ティモシオに……どう伝えようか)
その無垢な笑顔を想像しただけで、胸が熱くなる。
家族の時間が、未来へと続いていく。その実感が、ようやく心に根づき始めていた。
言葉は少なかったが、レオナルドの手がそっと彼女の肩に添えられた。
その手のぬくもりに、カタリーナは静かに目を閉じた。
小さな命が宿ったことは、確かにふたりにとって、新しい朝の始まりだった。
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