鳥籠の花嫁~夫の留守を待つ私は、愛される日を信じていました

吉乃

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少しずつ解けていく

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食後、控えの間での茶の時間となった。
義母は小さくスプーンをかき混ぜながら、ふと声を落とすように言った。

「カタリーナ様。……あなた、随分と落ち着かれましたわね」

それが褒め言葉なのか、皮肉なのか、判断がつかない。

けれどカタリーナは微笑を絶やさず、返した。

「ありがとうございます。おかげさまで、ようやく“家族”というものが、少しずつ分かってきた気がいたします」

義母はふと眉を動かしたが、それ以上何も言わなかった。

あの言葉を、まさかこの子の口から聞く日が来るとは。
心の奥に沈めていた思いが、ひとしずく波紋を広げるように揺らいだ。
この家にふさわしい女かどうか、ずっと見定めてきた。
口には出さずとも、彼女がどこまで務まるのか、見極めようとしてきた。
その一方で、義母自身もまた、長年の伝統と誇りの中で、柔らかさを失いかけていたのかもしれない。
 
今、目の前で静かに誇りを語るその姿に、かすかな驚きと、ほんの一滴の尊敬が芽生えたことを、彼女はまだ自分でも気づいていなかった。

あの微かな表情の変化は、何を思ったのかしら。
驚き? 呆れ? それとも……少しだけ、認めてくれたの?

昔の私なら、今のこの空気に押し潰されていた。
けれど今は違う。
彼女の沈黙すら、私の中では小さな歩み寄りに感じられた。

遠くから聞こえるリヴィオの泣き声と、それに続く乳母のなだめる声。
その音に、カタリーナはそっと耳を傾けた。

私の居場所は、確かにここにある。
ここで過ごしてきた日々のひとつひとつが、私を形作ってきた。
まだ不完全かもしれないけれど、確かに私はここに根を下ろしたのだ。

たとえ、まだ認められないとしても。
たとえ、何度でも背を向けられても。

母として、妻として、私はこの家を守っていく。

そう、静かに決意するように、彼女はカップを口に運んだ。

しばらくの沈黙のあと、義母がふと視線を向けてきた。
「……私も昔は、あなたのような若さに戸惑ったものです。
何かを守るということが、こんなにも重く、そして尊いものだと気づいたのは、ずっとあとになってからでした」

 カタリーナは目を見開き、思わず義母の言葉を確かめるように見つめた。

「それは……」

 義母はそっと茶を口に含み、目を伏せながら続けた。
「あなたがこの家に来た日、私は正直、納得していたわけではありませんでした。けれど……今は、あなたがここにいる理由が、少しだけ分かってきた気がいたします」

カタリーナの胸に、温かなものがじんわりと満ちていく。

認めてほしいと、ずっとどこかで願っていたのかもしれない。
けれど、それを口にすることは、ずっと自分の弱さだと思っていた。
家族として、母として、妻として、ただ努めていれば、いつか分かってもらえる。そう信じてきた。

今、この言葉を聞けたことで、長く張り詰めていた何かが、ようやくほどけていく気がした。
やっと、本当に対話が始まった気がした。

「ありがとうございます。……私も、ようやくこの家の空気に馴染めるようになった気がしています」

二人は、長い沈黙のあと、はじめてほんのわずかに笑みを交わした。

その夜、いつもより少しだけ和やかな空気が、屋敷を包んでいた。
ティモシオが食後の絵本を片手にリヴィオの隣で座り、簡単な物語を読んであげている。
「お父様、見てて」と誇らしげに言う息子に、レオナルドが静かに頷く。

(実はこの日、レオナルドは使者から届いた急報によって、一時帰還を許されていた。長期の政務出張のさなか、親族の集いの報せを受けて、わずか半日の滞在でも顔を出すべきだと判断したのだ。
夜には再び出発するとはいえ、こうして短い時間でも家族と過ごすことができた)

彼のまなざしは、わずかな疲れをにじませながらも、確かに家族の温もりを映していた。

リヴィオは意味もわからぬままに、兄の声に合わせて小さく笑った。

こんな時間が、いつまでも続いてくれたら。
カタリーナはそっと、揺れる灯火の向こうに、家族の影を見つめていた。

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