鳥籠の花嫁~夫の留守を待つ私は、愛される日を信じていました

吉乃

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関係が崩れる時

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カタリーナは、胸の奥に灯った小さな希望を抱きながらも、足取りを重くして応接間へ向かった。
今日、レオナルドと話し合わなければならない。

義母が訪れたあの日、冷たく告げたソフィアの妊娠と、第一婦人に据える計画──
カタリーナは、それをレオナルド自身の口からどう受け止めるのか、確かめなければならなかった。

自ら、レオナルドに話があると声をかけ、応接間へ向かった。
扉を開けると、レオナルドはすでに待っていた。
深く疲れた面持ちで、カタリーナに視線を向ける。

「……何かあったのか? 話とは……?」

彼の声はかすかに掠れていた。

カタリーナは静かに席に着き、正面から彼を見据えた。

「義母様から、すべて聞きました。ソフィアが妊娠したことも、子どものことも。」

レオナルドは苦しげに目を伏せる。

カタリーナは続けた。

「あなたは……どうしたいの?」

問いかけは静かだったが、その一言に込めた想いは重かった。

レオナルドはしばらく黙っていた。指先を組み、深く考え込むように俯く。

「俺は……家を守らなければならない。」

ようやく絞り出したその言葉に、カタリーナの胸が痛んだ。
また家。義母と同じ。

「子どもたちは? ティモシオとリヴェルは、あなたにとって何なの?」

静かな声で、カタリーナは問うた。
レオナルドは、苦しげに目を閉じたまま答えた。

「……大切だ。俺の、かけがえのない子どもたちだ。」

カタリーナは深く息を吸い、そして吐き出した。

「なら、どうしてあの子たちの未来を、そんなにも軽く扱えるの?」

カタリーナは怒りを抑えながら言葉を続けた。
「あなたは、結局お義母様には口答えができないんじゃない? 家を守ると言うばかりで、子どもたちの気持ちも無視して、すべてお義母様の言いなり……。」

レオナルドは返す言葉を失い、沈黙した。

カタリーナはそっと目を閉じた。

(この人はもう、何も守れない。)
(もう、この人のことは何も信用できない。今まで信じようとしていた私がばかだった。)

心のどこかで、答えは出ていた。
それでも、最後に望みをかけて尋ねた。

「私とティモシオたち、そしてお義母様とソフィア──あなたは、どちらを選ぶの?」

レオナルドは、答えなかった。
ただ、深く、深く俯いていた。

静寂の中で、カタリーナは静かに立ち上がった。
その手には、もう迷いはなかった。

(これが答え。)

暖炉の火が、わずかに揺れた。

カタリーナは扉へ向かいながら、振り返らずに告げた。

「あなたが答えられないのなら──私は、ティモシオたちと共にこの家を出て行きます。」

その宣言に、レオナルドははっと顔を上げた。

「待ってくれ、カタリーナ……!」

苦しげな声が背後から追いかける。

けれど、カタリーナはもう振り返らなかった。

(私たちの未来を、自分たちの手で守らなければならない。)

扉を静かに閉じると、カタリーナの胸に決意だけが残った。


***

静かなる決別

数日後、子どもたちを連れてリベルタ家へ移ったカタリーナは、
リベルタ家の静かな書斎にいた。

カタリーナは、机の上に置かれた一通の書状を見つめていた。
それは、正式な別居の申し入れだった。

リベルタ家の弁護士と父が協力してまとめた文書は、
淡々と事実を述べ、感情を交えず、ただ子どもたちと共にリベルタ家の別宅で暮らす旨を丁重に伝えるものだった。

カタリーナは、震える手でペンを取り、署名をした。
筆跡は少し揺れたが、それでもしっかりと書き終えた。

(これでいい。)

子どもたちを守るために。
自分自身を守るために。
守ってくれないのなら、私がしっかりしなければ。
そして、これからの未来のために。

「お願いします。」

カタリーナは書状を封筒に収め、父へと手渡した。

父は黙ってそれを受け取り、力強く頷いた。
「すぐにセレスタ家へ届けよう。」

カタリーナはそっと目を閉じた。
胸の奥に冷たい痛みが広がる。

数日後。

応接間にレオナルドが訪れた。

彼の顔は疲れきっていた。

書状を受け取った後、彼は何度も何度もためらい、ようやくここへ来たのだろう。

カタリーナは静かに頭を下げた。

「今日から、子どもたちと共にリベルタ家の別宅で暮らします。」

レオナルドは、苦しそうに口を開いた。

「……本当に、それしか道はないのか。」

カタリーナは、彼を見つめた。
その瞳に揺れはなかった。

「これは、家族を守るための最善です。」

カタリーナはさらに静かに、けれど確かに言葉を重ねた。
「そして、あなたには分からないの? あの家にいることで、ティモシオたちがどんな目で見られていくのかが。ソフィアさんを第一婦人として受け入れるのでしょう? それを決めたのはあなたじゃない。」

静かな声だった。
けれど、その決意は確かだった。

レオナルドは、何も言えなかった。
ただ、拳を震わせながら俯くことしかできなかった。

その夜。

カタリーナは、子どもたちに優しく語りかけた。

「これから、少しだけ新しい場所で暮らすの。でも、心配しなくていいわ。お母様はいつも、あなたたちのそばにいるから。」

ティモシオも、リヴェルも、不安そうに頷きながら、カタリーナの手をぎゅっと握り締めた。

暖炉の火が静かに揺れていた。

新しい未来へ向かって、歩き出すために。



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